現状を確認します1
巨大イノシシを狩ることに成功した二人を、拠点で女性陣が迎えた後、四人がかりでイノシシの解体を全速力で終わらせる。
解体を終え、戦闘でいろいろと汚れた服を着替えて、遅めの昼食にする四人。
いろいろわかってきたことがあるのか、昼食を食べながら話し合いに入っていった。
「しばらくは、この肉でやって行けそうだから、落ち着いてこの状況を理解する方に行くか」
「今抱えてる問題、ここは何処か、なぜここにいるのか、今後どうするか、かな」
「ええ、今後のことを考えるにはいい時期だと思いますし」
「俺は、その辺のことは三人で決めたことに付いてくぜ」
「康太さんも考えてくださいな」
二人のやり取りになごみながらも進んでいく。
「初日に比べて困ってるものは、調味料が残り半分になったことと、穀物不足?」
「それは特に問題ないでしょう。我慢すれば、肉と木の実でやっていけるのですから」
「次のここはどこかだが、少なくとも日本じゃないし、師匠がらみでもなさそうだ」
「日本じゃねえのはわかったが、師匠の方の根拠は?」
「ここに来たとき時計は普通に動いてたんだが、そうすると三十分だ」
「それって、学校から気が付くまでの時間?」
「ああ。そんな時間じゃ、日本国外になんて無理だ」
「お爺様でも、国外に行くには飛行機を使わざるを得ませんしね」
「そういうことだ」
雅紀が、根拠を明かしたところで皆が思考に入る。誰も何も言わないまま数分が経ち、思考がまとまったらしい、静が切り出す。
「よし、仮にここを異世界だとしようか」
「そうだな、日本でもなく、地球ですらないとするのが、今まで見てきたことの説明がつく」
「そうだね。不思議なことがいっぱいあったんだよ」
「例えば?」
「まずは、見たことのない木の実と生き物。木の実の色はもちろんとして、ウサギの口の中見た?あんな牙持ってるウサギは地球にはいないよ」
「そこまでは見てなかったけど、なんか違かったのか?」
「あのタイプの犬歯を持ってるのは、トラとかライオンの肉食獣が基本なの。そんなものを草食動物、ましてやあんな小さいウサギが持つはずがない。鳥についても似た感じかな」
この中で、生物に最も詳しいであろう静にきっぱりと断言されてしまっては、そうなのだろうと思うしかない雅紀と朱莉。康太は、ウサギの摩訶不思議状態が気になるらしく、首を回して見える範囲でウサギを探している。
「極めつけはあのイノシシ。あんな骨格と筋肉であの巨体を支えられるわけない。あの足なんて私の腕くらいしかなかったのに」
「ああ、罠に落としたのにまさかよじ登ってくるとは思わなかったよ」
「そうなると、なんか別の力が働いてるように思えてきちゃうのよ」
「朱莉の見つけたあれを見ちまうとなおさらにそう思えちまうわな」
その言葉を聞いて、雅紀はポケットから透き通った結晶を取り出す。その結晶は、イノシシを解体してる際に、珍しく眼鏡をかけていた朱莉が、心臓あたりに何か見えると言い出し、指示された場所まで切ってみると体内から出てきた塊である。
ぱっと見はただの石ころに見えるが、ある程度近づくとその存在感ともいえるものが感じられる。小さいのに、そこにある、ということを主張しているようである。ウサギにはなかったのに、イノシシが持つということは、すべての動物が持っているわけではないらしい。
「朱莉、どうしてこれがあるって分かったんだ?」
「ええ、それは説明します」
朱莉曰く、今までは目を閉じていても光で痛みを感じていた視覚過敏が、こちらに来てからはなぜだか収まっている。日本で目を閉じながら生活していた頃は、人はその人が持っている気を感じ、ものについては、自身の放つ気の反射を利用して把握していた。
しかし、こちらに来てから、自身の放つ気の反射の方は問題なかったが、相手の気や周囲の気を感じ取ろうとすると、気以外の何かがノイズとして感じられた。
そして、そのノイズがイノシシから大きく感じられたために、恐る恐る目を開けてみると、何か光のようなものがイノシシの胸から出ているのが見え、石のようなものからその光が出ているのがはっきりと感じられる。
ちなみに、この相手の気を読むというのは、才あるといわれる宮城家直系のものでも、三十年から四十年の歳月をかけて、まず自分の気を読めるようにしてから習得する、奥義の一つであり、自身の気の反射による探知は、そこから十年二十年かけて学ぶ、本当に人生すべてをかける奥義なのである。
朱莉は生まれてから、目を閉じての生活を長く続け、また、人生をかけて鍛錬した結果として大きな気を持つ一慶が傍にいたため、小学校に入る前には探知についてはどちらもできるようになっていた。
しかしながら朱莉以外の三人も、常人に非ざる才能を見せ、小学生の頃から、放課後を使って練習して、人の気を読むことを成功させ、反射による感知についてもあと一歩まで迫っていた。そんな三人の動機はというと、朱莉と同じものを見てみたいという、気の置けない仲ならではのものだった。
そして・・・
「その光が、雅紀さんと康太さんからも見えます」
雅紀にとって、新しい問題となるであろう言葉で締めくくられた。
「自分だとわからないんだけどなあ」
「だな。あ、けどよ、イノシシ倒したときのあれってこれのせいじゃねえか。あんときの雅紀、なんか近寄り難い空気纏ってたし、穴から這い出たイノシシも似たような感じだったろ」
「イノシシといえば、あの切り口どうしたの?あんなに大きい刃物なんて持ってたっけ?」
「あれは、竹刀でやったらできた。もしかしたら、この石みたいなのがあのイノシシの強さの秘密かもしれないな」
「けど、同じものを雅紀も持ってるなら、同じようなこともできるんじゃない?」
「その力の強化はすでに実感していてな」
「じゃなきゃ、あんな大きなイノシシ持って帰ってこれねえわな」
「ああ、イノシシを狩る前と後では出せる力が上がってるな」
「それを見せてもらうことはできますか?」
「康太、いけるか?俺はあの竹刀の一撃を再現してみたいんだが」
「あいよ」
一旦会議を切り上げ、昼食の片付けを済ませてしまい、実演に移るのであった。
拠点のキャンプの目の前、開けたところと森の境目で雅紀と康太は準備していた。竹刀を軽く振って何かを確かめていく雅紀と、ぶつぶつと呟きながら以前の感覚に持っていこうとしている康太は、何も見ていない女性陣に技を見せることになったが、少し手間取っていた。無意識で行っていたことを意識的に行うという、武道でありがちな問題である。
「違う、こうじゃない」
「どこに集中してたっけな」
しかし、そこはとびぬけたセンスを持っている雅紀と康太である。一度できたことであれば、集中し体を動かせば、多少は手こずれども、かつての状態を引き出すことはできる。
静と朱莉が、後片付けを終えて二人の技を身に戻ってきた時には、雅紀と康太は技を自分のものにし、相手の技にも手を出してできいるか確かめていた。
「では、康太さんの方の力の強化からお願いします」
「わかりやすいように、今まで通りの何もしない一発と強化した一発の両方をお願いね」
二発撃つことになり、それぞれの威力がわかりやすいように、木の幹に向けて撃つことにする。何もしていない一発は、木の下の方の枝を揺らす程度の威力。そして、強化をした一発は、木の幹に手を3センチほどめり込ませ、木全体を揺らす威力だった。
康太が強化した時、康太から威圧感が放たれる。確認ということで半分以下に抑えた強化で、これほどの圧が感じられるのならば、全力でやった時はどうなのだろうか、と考えずにはいられない外野陣であった。
「なるほど、大体のことはわかりました。今の一撃は、腕に例の光を纏わせているいるのですね」
「落ち着いていれば、俺でもその光を見ることができるみたいだな。まあ、朱莉の眼には劣るようだけど」
「私もやってみたいなあ」
「そこは、あとで考えようか。次は俺だな」
康太に代わって雅紀が、目線の高さより少し下に枝が伸びてる木の前に立つ。中段に竹刀を構えて、集中する。今自分が持っているのはのは真剣であり、目の前の枝は軽く切ることができる。自身にそう言い聞かせる。深呼吸して、息を吐き前を見据える。その瞬間、先ほどの康太の時とは比べ物にならない威圧感がばらまかれる。観客気分でいた三人は、自身が切られる想像が頭をよぎり、瞬間に意識を戦闘の時のものの移行させる。
そんな背後の三人を気にかけず、雅紀はゆっくりと竹刀を上段に構える。そして、きれいに振り降ろされる。ただただゆっくりと降ろされる。そこまで速いわけでなく、目で追える剣であるが、その剣から感じられる圧は尋常ではなかった。振り下ろした剣に遅れるようにして切られた枝も落ち、それを見届けた雅紀が、息を吐くことで、やっと緊張していた空気がほぐれる。
「ふう、今はこんなところだな」
「恐ろしかったよ。まるで首筋に刀を添えられているみたいだったなあ」
「そんなにか?真剣で対峙した時ぐらいだと思ったんだが」
「その光を纏うようになったからではないでしょうか。それと、見たところ、康太さんよりも雅紀さんの方が光の総量は多そうですわ」
「ねえねえ、どうやって使えるようになったの?」
「気が付いたらできるようになってたぞ」
「予想になるけど、イノシシの光をもろに受けた後からかな」
「じゃあさじゃあさ、私と朱莉も使えるようなるかな?」
好奇心を抑えられない、という顔をして静は雅紀に飛びついている。雅紀はそのことに気が付いてなかったようで、やってしまった、という顔を晒す。静の顔を覗き込むと、キラキラした目を向けられ、やってみると答えるほかなかった。
静と朱莉は地面に座り瞑想し、己の体の中にあるものを感じる準備をしていた。二人の後ろに雅紀も康太も座り、自分のパートナーの背中に掌を当てる。先ほどの技を見せる時とは比べないほど小さい力を引き出し、手のひらから背中へと流していく。
自分の体に流れ込んでくるものに、もぞもぞとした感覚をを覚えながら自分の体に集中する。徐々に慣らすつもりでやっているらしく、だんだんと流していく量を増やしていく。それに比例して、むず痒さも増して感覚も敏感になっていく。何やら艶めかしい吐息が聞こえるものの、意識からはじき出し、調整に神経を使う。
康太がほぼ全て、雅紀が8割ほどを流し込んだところで、朱莉が自分と静の体からも見えるようなったといい、切り上げる。
「んー、なんか調子が良くなった感じがするよ。雅紀、ありがとね」
「俺は、動けないほど疲れちまったがな」
「康太さんも、ありがとうございました」
「この力だけどなんて呼ぶか?」
ここにきて、光だの力だので読んでいたものの名前を決めることにする。
「これは、もう漫画で定番のあれでいこうよ」
「ああ」
「魔力だな」
「魔力だね」
「なら次はあれだよ。私はまだ使い方わからないから、やってみてよ。」
そういわれて、雅紀は手のひらを上にして、水平にまで持っていく。魔力を手に集めてから、目を瞑って想像する。自分の手のひらから小さな火が出てくるのを、より詳細にイメージしていく。
イメージができたと思い、一言、炎、と呟く。手のひらに何か熱さを感じるとともに、三人の感嘆の声が聞こえる。恐る恐る目を開け、手のひらを見る。そして、天を仰ぐ。
「ああ、出ちゃったよ」
「出ちゃったね」
「出ちまったな」
「出てしまいましたね」
「「「「ここは地球ではなく、完全に異世界ですわ」」」」
半ば確信していたとはいえ、こうも完璧に地球でない証拠を見せられ、項垂れないではいられない四人であった。




