表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

169/209

第一六九話「戦いたけりゃ他所でやって欲しいのだが」

「おらぁッ!」


 先手(せんて)はミロスラーフの豪快(ごうかい)唐竹(からたけ)()りだったが、流石(さすが)にそんな大()りは読めるし(かわ)せる。俺は半歩(はんぽ)下がり、その大剣(たいけん)軌道(きどう)から(のが)れた。


 すると次に黒騎士(きし)は俺を追うように稲妻(いなづま)のような速さで半歩()み出し、切上(きりあげ)を放ってきた。……が、それもある程度(ていど)は読めていた(ため)(さら)に半歩下がり斬撃(ざんげき)の範囲から(はず)れる。


 しかしこのままではやがて俺の背後(はいご)()るレーネたちの所へ辿(たど)り着いてしまう為、こちらとしても下がってばかりでは()られない。(やいば)(とど)かぬ範囲を回るようにミロスラーフに向かって左(がわ)へと回り()む。


「おいおいなんだよつまんねぇな! 逃げてんじゃねぇ! ()かって来いよ!」


 切り上げた大剣は――予想通り(すき)だらけなどではなく、その重量を無視(むし)するように()(えが)いて頭上から俺に(おそ)い掛かってきた。なんて力だよ、おい。


 俺は移動の速度を少し上げ、更にその斬撃をすれすれで躱しつつ――横()ぎに軌道を変えた大剣の(はら)を下から右(こぶし)で軽く(たた)いた。その衝撃(しょうげき)でほんの(わず)かに大剣の()く手が上向きへと変わる。


「うおっ!?」

「ふっ」


 (おどろ)きの声を上げたミロスラーフの獲物(えもの)(やつ)(のぞ)まぬカーブを描き、黒騎士はバランスを(くず)した。俺は息を()き、更に左足を大きく踏み込む――つもりだった。


「………………」


 俺は踏み込もうとした左足を下げ、バックステップでミロスラーフから大きく(はな)れた。猛烈(もうれつ)(いや)な予感を(おぼ)えた為である。


「おう、どうした? 絶好(ぜっこう)のチャンスだっただろうが」

「何がチャンスだ。ふざけるな」


 ニヤニヤと楽しそうに笑うミロスラーフに対して、俺は不快(ふかい)であることを(かく)しもせずに顔を(しか)めてそう返した。


 今のは危なかった。(おそ)らく、踏み込んでいれば命は無かっただろう。この男、俺が間合(まあ)いに入ったらそのまま大剣を一回転させて横薙ぎに斬撃を放つつもりだったのだ。


 しかしながら俺が踏み込まなかったのを見て瞬時(しゅんじ)にその行動を中止した(あた)り、此奴(こいつ)はその怪力だけでなく、(すぐ)れた判断(はんだん)能力も持ち合わせているようだ。くそ、戦闘(せんとう)技術(ぎじゅつ)(あき)らかに相手の方が格段(かくだん)に上だ。


「おっと、気付(きづ)かれていたか。お前さんの首を()ねるつもりだったんだが」


 がちゃり、という音と(とも)にミロスラーフは(かた)(すく)めた。こんな重鎧(ヘビーアーマー)着込(きこ)んでいると言うのにこのスピードだ。此奴は邪教徒(じゃきょうと)だし、恐らく――


「……一流の剣技(けんぎ)に〈魔晶(ましょう)〉の力が(くわ)わると、こうなるのか」


 思わず口からそんな言葉が()れてしまった。邪術師が人の命を用いて生成する物質、〈魔晶〉を使えば身体能力を大幅(おおはば)に強化することが出来(でき)る。此奴もそうなのだろう。


 そう思っていたのだが――何故(なぜ)か俺の言葉を聞いたミロスラーフは、その口を不満(ふまん)げに曲げていた。


「あん? 俺は〈魔晶〉なんざ使ってねぇよ」

「…………は?」


 なんだと? この男、〈魔晶〉無しでこの怪力なのか!?


 俺が唖然(あぜん)として(かた)まっていると、ミロスラーフは大きく嘆息(たんそく)して自身の(よろい)をカンカンと拳で叩いた。


「あのなぁ、俺は(おのれ)(きた)えた身体でアブネラ様を(はば)難敵(なんてき)と戦いたいだけなんだよ。〈魔晶〉なんざ使ったらつまんねぇだろうが」

「………………」


 俺は(あま)りにも常識(じょうしき)外れな存在(そんざい)を前にしていることを知り、絶句(ぜっく)する他無かった。つまり、なんだ。此奴は〈魔晶〉や付与(ふよ)などを使っておらず、極限(きょくげん)まで鍛え上げた身体だけであんな怪力を生んでいると言うのか。


「……おう、どうした? (だま)っちまって」

「化け物って居るんだな、って思ったんだよ……」

「おう、()め言葉か?」

「そう(とら)えてくれ……」


 カラカラと笑うミロスラーフに対して、俺はそう返すのが精一杯(せいいっぱい)だった。頭が痛い。


 あの〈鋼鉄公(こうてつこう)〉ですら〈大金剛(だいこんごう)魔石(ませき)〉の防御(ぼうぎょ)障壁(しょうへき)(やぶ)れなかったが、この男の斬撃ならば容易(たやす)く破ってくるだろう。そんな気がする。


 だとすれば、剣技ではミノリよりも上、力では〈鋼鉄公〉よりも上。そんな相手に付与術師である俺が(かな)道理(どうり)が無い(わけ)なのだが。


「……けど、やるしか無いんだよなぁ……」


 俺は小さく溜息(ためいき)を吐きながら、(こし)の魔石の一つに魔力を()めた。〈震撃(しんげき)の魔石〉と呼んでいる〈練魔石(れんませき)〉で、(ちょう)長距離(ちょうきょり)通信を可能(かのう)とする〈信連(しんれん)の魔石〉を(つく)過程(かてい)副次的(ふくじてき)に産み出されたものだ。()たしてこれが何処(どこ)まで通用(つうよう)するかは分からないが、()けるしか無いだろう。


「お? 何か魔石を使ったか。やっとやる気になったのか? いいねぇ、その顔」

「やかましい、俺は付与術師なんだよ。近接戦(きんせつせん)本来(ほんらい)専門外(せんもんがい)なんだから魔石を使っても文句(もんく)を言うなよ?」

「カッカッカッ、言わねぇよ! (たお)甲斐(がい)がある相手になって逆に(うれ)しい(くらい)だ!」


 (かま)え直した俺に対して、ミロスラーフは満足(まんぞく)げに哄笑(こうしょう)を上げた。倒し甲斐がある、か。そんな相手が()しいのなら近接戦専門の奴を当たって欲しいものだが、まあ、言っても聞くような奴ではあるまい。それに上司(じょうし)命令だろうし。


「さあて、じゃあ、仕切(しき)り直しと行こうぜ!」


 再度、獰猛(どうもう)(けもの)表情(ひょうじょう)を見せたミロスラーフは、(きば)()き、俺へと向かって突進(とっしん)してきたのであった。


次回は明日の21:37に投稿いたします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ