表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

105/209

第一〇五話「こうなったのは俺の所為じゃないし」

 町から北東へ一時間(ほど)歩いた場所にある伐採場(ばっさいじょう)では、人間、ドワーフの木こりが作業に(いそ)しんでいた。(みな)(おの)やノコギリを使って伐採を行っており、残す()もそれなりにあるようだし、これは間伐(かんばつ)と言って良いのだろうか。


 俺とレーネがそこを(おとず)れると、すぐにちらちらと作業員からの視線(しせん)を感じるようになった。まあ、視線を集めているのは俺と言うより――


「え、あれってエルフじゃねーの?」

「もしかして、伐採に文句(もんく)付けに来たとか?」

「…………えーと」


 伐採場に(あらわ)れたエルフという事だけでレーネは注目(ちゅうもく)されているようだ。(つま)(こま)ったように俺を見上げている。説明しろってか、いいけどさ。


「なんだぁ? エルフが伐採場に来るなんてロクでもねぇ事しか思いつかんぞ? お前()、何の用だ?」


 おっと、早速(さっそく)近くの屈強(くっきょう)な人間の作業員に(から)まれたぞ? これは早々(そうそう)に説明しなければ不幸な出来事(できごと)が起こるに(ちが)い無い。


 俺はその作業員に向けて一歩()み出し、両手を広げて無害(むがい)であることを(しめ)した。


「まあまあ、落ち着いて。俺たちは商工(しょうこう)ギルドに依頼(いらい)されて伐採場を見に来た〈アルテナ〉っていう工房(こうぼう)の者です。伐採の効率化(こうりつか)に向けた話がしたいので、何方(どなた)か話せる責任者(せきにんしゃ)()ますか?」


 ゆっくりと、後ろまで声が通るようにそう説明してみた。が、(あら)くれ者らしき目の前の男は俺を上から下までジロジロと(なが)めた後、俺の顔を見上(みあ)げて(はな)を鳴らした。


「コーリツカだか何だか知らねぇが、作業の邪魔(じゃま)をするんじゃねぇよ。俺たちは大口の仕事で今(いそが)しいんだ。お前等に(かま)ってる(ひま)は無ぇんだよ」

「いや、ですからその作業を効率的に進める(ため)に俺たちが――」

「意味の分からねぇ事言ってんじゃねぇ! 分かるように言え!」


 とりつく島も無く怒鳴(どな)られ、(むね)を突かれた。まあ、(いく)ら相手が屈強とは言え俺の体重は一〇〇キロ有るので、小突(こづ)かれた程度(ていど)にしか感じなかったが。


 しかしこの反応、『効率化』という言葉の意味が分かっていないのだろうか。(した)()の作業員ではそんなものなのかも知れない。弱ったな。


「話の分かる人を()れて来てください。こちらも仕事なので」

「しつっこいんだよ!」


 今度は(なぐ)りかかってきたので流石(さすが)(てのひら)でそれを受け止めたが、それなりに痛い。回避(かいひ)したくとも後ろにはレーネが居るので出来(でき)ない。


「んなっ、てめぇ、(はな)しやがれ!」

「離したらまた殴るでしょう。こっちは話し合いがしたいだけなんですよ」


 俺の右手に左の(こぶし)(つか)まれたまま、荒くれ男は残る右手や足でちょっかいを出してくるも、体勢(たいせい)が悪いままに(はな)たれたそれらはきちんと()ける。久しぶりに言葉が通じない相手だな。ガイを思い出すぞ。


 ……ちょっと荒事(あらごと)になりそうなので、レーネには下がっていて(もら)うか。


「レーネ、ちょっとこれからこの兄さんとよく()()()()ので(はな)れていてくれ」

「え、えぇ……? 気を付けてね……?」


 俺から(つえ)を受け取り退()がるレーネ。気を付けて、とは言っても止める気の無い妻である。『話し合い』が何を()すのか分かっているんだろう。きちんと俺のことを分かってくれていて(うれ)しい。


「……さて、妻は離れてくれたのでもう遠慮(えんりょ)()らんな。おい、いつまで続けてんだ、よっ!」

「んぐぉっ!?」


 (いま)藻掻(もが)いていた荒くれ男の拳を引っ()り、程々(ほどほど)の力で頭突(ずつ)きをかましてやった。全力でやると〈フューレルの魔石(ませき)〉の所為(せい)で殺人現場(げんば)になりかねないからな。


 その程々の力でも相当(そうとう)なダメージが有ったのか、白目を()いた荒くれ男はそのまま撃沈(げきちん)した。頭を打つといけないので、俺に拳を掴まれたままだが。


「お、おい! てめぇ! 何しやがんだ!」

「何って、見てただろうが。暴力(ぼうりょく)を振るわれたから返しただけだよ」


 そっとその場へ荒くれ男を下ろしてやったら、今度はわらわらと残りの作業員たちがやって来た。「ひっ」と声を上げたレーネが(すみ)やかに姿(すがた)(かく)しの精霊(せいれい)魔術で隠れてしまった。お(かげ)でやりやすくなったぜ。


 さて、残りの(やつ)等とも楽しい話し合いを始めるとしますか!




「お、おい! これはどういうことだ!」

「お、話が通じそうな人が来たな」


 荒くれ者たちが全員沈黙(ちんもく)した後、如何(いか)にも事務(じむ)仕事に向いていそうな人がやって来て惨状(さんじょう)に悲鳴を上げた。(おそ)らく(さわ)ぎを聞き()けつけたのだろう。


「〈アルテナ〉の付与術師(ふよじゅつし)リュージです。商工ギルドの依頼(いらい)を受けて(まい)りました。……ちなみに、貴方(あなた)は話し合いが出来る(かた)ですか? それとも彼らと同じく暴力で(かた)る方で?」


 男は青い顔が()がれんばかりに思いっきり首を横に振り、それを否定(ひてい)したのだった。


次回は明日の21:37に投稿いたします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ