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非常識高校生の非勇者生活  作者: kiara
第一章 始まりの物語
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遭難?キャンプですが?


「ここ、どこだ」


 雅紀は、先ほどとは似ても似つかない風景に困惑せずにいらない。体に鈍い痛みが走るも、そちらに気を割く余裕を持てていなかった。


 呆然として、雅紀の口から自然と零れ落ちたその言葉が聞こえたかのように康太が体を起こそうとする。


「いてて、おう、雅紀どうした?」


「いや、状況がわからず困ってる」


「そういや、どうなったんだっけ」


「学校にいたはずなのに、痛みで気絶して、気が付いたらこんなところにいたんだよ」


「こんなところ?」


 康太は、雅紀の言葉に疑問を感じて周りを見渡す。


 一分ほどだろうか、しばらく周りを見渡したのち、雅紀の方に向き直って一言。


「ここ、どこだ?」


「いや、反応遅いよ。まず、周りが森になってることに気が付いた瞬間になんか反応しようよ」


「いや、そういうこともあるんじゃね?、と思ってよ」


「いや、ないから」


「まあ、しばらくは動かない方がいいだろ」


「ああ、二人が起きてから方針決めた方がよさそうだね」


 二人とも現状維持に決め、お互いに周囲を警戒しつつも自分のカバンを漁り、体を休めながら暇をつぶすのに使えそうなものを探し始めた。



 それから30分ほどで静が起き、それほど間を置かずに朱莉も目を覚ました。


「それで、何があったの?」


「ええ、見たところ森の中にいるように思われます」


 二人が起きて、軽く体を動かし、頭が動くようになってから話し合いを始める。


「まず、現状の確認から始めよう」


「そうね。見たところ森の中で、持ち物は無事のようね」


「では、どうしてこうなったかについてはどうですか?」


「師匠の訓練とかじゃねえ?」


「それも考えたんだけど、確証が持てないんだよ」


「なんでだ?」


「いや、ここら辺の木々の実って見たことのないのが多いんだよ」


「そう言われればそうね。なんか妙に青みがかっててるわ」


「おお、確かに。なんか毒々しいな」


「それでは、食が危ないかもしれないですね。気に留めておくとして、持ち物を確認してみてはどうでしょう?」


「ああ、しばらくここで生活しないといけないかもしれないから、確認しておこうか」


朱莉:弓道道具一式、弁当一つ、水1L、運動着、裁縫道具

康太:竹刀、弁当二つ、2L水筒、運動着四着

静 :薙刀、弁当一つ、パン、1L水筒、運動着二着、塩、砂糖、包丁

雅紀:竹刀、弁当、パン、2L水筒、運動着三着、十徳ナイフ、ドライバー、

   細々した電気部品


 四人ともが持っていたものはスマホ、教科書、制服だった。


「「「「・・・」」」」


「なんというか、ええと、武器多いね?」


「ああ、危ないもんがいっぱいあんな」


「今にしてみるとこれほどの凶器を持って登校してたんだな。まあ、師匠との鍛錬で持ち帰るし、しかたない部分もあったけど」


「やっぱりスマホは圏外ね。アプリは使えるようだけど」


「衣食住は前二つがなんとなく揃っていますね」


「衣の方は、贅沢言わなければ問題なさそうね。今の気温も初夏ぐらいだし」


「食の方も今日いっぱいは持ちそうだな」


「じゃ、どっか安心して休めるとこ探そうぜ」


「お師匠さんの用意した森の中なら、攻撃的存在もいそうだしね」


「そうだな。じゃあ、俺と静で徒歩30分圏内で水場とかを捜索してくるわ」


「おう、じゃあ頼むぜ」




 竹刀を持った雅紀と薙刀を持った静は、周囲を最大限に警戒しながら進んでいた。


「ねえ雅紀、今回のことどう思う?」


「そうだなあ、詳しくはわからないけど師匠のやることにしてはぬるいな」


「じゃあ、別口?」


「教室から聞こえた悲鳴もあるし、そうじゃないかな」


「教室ってことは、ほかの皆も森の中に飛ばされたのかな?」


「気にはなるが、今は我が身が優先だな」


 木々になっている怪しい実を摘み取りつつ奥に進む。今のところ、周りにはリス程度のサイズの小動物の痕跡くらいしか見つからない。


「今回の第一目標は、水場及び拠点となる場所の捜索、ってとこか」


「そうだね。あとは、ご飯になりそうなものも集めていかないとね」


「ああ、リスとかはやめとくか。それと、目新しいのはわかるが、ほどほどにな」


 雅紀は苦笑いして、あちこちの木の実を摘んでいる静に周囲への注意を促す。静にとって、未知の場所の未知の植物は、非常に興味深いようで、目を輝かせて歩き回っている。雅紀にも気になるところがあるのか、目線の高さの実や葉だけでなく、上の方も含む木全体にも視線を向けている。なんだかんだで、雅紀もこの状況を楽しんでいるようだった。



 しばらく歩き、効率のためにも休憩を挟もうとして、太陽と呼べるものが頭の真上に来て、足元の影が短くなっていて、時間がだいぶ経っていて、飯時になっていたことに二人は気づく。


「んー、なかなか見つからないね。それで、どのくらい埋まった?」


「今の太陽の方向を南とするなら、東から南西にかけての三分の一弱ってとこだな」


 二人が話しているのは、師匠による遭難対策のアプリで、スマホの向きを急激に変えなければ、歩いてきた道筋がわかるという、雅紀が組んだものである。電波や地球の磁場によらないようにしたので、ここでも使えたらしい。


「そろそろ、飯食いに帰るか」


「一旦集めたものも置いて来たいしね」


 お腹がすき始めたことを感じ、初めにいたところに戻ることにしたのか、二人はスマホを片手に再び歩き始める。



 歩き始めてすぐに、二人に何かが動く音が聞こえた。小さなものが動く音のようで、周囲に目を凝らす。


「いた」


 静が先に音の出どころを見つけたかのようで、薙刀をそちらに向ける。雅紀もそちらに目を向けると、大きめのウサギの後ろ姿が見えた。初めての生物との遭遇に、警戒心が最高潮にまで上がるが、当人たちの会話はというと、


「ウサギ肉っていけるか?」


「ジビエとしてフランスでは基本だよ」


「よし、狩るぞ」


と、不安を感じさせず、逆に獲物を見つけた狩人のものだった。気配に気が付いたのか、ウサギが二人の方を向き、二人は逃げられないうちに行動を起こす。


 シッ、と雅紀が踏み込み、ウサギに向けて竹刀を振る。ウサギは慌てて飛び跳ねるものの、返しの一発

までは避けられず、バランスを崩して地面に落ちる。痛みからか、動けないでいるウサギに対し、静が近寄り、手を合わせたのち、首に手をかける。


 ウサギが動かなくなるのを雅紀も静も見届け、張り詰めていた息を吐きだす。


「師匠から生き物絞めるの教わって慣れてるといっても、やっぱりクルものがあるな」


「そうだね、食べるためとはいえ命を奪ってるだもんね」


 ふぅー、と再び息を吐きだし、気を取り直して初期地に戻るのであった。




 絞めたウサギを担いで戻ってきた二人を、焚火と二羽の鳥が待っていた。


「おう、お疲れさん」


「そっちもな。無事に火起こせたのか」


「生木しかないかと思ったが、案外乾燥してたのが落ちてたからな」


「ここでも師匠仕込みの技術か・・・」


「ということは、そちらも何かあったのですか?」


「うん。久しぶりに生き物絞めることになったよ」


「そうですか。こちらの鳥は特にその手のことは致しませんでしたし」


「まあ、解体して食えるか試そうぜ」


「ああ、全部捌いてしまおうか」


 雅紀と康太がウサギと鳥の解体を始める中、静と朱莉は木の実を選定しつつ情報交換をしていた。見たこともなく、匂いからも判断できないものが多く、安全を第一にしてふるいにかけていく。


 30分ほどの解体が終わるころには、木の実の選定も終わり、弁当も荷物の中から弁当が出されて、食べる準備がされていた。血を空いていた水筒に入れつつ、手についた血をタオルで拭きながら、


「水場を早急に見つけないとな」


「血の匂いにつられてくる動物がいなけりゃいいんだがな」


と、水場の重要性を再確認していた。




 焼きウサギと弁当で腹が膨らんだのち、午後の分の行動を再開した。分担は午前と変わらず、康太と朱莉が荷物番兼拠点構築、雅紀と静は、水場と休める場所の探索をしていた。


「さっきのウサギの跡を追えば、水場に行くと思う?」


「あの大きさなら、そこそこの水場に当たるとは思うが、追えるような跡ってあるかなあ」


「まあ、行ってから確認しようか」



 ウサギを見つけた場所まで戻ってきた二人は、素直にウサギの痕跡を辿って西へと進んでいくことにした。今回は木の実にあまり注意を向けずに、早さ重視で行動していた。木々につけられたウサギ以外のマーキングも探しながら、速足で進むこと一時間。西だけでなく北にも行き、あちこち行ったのち、十分な量の湧き水が岩の隙間から流れ出ているところを見つけた。下は小石が多く、大きな水たまりが出来にくいようで、大型動物は近づかないという、最高の条件がそろった水場であった。


 湧き水を見つけた二人は、湧き出している斜面にも目をつけ、斜面が主に、土ではなく石でできているとわかるや否や、非常に明るい表情になった。


「とりあえず、水場は確保、拠点は洞穴を探して、無ければ崖を背にすればいいだろう」


「あとは、どんな動物がいるかだね」


 そこから、崖に沿って走っていくと、運よく入り口が広いものの十分に奥行きのある穴を見つけることに成功する二人。すぐに空気や地面の様子を確かめ、安全を確認し、拠点にすることにし、荷物番をしている二人を呼びに行くのであった。


 水場を狩場にすることで、ウサギの肉も手に入り、おっかなびっくりではあるが、今までに食べたことのない肉と木の実を食べて生活する準備が整ったのである。


 夜になっても、お腹を下すことはなかったようで、一日目は無事に終えることができ、見張り番を立てて熟睡することができた。




 未知の土地での生活基盤が手に入ったことで、二日目も三日目も周囲の探索に力を注がれ、ウサギを狩り、ときには蛇にも手をだし、木の実を摘みつつ行動範囲を広げていった。木の枝やら蔦やらで罠までも仕掛け、安全確保にも走っていた。見事なまでの環境適応力である。




 そして、三日後、遭難四日目になった。


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