表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

81/209

第八一話「訓練所では何かが起きていた」

 ライヒナー(こう)と別れてから、市場(いちば)でその他必要なものを買い込んでいった。お(かげ)で俺もレーネもマジックバッグが容量(ようりょう)一杯(いっぱい)になるほど入ってしまった。


「次に商船(しょうせん)が来るのは半月後予定と言っていましたね」

「まあ、隣国(りんごく)とは言えグロースモントはそれなりに距離(きょり)があるからな。あの船でも航海(こうかい)には日数がかかるんだろう」


 自宅への道を歩きながら、俺とレーネは海外取引の今後(こんご)について話していた。


 ゴルトモント王国の王都グロースモントは港町でもあり、多くの船を保有(ほゆう)していると聞いたことがある。もしザルツシュタットの港が今後増築(ぞうちく)されていくことがあれば、重要な取引先となることは間違(まちが)い無いのだ。であれば、貴重(きちょう)な材料が手に入る可能性(かのうせい)十分(じゅうぶん)にある。


「まあ、一先(ひとま)ず俺たちは依頼(いらい)の品を(つく)ろう。スタンピードに(そな)えないとな」


 俺たちに出来(でき)ることは、スタンピードに立ち向かう兵士たちへの支援(しえん)だ。レーネの回復薬と俺の〈金剛(こんごう)魔石(ませき)〉ならば、十分役に立ってくれるだろう。


「そうですねぇ……、それなんですけど……」

「……なんかあるのか?」


 何やら不安そうなレーネの様子(ようす)にただならぬものを感じ、俺は足を止めて彼女へ()うた。


「はい。もし、スタンピードが南下してきた場合、軍の(みな)さんで止められるんでしょうか?」

「それは……まぁ、その(ため)にあの数の軍人が()るんじゃないのか?」


 レーネが不安になる気持ちも分かるが……そりゃ、優秀(ゆうしゅう)な兵士も居ればそうでない兵士も居る。だが玉石混交(ぎょくせきこんこう)とは言え軍は軍だ。魔物に相対(あいたい)したことがあるなど、それなりに修羅場(しゅらば)(くぐ)っている者が多いだろう。


 そう説明してみたが、レーネはかぶりを()った。どうやら俺の答えは彼女の期待(きたい)するものでは無かったらしい。


(ちが)うんです、リュージさん。普通の魔物であれば戦い()れた(かた)もいらっしゃるとは思います。ですが……今回はあの邪術師(じゃじゅつし)がスタンピードを(ひき)いている可能性があります。となると……」

「……魔晶(ましょう)で魔物が強化されている可能性もある、か」

「その通りです」


 今度は合っていたらしい。レーネが(うなず)いた。


 成程(なるほど)、あの金色(こんじき)の魔物が(あらわ)れれば厄介(やっかい)(きわ)まりない。何しろ魔術が(ほとん)効果(こうか)()さなくなる上、再生能力も保有しているからな。そうなれば有効な攻撃はレーネが持っているような爆薬(ばくやく)になる。


「……爆薬も(つく)っておいた方が良いのでしょうか?」

「まあ、それも一つの手段(しゅだん)だが、他にも考えておいた方が良いんだろうなぁ。次の納品(のうひん)時ホフマン公爵(こうしゃく)閣下(かっか)相談(そうだん)するか」


 その場では結論(けつろん)を出さずに、自宅へ辿(たど)り着いた俺たちは各々(おのおの)の作業を始めたのだった。




 そうしてベルに仕事を教えつつ依頼の品々(しなじな)を創りきった俺たちは、七日後、再び納品の為に領主(りょうしゅ)(やかた)併設(へいせつ)された軍の逗留所(とうりゅうじょ)(おとず)れていた。


「……何やらバタバタしているな」

「そうですねぇ……きゃっ!?」

「おっと、すみません!」


 廊下(ろうか)を歩いていたら正面(しょうめん)から()けてきた兵士とレーネがぶつかりそうになったので、すかさず俺が(かた)()()せて回避(かいひ)した。まだ若いその兵士は、ホフマン公爵閣下の剣を受け止めた事で有名になった俺たちのことを知っていたのか、平謝(ひらあやま)りしてから()って行った。


施設(しせつ)全体が随分(ずいぶん)(あわ)ただしい様子ですが、何かあったんですか?」

「いえ、私も(ぞん)じ上げません」


 俺たちを案内(あんない)してくれている兵士の方に理由(りゆう)を聞いてみたのだが、知らないようだった。ま、仕方(しかた)無いか。閣下に聞けば教えてくれるだろう。


 そう思いながら近衛(このえ)騎士(きし)団長、つまりホフマン公爵閣下のお部屋を訪れたのだが、不在(ふざい)だった。


「あれ? この時間であれば団長はいらっしゃる(はず)なのですが……緊急(きんきゅう)の用事でも入ったのですかね……?」


 案内人は戸惑(とまど)っている。スケジュール通りならば居る筈なのだろうが、彼は何も聞いていないらしい。


「もしかして訓練所(くんれんじょ)かな……? でも、おかしいですね。そういった時は副官(ふくかん)の方が残られると思うのですが……。ちょっと見てきます」

「あ、俺たちも一緒(いっしょ)に行きます」


 ここに残されても案内人が居ないと不審者(ふしんしゃ)として(あつか)われかねない。そりゃ、〈大金剛の魔石〉の(けん)で有名にはなったけどさ。


 案内人の後を追い、訓練所へと向かう。相変(あいか)わらず廊下はバタバタしており、兵士たちが慌ただしく行き()っている。こりゃ本当に何かあったんだろうな。


「……え?」


 訓練所に近付(ちかづ)いた時、レーネが何かに気付(きづ)き、耳をそばだてた。どうやらエルフである彼女にしか聞こえない何かがあるらしい。


「……これは……(だれ)かが戦って……? 場所は訓練所ですけど、訓練じゃない、怪我(けが)人も居る……?」


 彼女の(つぶや)きには、端々(はしばし)から気になる言葉が飛び出している。訓練じゃない、というのはどういうことか。


 そして案内人が訓練所へと続く(とびら)を開けた時、俺はそれが何の事かを理解することになった。


次回は明日の21:37に投稿いたします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ