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非常識高校生の非勇者生活  作者: kiara
第一章 始まりの物語
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遭難に飽きました

 遭難二日目と三日目は、拠点を中心に探索を再開し、前日以上の範囲を把握することに成功し、森の雰囲気がガラッと変わる深さまで足を延ばしていた。雅紀が師匠を嵌めるために独自に学んでいたらしい対大型動物の罠を仕掛け、一応の生活拠点の安全対策にしていた。


遭難四日目


 森の生活に慣れた雅紀たちはというと、森の中とは思えないほどの荒れ地の中心にて、


「よし、巨大肉確保」


「おうよ、豪快に焼こうぜ!」


と、野生に戻り、全力で楽しもうとしていた。






 朝飯を食べ終わり、水分を補給しているとき、なんとなく、仕掛けてきた罠になんか掛かった気がした雅紀は、康太と共に見回りに出ることにした。竹刀も手入れに限界があるのか、当初より傷が目立つようになっていた。


「にしても、突然見回りなんてどうした?」


「俺も確信がある訳じゃないんだけど、なんだかした方が良いと思ったんだよ」


「まあ、今までも雅紀の勘には助けられたからな。そう感じたんならそうなんだろうよ」


 そんな軽口を叩きながらも、周囲に注意を払い、男だけだからだろうか、速めに歩き進めること三十分。探索してきた領域のほぼ境界あたりに差し掛かると、二人の目に昨日までとは違う光景が入ってきた。


 地面のあちらこちらがほじくりかえされ、複数の木が倒れている。その木は、日本で見かけたものよりも詰まっているとよそうしていたこともあり、二人は遭難して初めての大型動物との接触、つまり命の危機になりうるものが迫っていることを理解した。


「こりゃ、ヤベえな」


「ああ、竹刀だけじゃどうしようもないかもしれん」


「打撃だけじゃやれねえだろ」


「そうは言っても、金属武器なんて十徳ナイフしか持ってないぞ」


 二人は、本命の罠を見に行くと、周囲がボコボコになっているものの、足の付け根に蔦を絡ませ、下半身を穴に埋もれているイノシシのような生物がいた。しかし、体長は二メートル超であった。雅紀的には、蔦を何本も縒って強くして、深い穴を堀って罠に嵌まる位置が高くなるように頑張ったようで、満足の行く結果らしい。普通のイノシシならば警戒心が強く、人の通った場所には近づかないのだが、ここのイノシシは長らく人間を見てこなかったせいか、罠に対して警戒してなかったようだ。


 どうやら、二人が近づいてきているのに気づいたらしく、殺気を飛ばしてくる。


 二人はイノシシを視界に収めつつ相談する。


「どうすっかね」


「動けなくしたところを狙うしかないだろ」


「まあ近づくとあの牙にやられちまいそうだがな」


「離れながら叩いて、気絶させて脳に直接ダメージ入れるか」


 そのまま、竹刀を正面に構えて、戦闘態勢に入ると、イノシシも空気の変化を感じたのか、穴の中から威嚇してくる。巨体の足踏みは、地面を揺らすには十分な質量を持っているようだった。


 まず、康太が右から叫びつつ回り込み、頭をめがけて竹刀を振り下ろす。さすがにイノシシも体を大きく動かせないようで、左目の上にきれいに一打が入る。イノシシも堪らず、康太の方へ牙を突き出し、頭を大きく動かす。雅紀も、康太に気を取られたイノシシの背に向けて、鋭い突きを何度も繰り出す。体を動かせても回転まではさせられないようで、自由に打ち込んでいた。


 しかし、一分ほど打ち込むものの、イノシシの皮膚へと傷を作ることができずに、一旦下がる。イノシシは、さらに怒り狂い、前足で地面をかき始めている。それによって、体が浮きあがり、今にも穴から這い上がってきそうで、雅紀も驚きを隠せない。初めに対峙した時よりも、一回り体が大きく見えてしまう。時間がないことを実感させられ、一撃で葬れるように、首を叩き折ることにした二人。


「康太、竹刀じゃなくて、そこの丸太で行けるか?」


「狙いは甘くなるが行けるぜ」


「俺が囮になるから、一撃かましてくれ」


 雅紀が飛び込み、一拍遅れてイノシシも穴から這い出るのに成功して突撃してくる。頭に軽い打撃を入れつつ、直線にしか動けないのを利用して避け続ける。自転車よりも速く、自動車に届くのではというスピードで突っ込んでくるのに、恐怖を感じながらも、ギリギリのところで避け、きっちりと反撃を入れていく。


 イノシシの死角から、康太が人の胴体ほどの丸太を抱えて突進してくる。雅紀に一撃入れようとしていたところなのに、しっかりと反応し、丸太に突進をかます。大きな音を立てて衝突し、康太は後ろに押し戻され、丸太は横にずらされ、体勢を崩した康太の前ががら空きになってしまう。


(まずい)


 続けて康太へ向かおうとするイノシシの首元を攻撃圏にいれつつ、雅紀は焦る。


(もう突進はさせない。ここで俺が切る)


 強くそう思いながら、真剣での居合のように竹刀を振り、首へとしっかりと当てる。やはり方向をずらせる程度かと雅紀が予想する一方、竹刀は皮膚に触れたにもかかわらず進み続け、そのまま進み振り切られる。


 首から血を噴き出して、進みながら崩れ落ちるイノシシ。尻もちをついて痛がっている康太。振り切った竹刀を不思議そうに見る雅紀。


 二人ともイノシシが倒れたことが信じられないでいた。なんで竹刀で皮膚を切り裂けたのか。なぜ竹刀は壊れてないのか。なぜ竹刀に血がついてないのか。そんなことが頭の中をぐるぐるしていた。




 先に立ち直ったのは康太の方で、ズボンの尻についた土を払いながら立ち上がって、雅紀の方に歩いていく。雅紀は呆然として、ずっと手の中にあるものを見ていた。声をかけても反応がなく、肩に手をかけ、雅紀の意識を復活させる。


「おう、お疲れさん」


「あ、ああ。何が起きたんだ」


「竹刀でできるようなことじゃねえんだがな」


「まるで、真剣を振っているようだった」


「ふーん、不思議なこって。いや、それよりも生き残ったことを喜ぼうぜ」


「そう、だな。わからないことが出てきたが、あとで考えればいいか」


「おうよ。イノシシ肉なんて久しぶりだな。これは食いでがありそうだぜ」


「巨大肉確保っと」


「盛大に食おうぜ」


 こうして冒頭に戻るのであった。




 イノシシの首から血液が流れ切ったのか、運んでいる間、ほとんど垂れてこなかった。なんといっても2メートル越の巨体なので、運ぶのも一苦労であった。倒し終わってから、休み休みに二時間ほどかけて拠点に戻ってきた。数百キログラムを担ぎつつ、速足で三十分のところを二時間でいくとは、肉体のスペックが恐ろしいことになってる。


「なあ、ここに来る前よりも力強くなってたりするか?」


「こんな重たいもの持てるようになってるからそうなんじゃないか」


「なんでだろうな」


「自然に戻ったからとかか?詳しくは静と朱莉と相談しながらにしよう」



 汚れながらも、大きな獲物を狩ってきた二人を見て、女性陣の反応はというと・・・


「うわー!大物だね!二人ともお疲れ!」


「飽きが来そうですわね」


「ふふん、そこは料理人としての腕の見せ所だね。焼きとか煮込みとか、あ、燻しもいけるかな」


 二人が怪我してくることなどないことなんてないのを確信しているような口ぶりであった。


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