表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

186/209

第一八六話「ところ変わればやっぱり信仰は変わる」

 荷下(にお)ろしが終わり風呂(ふろ)(つか)れた身体を(いや)した後、俺とミロスラーフ、そして船長は、クレパさんに彼の孫娘(まごむすめ)リャマさんと一緒(いっしょ)に、町の高台(たかだい)へと続く階段(かいだん)を上っていた。何故(なぜ)船長も一緒(いっしょ)なのかと言うと、会話を成立(せいりつ)させる〈カシュナートの魔石(ませき)〉は一つしか無い(ため)である。


 リャマさんはミノリと同じく二十歳(はたち)(くらい)のおっとりした美人さんで、(よめ)にどうかと言われたが丁重(ていちょう)にお(ことわ)りしておいた。俺には愛する(つま)も娘たちも()るもので。


『着いたぞ、ここがチュパの第一教会だ』


 重厚(じゅうこう)(とびら)細腕(ほそうで)軽々(かるがる)と開きながら、クレパさんがそう説明した。扉の(おく)では夕方にも(かか)わらず(いの)りを(ささ)げている人々が多く見られる。


「第一? って事は他にも()るのか?」


 当然(とうぜん)のようなミロスラーフの質問に、クレパさんが(うなず)き、()り返って眼前(がんぜん)の町を見下(みお)ろし、複数(ふくすう)箇所(かしょ)指差(ゆびさ)していった。


『第二、第三、第四まで在るぞ。帝都(ていと)に行けばもっと多くの教会が在る』

「そんなにか。俺たちの居る町では考えられねぇな」


 ミロスラーフの言う通り、大きな町の部類(ぶるい)に入るザルツシュタットでも一つの宗派(しゅうは)に教会は一つしか存在(そんざい)しない。まあその宗派が色々(いろいろ)と有るのだが。


「東の大陸(たいりく)ではシグムント様やフューレル様など、多種(たしゅ)多様(たよう)な神々が(まつ)られているからな。特定(とくてい)の宗派だけ教会が多い、という話になると面倒(めんどう)なんだよ」

「あー、あるかもな、そういう話」


 俺の解説(かいせつ)得心(とくしん)がいったようにミロスラーフがポンと手を(たた)く。教会だって人が運営(うんえい)をしているのだ。当然のように縄張(なわば)(あらそ)いだって有るし、表向きは共存(きょうぞん)しているように見えても(うら)では他の神々を(みと)めていない――などと言う事もある。その均衡(きんこう)(やぶ)(わけ)にはいかないのである。


 しかし、そう考えると此処(ここ)ケチュア帝国ではアブネラ以外の神は祀られていないという事か? となれば、他の神々の(あつか)いはどうなっているのだろうか。


 クレパさんにそう(たず)ねてみようと思ったら、彼は(けわ)しい顔をしていた。……この反応は、ひょっとすると――


『カーマン、君の国では、シグムントやフューレルを祀っているのか?』


 俺が予想した通りに、クレパさんはそんな反応を返した。この表情からして、シグムントやフューレルなど他の神々に良い印象(いんしょう)を持っていないのだろう。


「ああ、そうさ。他にも――」

「船長、ここは私が説明します。クレパさん、(だま)っていて(もう)し訳ないんだが、(われ)()の国では普通にシグムント様などの『アブネラ様を封印(ふういん)した神々』は祀られている」


 船長を(さえぎ)りそう説明すると、彼は自分が何を言い()けたのか理解(りかい)し青ざめていた。そうだよ、アブネラにとっては他の神々は()むべき敵なんだよ。


『そうか……、アブネラ様の信徒(しんと)がミロスラーフ君しか居ないのでおかしいとは思っていた。君たちはアブネラ様の怨敵(おんてき)(ほう)ずる人々なのか』


 うわ、怨敵とか言われてるよ。相当(そうとう)(にく)まれてるんだな、他の神々は。


 だが取り(つくろ)っていても仕方(しかた)が無い。俺はこのまま()き進むことにした。


「クレパさん、冷静(れいせい)に聞いてほしい。我々の国では、アブネラ様は邪神(じゃしん)として扱われているんだよ」

『な、何だと!? 言うに事欠(ことか)いて――』

「まあ聞いてくれ。君たちがアブネラ様を奉ずる人々だと知って、それでも我々は此処に来た。真実(しんじつ)を知るために」


 激高(げっこう)しかけたクレパさんを(なだ)めつつ、俺は釈明(しゃくめい)を続けた。彼の大声の所為(せい)で教会の奥が何やら(さわ)がしくなってきた。野次馬(やじうま)が集まる前に一区切(ひとくぎ)り付けたい所だ。


「我々の国ではアブネラ様の本当の姿(すがた)を知らない。だから、誤解(ごかい)()(ため)にも教えてくれないか?」

『………………』


 (しば)し俺を(にら)み付けていたクレパさんだったが、ふん、と(はな)を鳴らしてからリャマさんの(かた)を叩いた。


「リャマ、神々の間まで案内(あんない)してやれ。(わし)は少々風に当たってくる」


 そう言って、クレパさんは扉の外へと(もど)って行ってしまった。なんとか冷静に事を(はこ)んで(いただ)けたようだ。


 俺たちの問答(もんどう)の間も(まゆ)一つ動かさずのんびり(なが)めていたリャマさんは、「こちらですよ~」と俺たち三人を教会の奥へと(いざな)ったのだった。


次回は明日の21:37に投稿いたします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ