第一〇九話「本気で行かせて貰おうじゃないか」
少女は再び棒のようなものを投げつけてきたが、今度は俺が標的だった。恐らくこの中で最も脅威だと感じて優先すべきだと思ったのだろう。
だが如何せん狙いが単純すぎる。目や心臓などの急所を狙っているのだろうが、毒が塗ってあるのならば掠めるだけでも致命傷になるだろうに。この少女、戦闘経験が足らないな。
「ふっ!」
「えっ、嘘!?」
俺は再びそれらを杖で弾き飛ばし、最後の一本は器用に打ち返してやった。慌てて右手のナイフで弾く少女に隙が出来た為、すかさず杖を構えて詠唱に入る。
「魔素よ! 私の元へ集いあの者を貫きなさい! 〈ライトニング〉!」
「魔素よ、集まり電撃となりて奴を貫け、〈ライトニング〉!」
レーネと時間差で容赦無く電撃魔術を放つ。二本とも少女の胸を正確に狙ったのだが――彼女はピンピンしており、構わず三度棒を放ってきた。慌てずそれらを正確に叩き落とす。
「……効いていない? 〈アンチ・マジック〉効果のある何かを持ってるのか!」
「今度は正解よっ!」
言うが早いか少女はナイフを手放し、両手で複雑な印を作る。〈アンチ・マジック〉が掛かっているという事は彼女も魔術が使えない筈なのだが、何をする気だ。
「来なさい〈ライデン〉! あの者たちをお前の雷で焼き殺せ!」
高らかに少女が虚空へそう呼び掛けると、直後、彼女の前に空間の歪みが生じた。
そして数秒後、独鈷を持った三メートル級の浅黒い肌を持った巨漢が現れた。厳つい顔の巨漢は仁王立ちして俺を見下ろしている。圧倒的な存在感だ。
「俺よりもデカいだと!?」
「どうでもいい情報ですね!?」
俺の驚きに対して突っ込みを入れたのはアイネである。すまねぇ、誰かを見上げるのって新鮮なものだったんで。
……それにしても、魔力も無しに召喚を行った上に、呼び出した〈ライデン〉とやらの名前と出で立ちに少し覚えがあった。もしや、この少女は――
「……お前、俺と同じくサクラ帝国の出身か」
俺はライデンと睨み合いをしながら、召喚で体力を使い果たし肩で息をしている少女へそう言葉を投げ掛けた。彼女は疲労に喘ぎながらも、顔を上げて俺を睨み付けた。だが正体を見透かされた所為か、何処か焦りの色が見える。
「だ……、だったら、どうした……」
少女は歯を食いしばりながら、残り僅かな体力を振り絞って答える。やはりそうだったか。あの棒型の武器と言いこの面妖な術と言い、俺の故郷で覚えがある。
だが、まだ年端も行かぬサクラの少女が何故ゴルトモントの刺客をやっているのか。ここに居るのは不自然極まりないし、どのような事情で大陸の端から端に流れ着いたと言うのだろう。
「……しかし、動かないな此奴。生きてんのか?」
この召喚獣に生死という概念があるのかは知らないが……睨み合いを続けていた目の前の〈ライデン〉には動く気配が全く無く、俺は眉を顰めた。少女は「焼き殺せ」なんて言っていたが、命令が通じていないのか?
「ど……、どうした〈ライデン〉、命令を……遂行、しろ……」
「……オオオオオオオオ!」
「うわっと!?」
「リュージ!」
息も絶え絶えな少女が力を振り絞って命令した途端に動き出した〈ライデン〉がいきなり独鈷で俺の頭をぶん殴りに来た為、俺は既の所で飛び退ってそれを躱す。〈大金剛の魔石〉があるとは言え、食らって弾き返せるかは分からない。何しろ相手は魔力を使わずに召喚されたのだ。未知の攻撃は躱していった方が良いだろう。
「魔素よ! 私の元へ集いあの者を貫きなさい! 〈ライトニング〉!」
再びの電撃魔術がレーネの杖と〈ライデン〉との胸を繋ぐ。隙を突いて撃ってくれたのは良いのだが、此奴には――
「えっ、こっちにも効かないの!?」
蚊ほどもダメージが無かったようで再び俺に殴りかかってきた〈ライデン〉の姿を見て、レーネが狼狽える。しかしながら、俺には何故効かないのかは分かっている。
「レーネ! 此奴に電撃魔術は効かないぞ! 他ので頼む!」
「う、うん! 分かった!」
そうだ、思い出した。目の前に居るのはサクラでのみ祀られている雷神の一柱だ。流石にかつてアデリナが呼び出したものと同じくコピーなのだろうが、それでもこれだけの力を持つ存在を喚び出したのだから少女が疲労で動けなくなっているのもさもありなんと言った所である。
「神様相手にゃ出し惜しみして居られないな。本気で行くぞ!」
俺はそう言い捨ててから〈フューレルの魔石〉の加護を得るべく杖を放った。これで徒手空拳となり俺の力は増した。さて、仕切り直しと行くか!
次回は明日の21:37に投稿いたします!