表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

196/209

第一九六話「危機は、もう其処まで迫っていた」

 外壁(がいへき)建設(けんせつ)軌道(きどう)に乗ってきた(ため)、俺とレーネは手の()いた時間に作業(さぎょう)出来(でき)るようになった。魔石(ませき)と薬の備蓄(びちく)は多ければ多い(ほど)良い。


 ただ、内乱(ないらん)が落ち着いているのはザルツシュタットとラウディンガー、その周辺(しゅうへん)(くらい)で、他の地域(ちいき)蜂起(ほうき)したロマノフ帝国から来た間諜(かんちょう)(ども)(たし)かな仕事のお(かげ)で、北西の地域などは(すで)に帝国からの介入(かいにゅう)も含め五割を掌握(しょうあく)されているような状況(じょうきょう)であった。


『北西部のゴルトモント隣接部(りんせつぶ)について、これ以上押し返す事は現状(げんじょう)(むずか)しいでしょう』

「そうなのですか……」


 (ちょう)長距離(ちょうきょり)通信(つうしん)()しに聞こえるシュノール宰相(さいしょう)閣下(かっか)の声は暗い。(いく)らロマノフの人口(じんこう)が多いからと言って、隣国(りんごく)でも無いのにここまで押されるという事はあるのだろうか。


「ゴルトモント自体はまだ陥落(かんらく)していないですが、北西部の半分近くが掌握されている原因(げんいん)は、やはりグアンの併合(へいごう)によるものですか」

『はい、まさに』


 俺が投げ()けた質問に、宰相閣下は即答(そくとう)された。北東部のグアン王国はロマノフ帝国の介入(かいにゅう)開始後、早々(そうそう)に帝国へ併合を(もう)し出たのである。するとぴったりと内乱が(おさ)まったと言うのだから答え合わせも(はなは)だしい。


 併合されロマノフ帝国の一部となったグアン王国からも他国への介入が始まり、ゴルトモントの南部が落とされている。其処(そこ)経由(けいゆ)してやって来たロマノフ兵たちが()が国の北西部の内乱に介入して来たという(わけ)である。まあ自作(じさく)自演(じえん)だが。


一旦(いったん)状況(じょうきょう)は分かりました、有難(ありがと)御座(ござ)います。であれば――ザルツシュタットが最前線(さいぜんせん)となることも有り()ると言う訳ですね」


 (けわ)しい山岳(さんがく)地帯(ちたい)の多いバイシュタイン王国で北西部から王都へ進軍(しんぐん)するルートは二つ。アップダウンの(はげ)しい東の山道(やまみち)を通って行くか、それとも平坦(へいたん)途中(とちゅう)にザルツシュタットを(ふく)む多くの町が存在(そんざい)する南の海沿()いか、である。


 そして、北西部から南下(なんか)した先にはザルツシュタットが()る訳で。そうなると此処(ここ)戦場(せんじょう)になる可能性(かのうせい)十二分(じゅうにぶん)に考えられるのだ。


(おっしゃ)る通りです。ですので、外壁建設の(けん)何卒(なにとぞ)(よろ)しくお(ねが)いいたします』


 シュノール宰相閣下との定期(ていき)連絡(れんらく)はそんな話題で()(くく)られた。


 どうやら、日に日に情勢(じょうせい)は悪くなっているらしい。




 ザルツシュタットより北は治安(ちあん)悪化(あっか)している為、ならず者を流入(りゅうにゅう)させぬよう、内乱鎮圧(ちんあつ)後、塩水湖(えんすいこ)とその手前に在る森との間に(かべ)構築(こうちく)され、検問所(けんもんじょ)(つく)られた。


 壁と言っても現在(げんざい)建設中のザルツシュタット新外壁のような立派(りっぱ)なものではなく、取り()えず造った間に合わせの木製(もくせい)である。それでも簡単(かんたん)突破(とっぱ)はされないようにはなっているが。


様子(ようす)を見に来たが、状況はどうか」


 ザルツシュタットの北の(はず)れに住んでいる俺はお付きの兵を(ともな)い、こうして時々その検問所を(おとず)れて様子を確認(かくにん)していた。本来は領主(りょうしゅ)であるライヒナー(こう)のお仕事ではあるものの、お(いそが)しくていらっしゃるし俺が何もしない訳にもいかないので。


「ハントヴェルカー(きょう)! はっ! こちら異常(いじょう)ありません!」


 一二人居る監視兵(かんしへい)のうちの隊長(たいちょう)(やぐら)から降りてきて、俺に敬礼(けいれい)しながらそう報告(ほうこく)した。物騒(ぶっそう)になっているこの状況で水際(みずぎわ)阻止(そし)の為に動員(どういん)されている彼()には感謝(かんしゃ)しているが、裏切(うらぎ)って侵入者(しんにゅうしゃ)手引(てび)きなどされないよう、こうして俺が足繁(あししげ)(かよ)って目を光らせていたりするのである。まあそんな事は言えないが。


「ハントヴェルカー卿、(おそ)れながら、戦況(せんきょう)をお教え(いただ)けますでしょうか!」

「ああ、勿論(もちろん)


 そして俺が此処(ここ)単純(たんじゅん)に監視兵たちの様子を確認しているだけという訳ではない。日々超長距離通信でシュノール宰相閣下より各地(かくち)の情報を受け取っている為、(みな)(つた)える役割(やくわり)も持っているのである。


「ブルクミュラー候からは、本日時点(じてん)で北西部は半分近くが掌握されていると報告があったそうだ。正直(しょうじき)なところ押されているのが現状で、ここから北に在るブルクミュラー侯爵(こうしゃく)(りょう)領都(りょうと)クラインブルクが落ちれば、早くて五日(くらい)でロマノフ軍が南下してくるだろうと見られている」

「そうですか……」


 俺が伝えた内容に、隊長が強張(こわば)った顔を見せる。今日明日にロマノフ軍が(あらわ)れる訳では無いが、それでも不安なものは不安だろうな。


 でも、此処は櫓と門と簡素(かんそ)兵舎(へいしゃ)しか無いものの、突破(とっぱ)されてはならない(とりで)だ。(つら)いとは思うが緊張感(きんちょうかん)を持ってやって(もら)いたい。


「いよいよもって状況は(きび)しい。重責(じゅうせき)に感じるとは思うが、検問ではほんの些細(ささい)違和感(いわかん)すら見落(みお)とさぬようにしてほしい」

「はっ! 了解(りょうかい)いたしました!」


 隊長が緊迫(きんぱく)した様子を顔に(あらわ)したままに敬礼をしたところで、俺は彼等を(ねぎら)ってから自宅へ(もど)ろうと(きびす)を返した。あまり長く()ても仕事の邪魔(じゃま)になってしまう。線引(せんび)きは重要(じゅうよう)である。


 そんな時だった。櫓の上から「隊長!」と悲痛(ひつう)(さけ)びが聞こえたのは。


「どうした!?」


 (あわ)てて隊長が櫓を(のぼ)り始める。俺はと言うと、流石(さすが)にこの状況で(ほう)り出して戻る訳にも行かず、足を止めた。


「て、敵襲(てきしゅう)です! 敵軍が迫っています!」

「……は?」


 俺は思わず()り向いてそんな声を上げてしまった。敵襲? 敵軍?


 そんな馬鹿(ばか)な。まだクラインブルクは陥落(かんらく)していないんだぞ? もし今日落とされていたとしても、この速さでやって来る(はず)が無い。


「ちょっと確認させてくれ!」


 状況を確認する為に、俺も櫓の上へ昇る。商隊(しょうたい)見間違(みまちが)えたのではないか、と(あわ)期待(きたい)を持ち、櫓の台に上がった。


 そして塩水湖の向こう(ぎし)には――(まぎ)れも無い、元グアン王国の(よろい)着込(きこ)んだロマノフ帝国の兵士たちが、塩水湖を迂回(うかい)して此方(こちら)目指(めざ)進軍(しんぐん)していたのだった。



次回は明日の21:37に投稿いたします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ