表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

138/209

第一三八話「彼女の不調の原因は俺に心当たりが有り過ぎた」

 戦時(せんじ)ではあるものの、王都ラウディンガーは以前来た時と(あま)り変わった様子(ようす)は無く、人々は普通に()ごしているように見えた。


 ()いて言うならば、巡回(じゅんかい)している警備兵(けいびへい)の数が多かった。彼()だけは市井(しせい)動向(どうこう)(きび)しい視線(しせん)を送っている気がしたのは間違(まちが)いでは無いだろう。


「なるほど、それでお二人でラウディンガーまでいらっしゃったのですね。お(つか)れ様でした」


 俺は一人で応接間(おうせつま)()っていたところ、すぐにツェツィーリエ王女殿下(でんか)がディートリヒさんを(ともな)いいらっしゃった。


 レーネはどうしたのかと言うと、王都に着いた途端(とたん)に再び調子を(くず)し、彼女を()き上げたまま王城を(おとず)れたのだ。衛兵(えいへい)(かた)も前と変わっていなかったので、俺の顔を見てすぐに中へと通し、レーネを別室で休ませてくれていると言う(わけ)だ。


有難(ありがと)うございます。それと、急なお(ねが)いにも(かか)わらず(つま)に部屋をお貸し(いただ)感謝(かんしゃ)します」

「お二人とも、()が国にとっては大恩(だいおん)ある方です。無碍(むげ)(あつか)うことなど出来(でき)ませんわ」


 殿下は俺を安心させるように微笑(ほほえ)みながらそう(おっしゃ)った。きっとレーネは俺を心配(しんぱい)させまいと気を()ったままここまで歩いてきたのだろうな。大事(だいじ)無ければ良いのだが。


「レーネさんにはすぐに王都に()る女性のお医者様を呼んだので、今()(もら)っていると思います」

「本当ですか!? (かさ)(がさ)ね、有難うございます!」


 やっとレーネの状態(じょうたい)が分かるのか。頑張(がんば)って王都まで歩いてきた甲斐(かい)があったと言う物だ。オマケに女性の医者を呼んでくれるという配慮(はいりょ)仕方(しかた)流石(さすが)はレーネと同性の殿下と言えよう。


「それでリュージさん、話は変わりますが……黒幕(くろまく)とも言えるエメラダはどのような人物なのでしょうか? 聞けば、リュージさんの恩師(おんし)にあたる人なのですよね?」

「あー、そうですね……」


 早速(さっそく)、殿下にエメラダの事を(たず)ねられたのだが……(じつ)の所、俺はあの人のことをよく知らない。名前すら教えて貰えなかったのだ。人となり(くらい)なら三年間一緒(いっしょ)に過ごしたので分かっているが、それ以上の事となるとよく分からないのが実態(じったい)だ。


 分かっているのは、エルフであり、レーネの実姉(じっし)であり、魔術師であり、元神官(しんかん)であり、何故(なぜ)か権力者を目の(かたき)にしていると言うこと。それ以上の事は俺にも分からない。


 その事を説明すると、殿下は残念(ざんねん)そうに溜息(ためいき)()いておられた。助けて貰っているのに力になれず(もう)し訳ない所だ。


「いえ、待ってください。エルフの神官で、エメラダ、ですか?」


 と、ここで反応(はんのう)したのは殿下ではなくディートリヒさんだった。心当たりが有るような言い方だ。


「ディート、何か知っているの?」

「……はい、エルフの神官など(めずら)しいですからね……、(たし)か、昔冒険者ギルドでそんな人物に会ったことが有ります。間違い無い」


 ディートリヒさんは確信(かくしん)を持った言い方をしているし、これはギルドに行けば何かしらの手掛(てが)かりは()られそうだな。


 ……というか――


何故(なぜ)、ディートリヒさんが冒険者ギルドに? それも昔って言いましたよね」


 確かディートリヒさんは公爵(こうしゃく)家の次男だった(はず)だ。そんな人物が少年時代に冒険者ギルドと関わりがあったのか?


 俺の当然(とうぜん)のような質問に、ディートリヒさんは「そ、それは……」と何やら言葉を(にご)している。なんだ、気になる。


「ふふ、ディートは昔冒険者になりたかったそうなのです。それで冒険者ギルドに立ち()っては追い出されていたそうですよ」

「ツ、ツェツィ様!」


 楽しそうな殿下の暴露(ばくろ)に、ディートリヒさんは顔を真っ赤にして(あわ)てていた。へえ、この実直(じっちょく)近衛(このえ)騎士(きし)様にもそんな腕白(わんぱく)な時代があったのか。今でこそお転婆(てんば)な姫様に()り回されていると言うのに。


「と、とにかく! 昔、何時(いつ)ものように冒険者ギルドに乗り()んだのですが、その時(やさ)しそうなエルフの女性神官に(さと)されたことがあるんです! 仲間からは確かに『エメラダ』と呼ばれていました!」


 大きく咳払(せきばら)いをした後、ディートリヒさんはそう付け(くわ)えた。成程(なるほど)、先生は(きび)しくはあるが優しい人だからな。同一人物の可能性は高い。


 であれば、黒幕のエメラダを知っている俺が確認しに行けばその真偽(しんぎ)がはっきりするだろう。思い()けず、王都で手掛かりが得られることになろうとは。


「では、今日はもう(おそ)いので明日俺が確認に――」


 俺がそう言い掛けたところ、ノックの音がした。ディートリヒさんがすぐに向かってドアを開けると、其処(そこ)には白衣(はくい)(まと)った女性が立っていた。


 ディートリヒさんはその女性と二言(ふたこと)三言(みこと)言葉を()わし、そして(おどろ)いたような表情(ひょうじょう)()かべていた。一体何だと言うのか。


「ディート、今のはお医者様よね? 何だったの?」


 女性が()って行った後、殿下にそう尋ねられたディートリヒさんだったが、何やら俺に意地(いじ)の悪い笑みを浮かべてから小声で殿下へと(つた)えていた。何だ、この人がこんな顔をするなんて珍しいな。


 すると殿下は殿下で、「まあ!」と両手を(たた)いておられた。え、何ですか。俺だけ蚊帳(かや)の外ですか。


「リュージさん」

「は、はい」


 呼ばれた俺は居住(いず)まいを(ただ)し、殿下の()言葉を待った。


 殿下はと言うと、満面(まんめん)の笑顔でこう仰ったのだった。


「レーネさん、おめでたらしいですよ?」


次回は明日の21:37に投稿いたします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] どうしてこんな大変な時期にそんなことになってるんだよ! というか、めでたいお話だけどさ!このタイミングは流石にダメじゃないか? あーもう、このままレーネを王女様達に預けておかないといけな…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ