13. 冷血夫婦の内心
「心を読んだところ、ベネディクト様のお父様は、ベネディクト様のお母様をとても愛おしく思っていて、逆も然りなのでしょう?」
ベネディクト様で慣れたからなんとなくわかる、全員唖然としている。
「私、魔法が使えるんです」
嘘である。魔法なんて童話の世界でしか存在しない。必要な嘘はしれっと吐くべし。これがお祖母様の教え。魔法は使えないけど、大暴れする幽霊のお祖母様なら見えるし。
「先ほどからお二人とも惚気ばかりで、私ちょっと胸焼けがしてしまいまして。いっそ耳で聞いた方がまだマシかなと」
側近が倒れた。老執事が壁際に後ずさる。多分、ベネ両親の顔が怖いのだろう。私としては野生動物と対峙している時の方がよっぽど緊張感があると思うけど。別に圧が凄いだけで、命かかってないんだから。
血の気の引いている様子のベネディクト様に大丈夫、という風に裾を引っ張る。何も怖がらなくていい。守ろうともしなくていい。ただ、黙ってそこで見ているといい。
「な、何を言って……そもそも君は誰だ」
「聞かれなかったので申し遅れました。私はアリス・ブランシェット。グレース・ブランシェットの孫娘です」
優雅にカーテシーをすれば、苦虫を噛み潰したようなベネ父。実にいい反応だ。お祖母様はどこでもお祖母様だったらしい。我が祖母ながら、前侯爵の顔すら歪ませるのだから流石だ。
「少し記憶も探ってみましょうか」
半分脅しのようなものでもあったけど、お祖母様が凄い速度で書き始める。なんで知ってるんだ。生前からではあったけど、これまたどうして情報通なのか。
──ニコラスは弱小貴族の長男で、レイラは侯爵家の一人娘。二人は学園で同級生だった。
高嶺の花だったレイラはニコラスに一目惚れし、家を捨ててでも恋愛したかった。ニコラスはレイラに惚れて、並び立てるよう必死に努力した。成り上がった上で弟に家督を譲って、侯爵家に婿入りした。けど、その時にはレイラは行き遅れになっていた。
ニコラスは自分の身勝手な片想いだと、レイラは自分ではなく財産目的で婿入りしたのだと思っている。
「……めんどくさ」
心の底から出た感想だった。お祖母様が頷いている。
「すれ違いにも程がある」
ちゃんと話し合えばよかっただけのことに屋敷全体を巻き込まないでほしい。おかげでベネディクト様が無自覚に好意をぶつけてくる恐ろしい大人になってしまった。
「おい、いい加減に……」
「年々輝かしさが増していると思うなら、直接言えば良いではありませんか」
「何を仰っているのか、よくわからないわ」
「どうしてこんなに耳に残るの……でしたっけ?」
目を見開くお二人。数刻前に自分が思っていたことが暴露された挙句、少し遅れて相手もそうだと気づいたからだろうか。
「相手をどう思っているのか、私が暴露するのと自分で言うの、どちらがよろしいですか?」
私がいちいち説明するのもめんどくさい、自分で言え。
「五、四、三、二、一……えー、お二人は」
「待て」
焦っていた様子のベネ父が、こちらを睨みつけてくる。その様子にベネ母も冷静さを取り戻したようだ。代わりに側近は屍となり、老執事は泡吹いて気を失ったけど。
「もし君のその馬鹿げた戯言を信じたとして、結果はどうなる」
「誤解が解けてお二人は仲睦まじく幸せになりますよ」
「どうして貴女がそんなことをする必要が?」
「お二人のすれ違いのせいで、ベネディクト様が怖がっているからですけど」
何わかりきったことを聞いているのか。でなければそこの窓から飛び出して、下の木に掴まって逃げている。だって私にとってはまったく何の意味もない。
「っそんなことはしなくていい。俺が代わりに……だから……」
ハッとして、罰を与えるなら自分に、と私を守るように隠すベネディクト様。震えているくせに、まったく。
でも安心してください。
「君は憎んでいるかもしれないが、私は、ずっと恋慕っていた」
「貴方は財産目的かもしれせんが、それでも、私はずっと……」
パチクリ。静寂。
一件落着ってことで。お祖母様のおかげで早く対処できた。こればっかりはお礼を言うべき。
おお、なんか目の前でいちゃつき始めた。そんな抱きしめあって、二人だけの世界ですかコノヤロー。
「は?」
恋って恐ろしい。そんな迷いなく人前でキッスですか。思春期も過ごせてないような息子さんが固まってますよ。
「邪魔者は退散。馬に蹴られたくないでしょう」
これ以上ここにいられるか。私は帰らせてもらう。
老執事、側近、ベネディクト様、ついでの幽霊のお祖母様も連れて部屋から出る。
どうせ、ベネディクト様みたいに言葉足らずで勘違いさせてそのままになってしまったのだろう。でも、もしかしたら、お祖母様がいなかったら私もこうなっていたりして。
「……」
ジトっと見れば、いつものようにふんぞり返るお祖母様。はいはい、わかりました。お祖母様のおかげですから、そんな仁王立ちしなくても……ってあれ?
「足が、ない?」




