表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

106/209

第一〇六話「俺は伐採場の業務改善に来たんだが」

「そういう事でしたか……、血気(けっき)(さか)んな作業員ばかりで(もう)(わけ)ありません」


 現場(げんば)監督(かんとく)のハイムさんへ何故(なぜ)俺が作業員全員を()してしまったのかを説明すると、彼は項垂(うなだ)れ、溜息(ためいき)()いた。何というか、苦労が(うかが)えるな。


 ちなみに伸されてしまった作業員にはレーネの薬を試供品(しきょうひん)として(くば)っておいた。アフターケアに(くわ)えてちゃんとアピールすることも忘れない。


「なんだこの薬!? (うそ)みたいに痛みが引いたぞ!?」

「エルフの薬なんて胡散(うさん)(くさ)いと思っていたが……これは(みと)めざるを()んな」


 どうやらレーネの薬は人間の作業員だけでなく、エルフと仲の悪いドワーフにも好評(こうひょう)らしい。種族(しゅぞく)同士の確執(かくしつ)など気にも()めていないうちの(つま)は、ドワーフ相手であろうともニコニコと愛嬌(あいきょう)()()いている。可愛(かわい)い。


「それで、早速(さっそく)本題(ほんだい)に入っても良いですか?」

「あ、はい、現場の声ですね。問題としては色々(いろいろ)と上がっています。こちらをご(らん)下さい」


 おっと、作業員の声をきちんと(まと)めてあるらしく、ハイムさんは紙束(かみたば)(わた)してくれた。どうやらあの(あら)くれ者(ども)(ちが)ってこの人は論理的(ろんりてき)思考(しこう)を持ち合わせているようだ。


「『仕事量に対して作業の進みが悪い』、『仕事量に対して人が足りない』、『製材(せいざい)道具が()ぐに駄目(だめ)になる』……まあ、ここら(へん)(いそが)しい現場なら何処(どこ)でも有り()るだろう問題だなぁ」


 俺たちの仕事としてはこれらの問題に対して、()ずは解決(かいけつ)方法を(しめ)してあげることだろうな。そこからコスト面と向き合って現実的な方法をチョイスするのが筋道(すじみち)である。


 その後、俺は作業員たちへ伸してしまった事を丁寧(ていねい)()びつつ、これらの問題について詳細(しょうさい)を聞いて回ることにした。




「大口の依頼(いらい)が来て給料も上がったのは良いんだけどよ、何しろ忙しすぎる。数日に一度は町の自宅に(もど)るんだが、可愛い娘にも忘れ()られそうで(まい)ってんだ」


 ……とぼやいているのは最初に俺へ喧嘩(けんか)()()けてきた荒くれ男である。頭突(ずつ)き一発で俺に伸された(ため)若干(じゃっかん)(おび)えていたが、真摯(しんし)に向き合ってみたら別に悪い男でも無かった。話し合いって大事(だいじ)だな、うん。


 それにしても、俺より年上だとは思っていたが結婚(けっこん)していて娘まで()るのか。数日に一度しか娘の所へ帰れないってのは可哀想(かわいそう)だな。


「人が増えればローテ……、えーと……一人一人の仕事量も少なくなるんでしょう? 新人は入って来ていないんですか?」

「あー、キツくて()めていくのも多いからな。それでも前よりゃ作業員も増えてるが」


 成程(なるほど)、仕事量が多すぎる為に求人(きゅうじん)はすれども、その仕事量の多さで辞める人も多いのか。中々(なかなか)上手(うま)くいかないものだなぁ。


「であれば、少しでも仕事の負荷(ふか)……、えーと……(つか)れることを減らせれば辞めていく人も減る可能性(かのうせい)はありますね」


 俺は一先(ひとま)(もっと)身近(みぢか)な解決方法から提案(ていあん)してみた。ちなみに先程(さきほど)から言葉を(えら)んでいるのは、きちんと相手に(つた)わる言葉でないと不幸な出来事(できごと)が起きるということを学んだからである。レーネにも怒られたので。


「疲れることを減らす? そんなこと出来んのか?」

「〈アルテナ〉なら可能です。(たと)えば疲労(ひろう)回復の薬とか、後は力が付く魔石(ませき)を持っていて(もら)うとか、色々と考えつきますよ」


 荒くれ男から(うたが)いの眼差(まなざ)しを向けられたが、俺は(むね)()らして自信満々(まんまん)にそう答えた。レーネの疲労回復薬はばっちり()くだろうし、俺だったら体力を増強(ぞうきょう)させる〈昇華(しょうか)の魔石〉や腕力(わんりょく)を増強させる〈豪腕(ごうわん)の魔石〉など色々と提案出来る。


 ただ、何でもかんでも提案した所でこの伐採(ばっさい)現場がその依頼料を支払(しはら)えるかどうかはまた別問題となる。この(へん)経費(けいひ)だとかを管理(かんり)しているだろう現場監督のハイムさんでないと分からんだろうから、先ずは彼に提案してみる所からだな。




 他の人にも色々と聞いて回ってから、同様(どうよう)に人間中心で聞き取りをしていたレーネと合流(ごうりゅう)してハイムさんの下へ(もど)ってきた。彼は何やら真剣(しんけん)に材木の状態(じょうたい)を調べているようだったが、こちらに気付(きづ)いて作業の手を止めてくれた。


「ああ、どうですか? 何か問題解決に向けた方法などは見つかりましたか?」

「はい、色々と有りますよ。ですがコスト面で見合(みあ)った方法をご提案した方が(よろ)しいかと思い、先ずはハイムさんに――」


 俺はそこで視界(しかい)に入ったあるものに気づき、言葉を止めそちらを向いた。視界の(はし)不思議(ふしぎ)そうにレーネとハイムさんの二人が俺を見つめているのが見えたが、俺の視線(しせん)はそのあるものに釘付(くぎづ)けになっていた。


「……何してんだ、ありゃあ」

「え? ……あぁ、アレ、ですか」


 若干(あき)()じりの俺の声に振り向いたハイムさんも、俺が見つめている(がけ)中腹(ちゅうふく)を見て苦々(にがにが)しい表情を()かべた。どうやら彼はアレを知っているらしい。


「……あれ、何してるのかな?」


 レーネも気になったらしく、首を(かし)げていた。何しろその急な崖の中腹では、一人の女性が採掘(さいくつ)を行っているのである。あんな所で採掘とは、そんなに貴重(きちょう)鉱物(こうぶつ)でもあるんだろうか。そうは見えないんだが……。


「って、おい!」


 俺はそう(さけ)びつつ、(あわ)ててそちらの方へと()け出した。何しろ、その女性が足を(すべ)らせて崖を(ころ)がり始めたのだ。


 女性は途中(とちゅう)()えている()にぶつかりつつ落下を続けていたが、そのお(かげ)で地面激突(げきとつ)までの時間が(かせ)げた為に、(たた)きつけられる寸前(すんぜん)でキャッチすることが出来た。


「あ、危なかった……、何なんだ、一体……」


 俺は気絶(きぜつ)している小柄(こがら)なその女性の顔を見つめそうぼやいた。女性は俺と同じ(くらい)年頃(としごろ)だろうか。明るい水色のショートヘアには頭を打った時の出血だろう、赤いものがこびりついていた。


「……レーネ、取り()えずこの場で手当てだ。ハイムさん、管理小屋を借りても良いですか?」


 訳も分からないままに、俺は二人へそう声を掛けた。伐採場の依頼で来たと言うのに、何か面倒(めんどう)なことが()()んできそうな予感がする。


次回は明日の21:37に投稿いたします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ