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【完結】数年前に亡くなったお祖母様が冷血侯爵との結婚を勧めてくる  作者: 秋色mai @コミカライズ企画進行中


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14/20

14. 幽霊って一体?



「……あれから変わった」


 いつものように裏山の小屋を訪ねてきたベネディクト様がいつもと違った風に報告してくる。

 うん。私も気になって見に行ったけど、なんか屋敷全体が桃色に包まれていた。もう夏も終わりかけだというのに、春かと勘違いするほどだった。

 私が目撃したのは、鼻歌で洗濯物を干すランドリーメイド、陽気にタップダンスをする門番。渡り廊下ですれ違ったメイド長と執事長は手を取り合ってぐるぐる回っていたし、屋敷内からは一組の壮年の男女のやわらかい笑い声が聞こえてきていた。冷血無慈悲な侯爵家どこに行った。


「ベネディクト様、混乱してますね」

「ああ」

「大丈夫。正常です」


 我が家が競馬で大穴を当てて大金を得たとかなら、まだわかる。元々お気楽だし、貧乏だから使用人との距離も近いし。でも貴族の見本のような侯爵家があの状態って、一体どれだけ抑圧されていたんだか。


「まあ一件落着ということで?」

「ああ。礼をしたいと」


 不法侵入の詐欺師にお礼って何だ。ベネ父母の浮かれ具合が想像できる。


「落ち着いてから行きます」

「その方がいいだろうな」


 私としてはベネディクト様が苦しんでなければいいというか、それよりもお祖母様の方が気になる。このまま上半身だけになったらどうしよう。ちょっと見てみたいような、心臓に悪いような。


「?」

「いや……なんでもないんですけど」


 あと、もしかしてあの世に戻るのか、とか。

 最初困ってはいたけど、我が国で幽霊というものは恐怖ではなく付加価値だ。それだけ古い歴史を持つのだと誇る事や話題として楽しむこともある。だからそんなに驚きはしなかったし、私の人生の中ではお祖母様が生きていた時の方がずっと長いから、何とも思っていなかった。


 お祖母様は、私の結婚相手を見つけるために化けて出てきた。

 これは合っている。けど、これだけじゃない。だってそれはもう最初に達成されていて、見届ける必要もないほどだ。

 お祖母様に直接聞いても答えてくれない。多分、私一人じゃわからない。


「……何か悩んでいるのなら、話してほしい」


 ベネディクト様が私を覗き込む。頼り甲斐がないだろうかって……そんなことはない。ただ、私が後ろめたいだけ。

 ほんの少しだけ優しくしていたのが下心だって思われたくない。お祖母様に言われた通りに結婚したくて、一緒にいただとか思われたくない。

 ベネディクト様はそんなこと思わないってわかってる。だけど、もしもそんな風に思われたら嫌だ。


「腹でも痛いのか?」


 私がいつものように応えないからって、本当に心配している様子で、オロオロして、出てきた言葉がこれ。

 お祖母様が宙で笑っている。私もつられて笑った。


「笑っ……毒か?」

「違います。今日はきのこ食べてませんよ」


 ワライタケをおいしそうって言ったのはベネディクト様の方でしょう。


「……お祖母様の幽霊が視えているって言ったら、信じます?」


 冗談のような言い方に不安を隠した。

 ベネディクト様が固まる。右見て左見て、自分の身を守るように安全確認。流石お祖母様、死後も警戒されてますね。

 それからベネディクト様は深くうなずいて、私の目を見た。


「無論、信じる」


 ──どこにいるんだ? ここか?


 目線だけでキョロキョロしているベネディクト様を避けながら、スケッチブックに書くお祖母様。相変わらず性格が悪うございますね。


「視えないですか」

「ああ」


 それでもしょげてくれるような人だというのに、全くお祖母様ときたら。


「言わなかったこと、怒ります?」

「怒る理由がない。だが、納得がいった」


 私とたまに視線が合わなかったことを不思議に思っていたらしい。確かにおかしかっただろう。私からすればお祖母様を視ていても、視えない人からすれば虚空を見ているんだから。


「しかし、どうして」


 今まで黙っていたのに、教える気になったんだって思いますよね。


「お祖母様のことで相談したいことができたんです」


 正直、お祖母様を知っている人ならだれでもいいことではある。私は私の勘を信じている。多分私に話していないだけで、みんな知っているであろうこと。でも、あなたが一番信用できるから。

 ベネディクト様の無自覚な恋以外の、今までのことを全部話した。まず会話の介助をされていたことに恥じ、次に魔法うんぬんが嘘だったことに衝撃を受けていた。なんで貴方が信じているんだ。


「……というわけで、最初は全身が透けて浮いている感じだったのに、今では足がないんです」


 にんまり笑っているお祖母様を睨みつける。お祖母様が教えてくれれば済むだけの話なのに。まったく。


 ──大抵の幽霊は思念があって存在するという。ならば、


「他の心残りの解消ではないか?」


 あの大往生の悩みなんてまったくなさそうなお祖母様が? 私の結婚相手以外で?

 先入観が強すぎてまったく思いつきもしなかった。それなら、足が消えたことに納得がいく。ベネディクト様が心配だったわけだ。

 ……他の心残りが何かわかるもの。


「お祖母様の遺品」


 あ、お祖母様が逃げた。勿体無いからっていって全然整理してくれなかったせいで、未だ一部屋分使っているアレですよ。

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