表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

117/209

第一一七話「見間違いで無けりゃ、その人は――」

「と言う(わけ)できちんと紹介(しょうかい)してなかったな。ウチの娘になったアイだ、仲良くしてやってくれ」


 翌日(よくじつ)、俺は朝一の畑仕事を終えた隣家(りんか)の姉妹、ダークエルフのラナとエルフのレナにアイを紹介していた。姉のラナはアイと同い年であり、友達を持つことで(すさ)んだ娘の心に少しでも子供らしい感情が持てるのではと考えてのことだ。


「別に、わざわざアンタに紹介されなくったって……ごっ!?」


 ()(かく)しなのか本気なのか分からないがぶつぶつと(つぶや)いていたアイの頭頂(とうちょう)に、大きな音がする(くらい)(いきお)いで拳固(げんこ)が落とされた。ちなみに俺がやったのではなくレーネの仕業(しわざ)である。容赦(ようしゃ)ないなおい。


「こーら、アイちゃん? 折角(せっかく)パパがお友達を紹介してくれたんですよ? それに何ですか、パパを『アンタ』なんて呼び方して。ママはそういうの(ゆる)しませんからね?」

「あ、あうあうあう……」


 頭の痛みとレーネの説教(せっきょう)で涙目になっているアイである。過酷(かこく)修行(しゅぎょう)()()いた忍者(にんじゃ)と言えど、母の(しつけ)には勝てなんだか。


「あなたもきちんと(しか)ってあげてください! 父親なんですから!」

「え、あ、すまん」


 なんか俺まで説教された。そんな事を言われても、と言い返したかったが今のレーネは(あき)らかに俺より強い。腕力(わんりょく)的な意味では無く、家庭内のヒエラルキー的な意味で。


「アイちゃんだね! 私はラナ! こっちが妹のレナだよ! よろしくね!」

「よろしくー?」


 人懐(ひとなつ)っこい笑みを()かべるラナと無表情で諸手(もろて)()げた(なぞ)のポーズを取っているレナ。妹は不思議(ふしぎ)ちゃんだが姉は活発(かっぱつ)でコミュニケーション能力に()けている。アイの良い友達になってくれるだろう。


「う、うん、よろしく……。……それで、その子は……? 私の見間違(みまちが)いじゃなきゃ、(りゅう)に見えるんだけど……」


 アイがそう言って指さすのは、魔術で小型になりラナに(かか)えられた火竜(かりゅう)のフランメである。すっかりラナたちの(うで)の中が定位置(ていいち)になっているな。


「あれ? フランメ知らないの? もう! たまにはおうちに帰らないと駄目(だめ)だよフランメ!」

『だってめんどくさいんだもん』


 ラナにぷりぷりと叱られるも適当(てきとう)に流すフランメ。(しばら)く帰って来ないと思っていたらこの火竜、どうやら隣家で()らしていたらしい。自由な意思(いし)疎通(そつう)可能(かのう)とさせる〈カシュナートの魔石(ませき)〉は俺が持っているし、言葉が(つう)じないから不便(ふべん)だろうに。


「フランメもアイのことを(よろ)しくな。事情(じじょう)があってウチの子になったんだ」

『良きに(はか)らえ』

「……なんかこの竜、女の子に抱えられてる(わり)(えら)そうなんだけど……?」


 困惑(こんわく)した様子(ようす)のアイが、フランメを指さしながら俺を見上(みあ)げて(たず)ねる。実際(じっさい)の所フランメは俺よりも長く生きている竜なのだし、偉いかどうかは()(かく)として彼女にとっては人間など矮小(わいしょう)存在(そんざい)()ぎないのだろうな。




 その後俺は一人でライヒナー(こう)(やかた)へ向かい、アイを養女(ようじょ)として(むか)え魔術制約(せいやく)解除(かいじょ)した(むね)を王女殿下(でんか)へお(つた)えした。


 殿下には「リュージさんとレーネさんがそれで良いなら」と(おっしゃ)って(いただ)けた。まあ殿下の中では万が一アイが俺たちを裏切(うらぎ)ったとしても二度とゴルトモントの地を()めないと言うことは理解(りかい)しているからこそ、あっさりと許してくれたのだろう。何しろゴルトモントの痛い(はら)(すべ)て殿下が把握(はあく)されているのだ。


 殿下への報告(ほうこく)も終わり、さて用事(ようじ)()んだしとっとと帰ろう、と大通りへ出た矢先(やさき)のことだった。


「……あれ?」


 大通りの、自宅へと向かう方角(ほうがく)とは反対(がわ)に、(なつ)かしい人影(ひとかげ)を見た気がした。


 いや、あれは――間違(まちが)い無い。どうして――何故(なぜ)此処(ここ)に?


「……『先生』……だよな……?」


 そうだ、あれは『先生』だ。レーネと同じ萌葱色(もえぎいろ)(かみ)に、エルフの特徴(とくちょう)である長い耳を持つ女性。そして何よりも特徴的な、俺の身長(ほど)にも長い金属(きんぞく)(せい)(つえ)。あんなエルフに似合(にあ)わぬ杖を持つエルフなど、一人しか居ない。


 『先生』は三年間俺たち兄妹(きょうだい)へ生きる(すべ)(きび)しくも(やさ)しく教えてくれたが、七年前に何処かへ旅立(たびだ)ってしまった。それが、何の運命(うんめい)悪戯(いたずら)なのかこの地を(おとず)れてくれたと言うのか。


 俺の足は自然と、『先生』を追い()けて()け出していた。




「……何処へ、行ったんだ?」


 裏路地(うらろじ)を入り進んで行くと、そこは山道(やまみち)となっていた。此方(こちら)へと曲がるのは見えたのだが、忽然(こつぜん)とその姿(すがた)は消えてしまった。


「まさか、邪術師(じゃじゅつし)幻惑(げんわく)(たぐい)を掛けられたのか?」


 俺は一瞬(いっしゅん)そんなことを考えたが、邪術師が俺と『先生』の関係を知っているとも思えない。ならば、あれは現実の『先生』なのだろう。となると――


「この山道の先……? いや、しかし……こんな所に何が?」


 別の道から一度来たことがあるが、(たし)かこの先は町を一望(いちぼう)出来(でき)る小さな山の頂上だった(はず)だ。町が見渡(みわた)せるだけで、特段(とくだん)何があると言う訳でも無い。整備(せいび)された山道でも無いので観光(かんこう)スポットと言う訳でも無い。


 ただ――この先に、居るような気が、する。いや、間違い無く――居る。


 一つの確信(かくしん)(むね)に、俺は山道を(のぼ)り始めたのだった。


次回は明日の21:37に投稿いたします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ