表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

120/209

第一二〇話「幕間:招かれざる客(前編)」

※レーネ視点です。

「わっ!?」


 手にしていたガラス(せい)のビーカーにヒビが入り、私は中の薬剤(やくざい)()れないよう(すみ)やかに別のビーカーへと(そそ)いだ。危ない危ない、石床(いしゆか)()かしてしまう所だった。


「レーネ師匠(ししょう)、どうしたんですか?」


 錬金術(れんきんじゅつ)を教えている弟子(でし)の一人が、(あわ)てた様子(ようす)の私を見て怪訝(けげん)な表情を()かべた。何でも無いよ、と答えて作業に(もど)らせる。おかしいなぁ、別に熱を(くわ)えすぎた(わけ)じゃないのにヒビが入るなんて。(もろ)くなっていたのかも。


「それにしても、リュージ(おそ)いなぁ」


 付与術師(ふよじゅつし)たちのスペースでリュージの()わりとして(いそが)しそうに後輩(こうはい)たちを指導(しどう)するベルをぼうっと見ながら(つぶや)く。王女殿下(でんか)と少し話してくるだけと言っていたけど、話が長引(ながび)いているんだろうか。


 と、そんなことを考えていたら――突然(とつぜん)、外でバチィッという大きな音が鳴り(ひび)いた。


「なんスか、この音?」


 ベルだけでなく、他の弟子たち全員が手を止めてざわつき始めた。正体(しょうたい)不明の音を確認するため外に出ようとしている女の子も()たけど――


()って! 出ちゃ駄目(だめ)!」


 外へ出ようとした女の子を、私は(あわ)てて(うで)を引っ()り引き()めた。この音自体に聞き(おぼ)えは無いものの、音の発信源(はっしんげん)に心当たりがあったのだ。


「みんな、家から出ないでいて、絶対(ぜったい)に」


 私はそう言い残し、ミノリとスズちゃんを呼びに廊下(ろうか)を走ったのだった。




 玄関(げんかん)のドアを慎重(しんちょう)に開け、ミノリとスズちゃんが外の様子を(うかが)った。今外では畑仕事に従事(じゅうじ)している方々(かたがた)がいらっしゃる(はず)で、その人たちもすぐに避難(ひなん)させたい。何しろ――


「スズ、もう一度確認するけど、さっきの音は邪術師(じゃじゅつし)結界(けっかい)()れた音で間違(まちが)い無いんだね?」

「ミノリ(ねえ)しつこい。スズが()った結界なんだから間違える筈が無い」


 度重(たびかさ)なるミノリの確認に、スズちゃんも少し眉間(みけん)(しわ)()せていた。でもミノリの気持ちも分かる。相手が本当に邪術師であれば覚悟(かくご)を決めて行かないといけないもんね。


 こういう時に冷静(れいせい)判断(はんだん)出来(でき)るリュージが居ないのは心細い。本当に、何処(どこ)で何をしているんだろう?


「おっけー、外に出ても大丈夫(だいじょうぶ)。敵の気配(けはい)は無いよ。あたしとスズが警戒(けいかい)してるから、レーネは(みな)をお(となり)の家に避難させて。あと、可能(かのう)ならアイとフランメを()れてきて」

「うん、分かった!」


 ミノリの合図(あいず)で外に出た私たちは一斉(いっせい)(ばら)ける。そして私は畑でお仕事をしている方々へ事情(じじょう)を話し、速やかにラナちゃんたちの家に誘導(ゆうどう)してゆく。畑が広いから大変だ。


 全員を避難させてから自宅前に戻り、アイちゃんとフランメを連れてミノリたちの下へと戻ったのは三〇分後だった。予想以上に時間が()かってしまった。


「さっきの音って何だったの?」


 (かか)えていたフランメを足元に下ろしたアイちゃんが不安そうに(たず)ねる。この子には普通の生活をして()しい所だったけれども、リュージの居ない今、戦力は多い方が良いものね。


 それにしても、〈カシュナートの魔石(ませき)〉を持っているのがリュージである(ため)、フランメと意思(いし)疎通(そつう)が出来ないのはちょっと(つら)い。フランメの方は()たして私たちの言葉を理解(りかい)しているんだろうか? だったら良いんだけど……。


「結界の中に邪術師が侵入(しんにゅう)しようとした時に(はじ)き返した音」

「じゃっ……!?」


 スズちゃんはいつものトーンで話しているけど、アイちゃんにとっては邪術師を相手取るのは初めてだろうし、(おどろ)くのも無理は無いよね。そういう意味では私たち、()れなくても良いことに慣れちゃっているのかも。


「スズ、相手が居る場所は分かる?」

「ん、南(がわ)雑木林(ぞうきばやし)。結界の衝撃(しょうげき)で無傷じゃないと思うから、回復される前に(ねら)うが(きち)

「オーライ。……みんな、ここから先は命のやり取りだ。本気で行くよ」


 ミノリの言葉に、フランメも(ふく)めて全員が(うなず)いた。私も錬金銃(れんきんじゅう)を取り出し、弾薬(だんやく)()めてから(つえ)を持たない右手の方に持った。どんな相手かは分からないけれども、〈神殺(かみごろ)し〉の力を持つ邪術師に対してこの武器が非常に有効(ゆうこう)であることは実証(じっしょう)()みだ。


 準備(じゅんび)を終えた私たちは、邪術師が待っている筈の畑の南側にある雑木林へと(あゆ)みを進め始めたのだった。


次回は明日の21:37に投稿いたします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ