表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

183/209

第一八三話「魔物の狙いは一体何だったのかと言うと」

 左舷(さげん)(がわ)甲板(かんぱん)上には金色(こんじき)触手(しょくしゅ)の切れ(はし)(いく)つも落ちていた。普通の(たこ)なら食糧(しょくしゅ)()しにもなるのだろうが、こんなものを食べる気にはなれないな。


 それを生んでいるミロスラーフだが、(まった)(つか)れた様子(ようす)は無く、ただつまらなそうに大剣(たいけん)()るっていた。(やつ)にとっては面白味(おもしろみ)の無い作業(さぎょう)程度(ていど)にしか思えないのだろう。


「すまない、()たせた」

「おう、何か良い手は見つかったか?」

「ああ、爆薬(ばくやく)を使う」

「爆薬ぅ? 水の中だぞ?」


 こちらを振り返ること無く触手を()(きざ)みながら、ミロスラーフは俺の提案(ていあん)(うたが)って()かっている。此奴(こいつ)(しばら)く俺の家に居たから爆薬が何であるか理解(りかい)しているんだよな。


 普通の爆薬を想像(そうぞう)しているのならばミロスラーフが懸念(けねん)している通りだが、使う爆薬は二種類ともちょっと(くせ)のあるものだ。全く火を使わないので水中でも威力(いりょく)(うしな)う事は無い。


「まあ見てろって、なっ!」


 俺はそう言い(はな)つと同時に、クラーケンに向けて()凍結(とうけつ)爆薬の(びん)投擲(とうてき)した。(ふた)のピンを()かれた瓶は放物線(ほうぶつせん)(えが)き、蛸の頭上へと落ち、其処(そこ)起爆(きばく)する。


 瓶が()れて拡散(かくさん)した薬剤(やくざい)がクラーケンに()(そそ)ぎ、蛸の頭がたちまち凍結を始めた。中枢(ちゅうすう)機能(きのう)が停止した(ため)か、船を(おそ)っていた触手が動きを止め、ずるずると海に落ちていった。


「おっ、やったのか?」

「いや、まだだ。まあこのまま逃げるって手もあるんだが、この航路(こうろ)を安全に通るなら、あのクラーケンを片付(かたづ)けておく必要がある。と言う(わけ)で――」


 やっと触手の相手から解放(かいほう)され(かた)を回しているミロスラーフにそう返し、俺は(しん)爆薬の瓶から凍結爆薬と同じようにピンを抜いて、先程(さきほど)とは少しだけずれた場所――海面(かいめん)へと投げ()んだ。


「おう、(ねら)いがずれてんぞ」

「あれでいい。さて、どれ(くらい)威力(いりょく)に――」


 と、俺の言葉は最後まで続ける事は出来(でき)ず、()わりに耳を(つんざ)轟音(ごうおん)が海面から鳴り(ひび)いた。それとほぼ同時に、押し()せる波を船体(せんたい)の横っ(ぱら)に受け、(あや)うく〈ノイヴェルト〉号は転覆(てんぷく)しかけたのであった。




「……その、加減(かげん)を考えてください、ハントヴェルカー(きょう)……」

(もう)し訳ない……」


 クラーケン(ども)襲撃(しゅうげき)退(しりぞ)後始末(あとしまつ)も終わり、俺は何をしているのかと言うと、船室(せんしつ)で船長に謝罪(しゃざい)をしているのであった。後ろでミロスラーフが笑いを(こら)えているのが分かる。畜生(ちくしょう)、笑うんじゃねえ。


「ククク……、しっかし強い爆薬だったな、凍ってたクラーケンも粉微塵(こなみじん)になっちまったし、水中に(かく)れてた魚人(マーマン)共や魚までもぷかぷか()いてたぞ」

「……本当は爆薬自体にそこまでの威力は無いんだけどな、あれは衝撃(しょうげき)特化(とっか)した爆薬なんだ。川で大きな石を思いっきりぶつけると、水に衝撃が(つた)わって魚が気絶(きぜつ)するのを知ってるか? あの原理(げんり)だ」


 水というのは衝撃を伝えやすいらしく、そういった意味であの震爆薬はこれ以上無い(ほど)海と相性(あいしょう)の良い道具だった訳だが、当然(とうぜん)ながら衝撃は拡散するため、船にだって影響(えいきょう)(およ)ぼす。(さいわ)いにも船体は無事(ぶじ)だったようだが、船底(ふなぞこ)に穴でも()こうものなら謝罪どころの話ではなかった。


「ところで船長さんよ、あの蛸は前の航海(こうかい)でも(あらわ)れたのかよ?」

「ああ、それは私も気になります」


 ミロスラーフの質問に乗っかる。船長は「とんでもない」とかぶりを振って否定(ひてい)した。まあ、そりゃそうか。遭遇(そうぐう)していたら今頃(いまごろ)この船は存在(そんざい)していない(はず)だ。


「まあ、だろうな。しかし(みょう)だとは思わねぇか? この船を襲うなんてよ」

「この船を、と言うのはどう言う事だ?」


 俺はミロスラーフの言っている事が理解(りかい)出来ずに問い返した。この船もどの船も無く、クラーケンは通りすがった船を(ねら)ったのではないのか?


「考えてもみろよ。この船は船団(せんだん)旗艦(きかん)で、ど真ん中に配置(はいち)されているんだぜ? 何故(なぜ)態々(わざわざ)狙い(にく)い中央の船を襲ったんだ?」

「………………」


 言われてみれば、そうだ。そもそも蛸に「旗艦を(つぶ)せば相手が統制(とうせい)を失う」なんて知能(ちのう)がある筈も無い。だったら何故旗艦が襲われたんだ?


 何故一度目、二度目の航海で出現(しゅつげん)しなかった魔物が現れたのか。それに、あの蛸も魚人も、(れい)邪術師(じゃじゅつし)が産み出す金色の魔物だった。偶然(ぐうぜん)とは考えにくい。


「魔物にはこの船を狙いたい理由(りゆう)があったと言うのか?」

推測(すいそく)だがな。そして一度目、二度目と違う条件(じょうけん)が有る。何だか分かるよな?」

「………………」


 俺はその説明に、何も言えず(もく)してしまった。


 だって、その条件とは――俺と、ミロスラーフじゃないか。魔物は俺たち、もしくは俺たちの何方(どちら)かを狙ってやって来たと言うのか?


次回は明日の21:37に投稿いたします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ