表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

124/209

第一二四話「その邪術師の名前は」

 気絶(きぜつ)したままのミノリの手当(てあ)てをしてから、(つか)れた身体を引き()り全員で自宅へと(もど)った。まさか殺したと思った相手が不死人(アンデッド)になって戻ってくるとは思ってもみなかったし、どちらかと言うと精神的な疲労(ひろう)の方がきっつい。


 避難(ひなん)していた人たちへは安全が確認された(むね)を話し、各々(おのおの)仕事に戻って(もら)った。と言っても、もう夕方になるので仕事は終わりだろうが。


 深手(ふかで)()ったミノリも目が()めたものの、(しばら)くは安静(あんせい)にしている必要があるらしく、ベルに介護(かいご)手伝(てつだ)いを(たの)んでおいた。俺がアデリナの幻覚(げんかく)()まっていなければ、こんなことも無かったんだろうな。妹にはすまないことをした。


「そんな(わけ)で、(やつ)は不死人となって戻ってきていたってことだ。俺も不覚(ふかく)を取って死にかけたが、一応、こうして生きている」


 まあそれはそれとして、こうして帰宅が(おく)れた経緯(いきさつ)を話すと全員に盛大(せいだい)溜息(ためいき)()かれた。おい、流石(さすが)にちょっと傷つくぞ、その反応は。


「リュージって、死にかけてもこうなの?」

「ん。前も生死(せいし)(さかい)彷徨(さまよ)ったことあるけど、基本は全然反省(はんせい)が無い」


 レーネとスズが何やら小声で話しているが、耳の良いエルフでなくても聞こえてるからな。と言うか、わざと聞こえるように話してるんだろうか。それにきちんと反省してるぞ、失礼な。


「でも、おかしい」

「何がおかしい?」


 スズが首を(かし)げて(うな)っているので問い()けてみる。俺の説明に何処(どこ)か引っ掛かる点があったのだろうか? 一度死んだ邪術師(じゃじゅつし)()い戻ってきただけだと思うのだが。


「あの邪術師、(あき)らかに生前(せいぜん)より強かった。基本的に、産まれたばかりの不死人は生前と同程度(どうていど)の力か、弱体化している(はず)

「そう言うもんなのか」

「そういうもの」


 スズは自信満々(まんまん)に答えているし、(おそ)らくそれは真実(しんじつ)なのだろう。何しろ俺たちの中で(もっと)も魔術の知識(ちしき)()けているのだし、邪術の(たぐい)も使わないだろうが勉強したことがあるんだろうな。


 しかしスズの言うことももっともだ。そもそもアデリナは「復活(ふっかつ)するのに半年掛かった」と言っていた。


 だが先程(さきほど)戦った時、レーネの〈ナパーム〉を食らって黒焦(くろこ)げになったにも(かか)わらず、俺が来た時には(すで)に無傷と言える(くらい)に回復していた。これは一体どう言う事だ。


「ここ最近で、(やつ)が力を付ける何かの出来事(できごと)があった、って事か……?」

「リュージ(にい)、たぶんそれが正解」


 グッと親指を立てる末妹(まつまい)(うれ)しくない正解なんだが。


「復活してから今日までの間に魔晶(ましょう)吸収(きゅうしゅう)して強くなったのかな?」

「あれは人の命を材料にして作られる物。だから、最近(さいきん)大量失踪(しっそう)事件でも起きてない(かぎ)り魔晶は(あら)たに手に入らない。でも、その視点(してん)は悪く無い」


 レーネの予想(よそう)はスズが即座(そくざ)否定(ひてい)したものの、魔晶で強化されたという可能性(かのうせい)はあるって事か。(たし)かに、ガイは魔晶で付与術(ふよじゅつ)凌駕(りょうが)する強化を受けていたしその線は考えられるな。


「魔晶ってなに?」

『なに?』


 アイとフランメが仲良(なかよ)く質問してきた。そう言えば、魔晶について話したことは無かったか。


「魔晶は、邪術師が人の命を材料にして作り出した物質(ぶっしつ)なの。それを使うと人体を強化させられるし、ただの人や(けもの)魔人(まじん)魔獣(まじゅう)に変えることも出来る」

「邪術師が……人の命を材料にして……?」


 レーネの説明を聞き、眉間(みけん)(しわ)()せて考え込んでいたアイだったが、何かに気付(きづ)いたかのようにハッと顔を上げた。


「……以前、ゴルトモントの暗部(あんぶ)が邪術師に全滅(ぜんめつ)させられたって話、したよね……?」

「ゴルトモントの……」


 そうだ、アイがゴルトモントの暗部に入る前、二〇人程()たその部隊(ぶたい)が全滅させられたと言う話か。覚えてはいるが――


「覚えてはいるが、それは去年(きょねん)の夏(ごろ)の話だろう? 俺たちがアデリナを(たお)したのは晩秋(ばんしゅう)の頃だ」


 と、答えたのだが、愛娘(まなむすめ)はかぶりを()っている。俺の考え方と何処か齟齬(そご)があったらしい。


「そうじゃない。さっきのアデリナとか言う邪術師が暗部を全滅させた訳じゃなくって、その全滅させた別の邪術師が、アデリナに力を(あた)えたんじゃないかって」

「……ああ、そういうことか」


 成程(なるほど)、ならば得心がいった。となると――


「……まだ近くに、その邪術師も居るってことか?」


 俺の問い掛けに、アイは真剣(しんけん)な表情で(うなず)いた。


「たぶん、そう。死んだ暗部がダイイングメッセージを残していたから、私は、その邪術師の名前も覚えてる」


 そして愛娘が教えてくれた邪術師の名前。


 それは俺たちも知っている名前であり、レーネは(ひど)くショックを受けた様子(ようす)で、(しば)呆然(ぼうぜん)(たたず)んでいた。まさかここで、その名前を聞くことになるとは――


「エメラダって言うらしいよ」


 ……きっとその邪術師は、レーネの実姉(じっし)のエメラダに間違(まちが)い無いのだろう。


次回は明日の21:37に投稿いたします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ