第一九八話「これが俺とレーネの技術が創り出した殲滅方式である」
無事と言って良いのか何と言うか相手との交渉は決裂した為、俺は監視兵に門を閉じるよう命じた。とは言っても簡素な造りであるので、これだけでは時間が稼げない。
そう言う訳で、俺は再度櫓の上に昇ることにした。ロマノフ兵の頭上から攻撃する為である。
「ハントヴェルカー卿! 此処は危険で御座います! 早くお逃げください! 矢が飛んできますぞ!」
監視兵の隊長が顔面蒼白になりながら俺に進言してくれた。自分たちだって命の危険があると言うのに有難いことだが、そうも行かないのである。
「平気だ。君たちより戦いには慣れているし、むしろ君たちの方こそ櫓からは降りてくれ。〈大金剛の魔石〉は矢の攻撃を防いでくれるだろうが、火矢が飛んで来たら櫓ごと焼かれて死ぬぞ」
「そ、それを仰るならばハントヴェルカー卿こそ――」
「私は熱を無効化する魔石を持っている。ああ、もう一人分はあるから渡しておこう」
「へっ? あ、有難う御座います……ではなく!」
〈常温の魔石〉を受け取り引き下がろうとした隊長だが、我に返って再び食い下がってきた。ううむ、心配してくれるのは有難いが、俺だって勝機の無い戦いなど挑みはしない。俺のマジックバッグはレーネのお陰で弾薬庫になっているので、ある程度望みがあるのだ。
「まあ、此処は任せてくれ。応援が駆けつけるまでは耐えてみせる。君たちは壁越しに矢を放ってくれ。飛んで来た火矢は避けるようにな」
「あっ! ちょっ! ハントヴェルカー卿!」
取り敢えず此処に居られると邪魔なので、梯子から無理矢理地上へ追い出した。櫓が燃え落ちて、落下して怪我でもされたら困るしな。
「さて、そろそろ頃合いか」
進軍してくるロマノフ兵たちを見据えながら、俺はマジックバッグから錬金長銃を取り出し、構えた。狙うは――奴等の頭目だ。
幸いにして奴等の大将はとても分かりやすかった。何しろ下っ端は元グアン王国の鎧を着ているのだが――
「大将は正規のロマノフ兵か。まあ当然だが」
弓矢の射程範囲に入らない内に、俺は弾薬に魔力を籠め、引鉄を引いた。乾いた破裂音と同時に、狙った大将が仰け反り、馬から落ちた。周りの兵たちがパニックに陥る。
「先ずは、大将を一体だ」
これ以上単騎を狙っても意味が無い為、俺は次に範囲攻撃へと掛かることにした。マジックバッグの中から拳よりも少し大きめの玉を取り出し、ピンを抜いてから大きく振りかぶって、投げる。レーネ程コントロールには自信が無いが、まあ相手に近い所へ落ちれば良い。
そう思っていたが、俺のコントロール能力は誇っていいかも知れない。レーネ特製の〈榴弾〉は、将を殺され怒りに飛び込んできた先陣グループのど真ん中に落ちたのだ。……本当はもうちょっと後ろを狙ったのだが、結果良ければ、だ。
〈榴弾〉は着地寸前に大爆発を起こし、地面と周りの兵たちの肉を抉った。効果範囲からは程遠い為、壁には影響しないだろう。この〈榴弾〉だが、火気などは発生せず攻城戦などには向かないが、その分殺傷力に長けている爆弾で、今回のような多人数相手に向いている兵器である。
「ひっ、ひっ、怯むな! 火矢を放て!」
おっと、火矢が来るか。だがすっかり怖じ気づいたロマノフ兵たちは、先程〈榴弾〉が落ちた箇所まで近付けない為に櫓まで火矢を飛ばす事が出来ずに居た。それでも壁に刺さっているので、壁が燃え落ち、奴等が侵入してくる可能性がある。
「頃合いだな」
俺はマジックバッグの中から〈榴弾〉をもう一つ引っ掴むと、そのまま助走を付けて壁の向こうへとジャンプし、難なく着地した。かなりの高さはあったが、〈豪腕の魔石〉などで身体能力が強化されている為に怪我を負うことは無い。
「そら、おかわりだ」
そう言い放ち、俺はピンを抜いた〈榴弾〉を、火矢を放っている連中目掛け投げつけた。奴等は目の前に再び飛んで来たそれから逃げる暇すら無く、呆気なく爆発に巻き込まれて散っていった。
「半分位はやったか? なら、殲滅と行くか」
相手に邪術師が居なければ、俺の能力に蓋をする者は居ない。存分に戦える。
俺は戦意を失いつつあるロマノフ兵たちに向かって、一切の慈悲をかけぬつもりで駆け出した。
次回は明日の21:37に投稿いたします!