表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

165/209

第一六五話「騒々しい奴を見つけてしまった」

 それから数日後、俺は(あら)たに外壁(がいへき)(つく)る場所の視察(しさつ)(おこな)っていた。勿論(もちろん)外壁という(わけ)なので、海岸の有る西(がわ)、南側を(のぞ)く方向を(かこ)うように構築(こうちく)してゆくことになる。


 ()ずは俺たちの自宅がある北側。此方(こちら)は森が広がっており、それを()けるように海岸沿()いをブルクミュラー侯爵(こうしゃく)(りょう)へと続く街道(かいどう)()びている。その道は大きな塩水湖(えんすいこ)にぶつかったところで湖畔(こはん)沿()うように東へと曲がり、そしてまた北へと延びるやや遠回りな道となっている。深い森を切り(ひら)くよりは良いという考えで()かれたのだろうか。


「新しい北側の(かべ)は森との(さかい)に造る予定なんだな。となると――うちの裏手(うらて)に壁が出来(でき)るのか」


 街道沿いで調査(ちょうさ)をしている俺は役人と一緒(いっしょ)地図(ちず)(なが)めながらそんなことに気付(きづ)いた。()が家は(きゅう)外壁の外に広がるザルツシュタット郊外(こうがい)の一部で、家のすぐ裏手、つまり北側には塩水湖へと続く森が広がっているのだ。新たな壁は其処(そこ)を横切るように造られることになる。


「まあ家の前の畑は南側だし、日の当たり具合(ぐあい)には影響(えいきょう)無いだろうが……夏場は壁に太陽光が反射(はんしゃ)して(あつ)くなりそうだな」

「ああ、それは有りそうですね……」

「となれば、壁の色も考えるべきだな」


 そんな懸念(けねん)事項(じこう)を役人に紙へと書き()めて貰う。壁を白くしてしまうと()り返しがきつくなってしまうだろう。我が家と同じような懸念が有る場所については壁の内側を黒にするのもアリだな。


「しかし、今までは裏手の森へすぐ出られたと言うのに、少し面倒(めんどう)になりそうだ」

「それは……(あきら)めてください」


 役人ににべも無くバッサリと()られてしまった。まあそうなるよな、出口は街道の所に造られるのだから、特別待遇(たいぐう)で我が家の裏手に造る訳にはいかない。外壁は防衛(ぼうえい)目的なのだし、無駄(むだ)な出口は極力(きょくりょく)()らさねば。


「西側と南側は海と(せっ)する訳だし、壁の材質(ざいしつ)風化(ふうか)に強いものにする必要もあるな」


 潮風(しおかぜ)というものはどうしても物質(ぶっしつ)劣化(れっか)させてしまう。〈(かぎ)魔石(ませき)〉を使っていれば大丈夫(だいじょうぶ)かも知れないが、俺はあの魔石の力をそれほど良くは知らない。経年(けいねん)劣化に強いのか(なぞ)なのだ。


「壁の材質についてはレーネと相談(そうだん)して、劣化に強い物を(えら)ぶとするか」

「ハントヴェルカー(きょう)素朴(そぼく)疑問(ぎもん)なのですが、石積(いしづ)みでは駄目(だめ)なのでしょうか?」

「石積みでは残念(ざんねん)ながら魔石の力を()られないんだよ」


 当然(とうぜん)のような役人の質問に、俺は(かた)(すく)めてそう答えた。〈鍵の魔石〉は物体(ぶったい)の中に()()まなければ効果(こうか)()さない。石積みではその条件(じょうけん)()たせないのだ。


 以前レーネから〈コンクリート〉なる壁材(かべざい)床材(ゆかざい)を教えて(もら)ったことがある。生成(せいせい)し水と()ぜたばかりの状態(じょうたい)では流動性(りゅうどうせい)を持っているのだが、時間が()つと強固(きょうこ)変質(へんしつ)するのだとか。これならば中に埋め込むことが可能(かのう)である。と言うかそういう性質(せいしつ)の物質でなければ〈鍵の魔石〉も効果は無い。


「さて、この(あた)りの検討(けんとう)はこんなもんだろう。東側に回って行くか」

承知(しょうち)しました」


 俺と役人は、地図に(したが)い海と反対となる東の方向へと(あゆ)みを進めた。




 町の北東部に到着(とうちゃく)し、地図と(にら)めっこをする。以前魔石と薬の作成依頼(いらい)を受けたことがある伐採場(ばっさいじょう)は、此処(ここ)から(さら)に一時間弱歩いて行かねばならないのだが――


「……そうか、ここから北東側は上り坂だったな」


 北東へ行く道は段々(だんだん)と上り坂になり、伐採場は山の中腹(ちゅうふく)()る。(たし)か他にも採石場(さいせきじょう)があると聞いた(おぼ)えがあり、俺は(しば)黙考(もっこう)した。


「……となれば、伐採場や採石場からの搬入(はんにゅう)(ため)に入口は必要だな。ただ、ここの壁は高く、しかも(もっと)頑丈(がんじょう)に造る必要があるし、物見(ものみ)も用意すべきだろう」

「それは何故(なぜ)ですか?」

「先ず入口の理由(りゆう)については話した通りだが、同時にそういった搬入の(さい)不審者(ふしんしゃ)が中に(まぎ)れ込む可能性がある。だから最も厳重(げんじゅう)にすべきなんだよ」


 俺も過去(かこ)にサクラ帝国を(みつ)出国した経験(けいけん)があるから、その辺の警戒(けいかい)すべき点は理解(りかい)している。大量の材木などの物資(ぶっし)(かく)れる、と言うのはスタンダートな侵入(しんにゅう)手段(しゅだん)だろう。


 そんな内容を役人にまた書き()めて貰っていたのだが、伐採場の方向から歩いてくる一人の女性の姿(すがた)に見覚えがあり、俺は思わず手を止めてしまった。あの水色の特徴的(とくちょうてき)な明るい(かみ)は――


「おや? リュージさんじゃないですか! やっほー!」

「……やっぱり、アイネか」


 相変(あいか)わらずやたらめったら元気で脳天気(のうてんき)な学者様は、俺の姿を見つけ、千切(ちぎ)れんばかりにぶんぶんと手を()ったのだった。


※おわび


脳天気石炭オタク学者の名前をずっと間違えたまま第三章を執筆していましたorz

アンネではなくアイネです。アンネは冒険者ギルドのお姉さんじゃねーか!

キャラ設定したとき「間違えやすいかな?」と思ったけど案の定間違えたよ!

第三章の方も直っております、申し訳御座いません。


--


次回は明日の21:37に投稿いたします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ