表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

195/209

第一九五話「ウチの娘が末恐ろしい」

 季節(きせつ)も秋に変わり、ケチュア帝国との貿易(ぼうえき)による石炭(せきたん)鉄鉱石(てっこうせき)の大量輸入(ゆにゅう)でコークス、セメント、鉄の製造(せいぞう)を進め、並行(へいこう)して外壁(がいへき)建設(けんせつ)着手(ちゃくしゅ)をしてゆくことになった。鉄は何に使うのかと言うと、(かべ)(しん)にし、其処(そこ)にコンクリートを形成(けいせい)してゆくのだとか。そうすることにより、非常(ひじょう)に安定した構造物(こうぞうぶつ)出来(でき)上がるのだそうな。


 そして輸入の分は輸出(ゆしゅつ)をしなきゃならんのだが、そこは()が家の目の前に有る畑が大活躍(だいかつやく)をしてくれた。何しろ輸入した(なえ)も一日で実を付ける(わけ)で、ケチュア(がわ)に逆輸出してゆく事で大幅(おおはば)利益(りえき)を出す事が可能(かのう)となっていた。作物(さくもつ)育成(いくせい)を助ける〈ペウレの魔石(ませき)様々(さまさま)である。


「ただなぁ、外壁建設でウチの裏手(うらて)(ふさ)がれるから、素材(そざい)()りに行くのが面倒(めんどう)に……」

「まだ言ってるの、リュージ(にい)。素材はあたしたちが採りに行くし、ハントヴェルカー(きょう)は町作りに専念(せんねん)してくださいな」


 頭を(かか)えていたらミノリに笑われてしまった。まあ妹の言う通り、最近(さいきん)は素材収集(しゅうしゅう)もミノリや弟子(でし)たちに(まか)せっきりな部分が大きく、俺とレーネは外壁建設や治安(ちあん)維持(いじ)(つと)めていることが多かった。


「うう、町作りよりも錬金術(れんきんじゅつ)研究(けんきゅう)がしたいよう」

(あきら)めろレーネ。安定した基盤(きばん)があってこそ平和に研究が出来るんだぞ」


 レーネも最近は俺やライヒナー(こう)補佐(ほさ)ばかりやっている(ため)愚痴(ぐち)っているが、そもそも治安が悪かったら研究どころか普段(ふだん)の仕事もままならない訳で。其処を何とかしないといけない(あた)貴族(きぞく)(つら)い所ではある。


「リュージさん、こちらの資料(しりょう)(まと)め終わりました。次のお仕事をお(あた)えくださいな」


 各所(かくしょ)からの報告(ほうこく)確認(かくにん)していたら、「手持ち無沙汰(ぶさた)なのでお仕事をください」とお(ねが)いされてしまった為に報告書の纏めをお(ねが)いしていた殿下(でんか)とディートリヒさんがいらっしゃった。もう終わったんですか、早い。


「ああ、有難(ありがと)御座(ござ)います。ツェツィ様は少しお休みください。俺が殿下を酷使(こくし)していたことがバレてしまったら処刑(しょけい)されてしまいます」


 まあ処刑は冗談(じょうだん)なのだが、それにしたって伯爵(はくしゃく)が王女殿下をこき使うなど有り()ない訳である。少しは俺の気持ちも分かって(いただ)きたいのだが――


「いえ! 皆様(みなさま)(はたら)いていらっしゃるのにわたくしだけのんびりとしている訳には(まい)りませんわ! (ただ)でさえわたくしは(よめ)にも行けないような(てい)たらくですのに!」


 殿下がぐっと(こぶし)(にぎ)って力説(りきせつ)しておられるが、微妙(びみょう)に後ろ向きな発言(はつげん)である。と言うか、王都ラウディンガー周辺(しゅうへん)内乱(ないらん)も南西部が落ち着いてきたという情報(じょうほう)が有るのでそろそろ(もど)れると思うのですが。奔放(ほんぽう)な王女殿下だし、きっとこうやって働いておられるのが楽しくていらっしゃるのだろうな。


「でんかは、およめにいけないのですか?」

「わっ!? マリーちゃん何時(いつ)()に!?」


 気付(きづ)けば、マリアーナが殿下の足元に立っていた。ディートリヒさんも気付いていなかったようで少々狼狽(ろうばい)している。俺も気付かなかったし、何時の間にアイの真似事(まねごと)なんか出来るようになったんだ。


「んー? でんか、ディートおにいさんとけっこんしないのですか?」

「えっ」


 突然(とつぜん)自分の名前が出てきた為、(さら)に狼狽するディートリヒさん。殿下も目を丸くしておられる。何気(なにげ)爆弾(ばくだん)を投げてきたな、ウチの娘。


 まあでもマリアーナの言う通り、ディートリヒさんは公爵(こうしゃく)家の三男であり、十分(じゅうぶん)に殿下と()り合う相手ではあるのだよな。ただ元々殿下はゴルトモント王国の第三王子と婚約(こんやく)していらっしゃったのだし、本人には(もう)し訳ないが格下感(かくしたかん)(ぬぐ)えない。


「その手が有りましたわね……」

「ツェツィ様!?」


 あ、殿下が乗ってきた。ディートリヒさんがいきなり人生をひん曲げられそうになって狼狽どころか泣きそうになっている。


「うふふ、みんななかよしです」


 一人の人生を激変(げきへん)させそうになっている事など(つゆ)知らず、ウチの娘は楽しそうにはしゃいでいた。(すえ)(おそ)ろしい。




 季節は冬。(きび)しい寒さを()えながら急ピッチで建設を進めてゆき、外壁の基礎(きそ)部分が完成した。ウチの裏手の森も一部がすっかり伐採(ばっさい)されてしまい風景(ふうけい)が変わっている。(はら)を減らした動物たちが町へ出て来なきゃ良いが。


 内乱で国は疲弊(ひへい)しているが、王都とこの町に(かぎ)っては〈ペウレの魔石〉の加護(かご)が有るため飢餓(きが)とは無関係(むかんけい)である。その為、人々がラウディンガーとザルツシュタットに集まり始めたのはごく自然な事であった。




 そして春。


 ゴルトモント王国の内乱にロマノフ帝国軍が介入(かいにゅう)を始めたとシュノール宰相(さいしょう)閣下(かっか)より情報が入ったのは、その(ころ)だった。


次回は明日の21:37に投稿いたします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ