日常の終わり
7月いっぱいは毎日一本です
20XX年7月
日本 宮城家道場
6時過ぎ、空気がまだ冷たい中、二人の高校男児が防具なしの状態で試合をしていた。一方は平均的な体形で、もう一方はいいがたいを持っている。
「しゃおら!」
がたいのいい方が、持ち前の力を生かして、勢いをのせて上段からふり下ろす。
「っぶな」
毒づきながらも、ステップして避け、胴をなぐように見せつつも、相手の竹刀の持ち手の辺りを狙って振る。
「おっと」
きれいに受け止められるが、そこで止まらず、腕だけでなく体全体を動かすようにして、相手に打ち込んでいく。
動きを最小限にして、一発の威力よりも速さを求めて繰り出される技は、相手を守りの態勢に押し込む。その終わりなく打ち込み続ける姿は、周囲の人からは舞を踊っているようだといわれているのも納得するものであった。
「容赦ねえなぁ」
と、守りに入ってから持ち前の力を生かせず、防ぐのに手いっぱいになってしまい、愚痴る。
そこから十数回打ち込み、さらに続けようとしたところに、道場の扉が勢いよく開けられる。
「儂、参上」
70後半になっているにもかかわらず、50半ばにしか見えない老人、宮城一慶が乱入してくる。
どうやら乱入してくるのはいつものことらしく、呆れた顔を見せながらも、慣れた様子で高校男児二人はためらいもなく、同時に老人に攻撃を仕掛ける。しかし、見た目に反した高校生にも劣らない力と、70年を超える修練によって磨かれた技で、すべての攻撃がいなされ、はずされていく。
乱入から10分ほどが経ち、すべてがものの見事に捌かれ、距離が開き一旦仕切りなおされた。二人は小声で相談し始めた。
(どうすっよ)
(じゃあ、俺が爺さんの胴にしがみついて抑えるから、俺ごと爺さんを切れ)
(いや、真剣つってもそんな技は無理だっつの)
(・・・どうしようか)
(・・・どうすっか)
「ほれ、はようかかってこんか。朱莉達が呼びに来てしまうではないか」
(それじゃあ、俺が爺さんに超近接戦仕掛けるから、その隙をついてくれ)
(あいよ)
相談を切り上げ、竹刀を腰だめに構え、腰を落とす。そして、走り出し、あと一歩で一刀一足の間合いに入るというところで、竹刀を振り出し、切っ先が相手に向く直前に手を離す。それを見て、老人も体で受ける気はないらしく、半身になって避けつつも反撃に振り下ろしてくる。速やかに素手での戦いにシフトし、左手の甲で捌きつつ、右手で打ち込もうとするも、経験からか間合いを詰められ威力を出せず、下がらざるを得なくなる。隙を見つけては、竹刀での打ち込みも入るが、やはり決まらない。
そのまま、素手と竹刀一本で仕掛け続けるも、片手を竹刀から離した老人相手に捌かれ、うまくいかず、終いにはもう一本の竹刀まで強打で飛ばされてしまい、二本そろって壁際に寄せられてしまった。二人そろって素手になってしまっては、竹刀持ちに仕掛けられないようで、朝の鍛錬は終わりになった。
三人がシャワーを終え、母屋に戻るといい匂いが漂っていた。
台所入ってすぐのところで二人の娘が働いていた。
「お疲れ様でした」
適温のスポーツドリンクを差し出すのは、同じ道場生の桜井静。
「お爺様も年をお考え下さい。二人も相手するの大変だったでしょう?」
諫めつつ、配膳をしているのは、一慶の孫娘で長女の宮城朱莉。
「師匠との鍛錬はためになるから大丈夫」と、遠坂雅紀。
「だな。全力でやれるまたとない機会だからな」と、紫原康太。
「いい弟子ができると、はしゃいでしまっての?だから、ね?」
孫に弱いお爺ちゃんらしく、言い訳じみたことを言う一慶。
「はいはい、それくらいにしてご飯にしましょ」
苦笑いしながら、静が助け舟を出す。配膳が終わったところで切り替え、一慶がそれに乗る。
「そうじゃな。今日もまたうまそうじゃな」
「そりゃ、料理のできる女を目指してますから」
「だってさ、雅紀、どうだ?」
「ん?おいしいよ。毎日食べたいくらいだけど」
それを聞いて、静が顔を背けるが耳が隠せていない。
それを見て雅紀以外はニヤニヤとするが、当の雅紀は食べるのに夢中で
「??」
と、自分の発言をまったく理解していない模様。
「早くしないと、朝練に遅れちゃうわよ」
と、静が空気を変えようとして失敗するも、食卓には楽しげな雰囲気が流れるのであった。
「なんか今日は、みんな荷物多いな」
登校途中、学校まであと少しになって周りに同じ高校の生徒が増えてきて、それを見ながら、雅紀が、ふと思ったことを口にする。
「だって、期末テストが終わって梅雨が明けての久しぶりの部活に球技大会もあるんだよ。そうなるって」
隣の静から答えが返ってくる。
「だな。球技大会かー。腕が鳴るぜ」
「ふふ、康太さん、応援してますよ」
康太と朱莉は、二人の前でお花を背中に散らすような会話をしている。
周りの生徒からすごい注目を集めるものの、本人たちはいたってマイペースに、歩いている。
ここまでのいきさつを説明しておくと、雅紀、静、康太、朱莉の4人は、宮城家で一緒に朝食を食べたのち、そのまま4人で登校している。幼馴染として、昔も今も17年間たいてい一緒に行動してる。
雅紀は、170程の身長と平均的な体格とさらさらの黒い髪と黒い瞳をもち上位1割ほどのルックスをしている。本人曰く、モノ作りが好きで、工学部に行きたい。理系成績は非常によく、クラスメート曰く、モノ作りの技量は趣味の範疇を超えていて、体のスペックは非常に高い。
静は、北欧系のクォーターだが、日本人らしさにみちており、身長は165程で、肌は抜けるように白い。瞳は青みがかり、髪は茶色がかった黒で腰まで伸ばしている。垂れ気味の瞳に優しさが感じられる、と周りの人は言う。校内でもトップクラスの人気がある。本人曰く、料理のできる医者になりたい。学力は校内トップ。
康太は、180を超え、がたいがよい。髪は刈り上げていて、鋭いとまではいかない瞳で、頼れる兄貴感が出ている。本人曰く、運動に携わる仕事に就きたい。周りの三人に比べて脳筋感があるが、成績はほどほど良く、運動は抜群。
朱莉は、160程の低身長に純日本人といったルックスで、肩あたりまで髪を伸ばしている。こちらもまた、静と同様に人気がある。本人曰く、家庭を支える良妻賢母になりたい。学力は文系でトップ。視覚過敏をもち、常に特殊な眼鏡をかけるか、目を閉じている。目を閉じていても、通常生活は何ら問題なく送れている。宮城家の人間曰く、気配を読めばいける、らしいが一般人からしてみれば不思議である。
そして、校内ベストカップルズに、雅紀と静、康太と朱莉が選ばれている。本来ならベストカップルにしようとしたが、3組まで絞られたが決まらずに、そのままカップルズになった。
校門をくぐり、2年生の教室のある階につき、クラスメートとあいさつしながら廊下を歩いていると、教室から、学校一イケメンと言われている伊崎晃平とその周りの女子の黄色い声が聞こえてくる。晃平本人は、学校ではイケメンとして常識を持ち、恥じない行動をとっているつもりではあるが、周りの人にはそのお人よしぶりが知れ渡っており、だれかれ構わず助けている姿は有名である。男子ですら、敬意をこめて王子と呼ぶほどであり、そんな性格もあって、まったくもって黒い噂が本人にも周囲にも流れたことはない。
「相変わらずすごいな」
「雅紀も囲まれたい??」
「いやそんなこと思ってないから、落ち着け、静」
不穏な空気を纏い始めた静をなだめるように、そんなやり取りをして、廊下にあるロッカーに手をかけようとすると、突然教室の空いているドアから強烈な光が漏れてきた。
突然のことに驚きつつ目を覆っていると、
「きゃあ、なにこれ!!」
「床が光ってる!!」
「教室から出ろ!!」
「だめ、動けない!!」
悲鳴じみた声が教室から次々に聞こえてくると同時に、廊下の先からから窓ガラスが割れていく音に似た大きな音が近づいてくる。
周りの状況に頭がついていけていない中、近くでガラスの割れるような音がすると、全身をトラックにぶつかったような強烈な鈍い痛み(味わったことはないが)が走り、意識が飛ぶ。
気を失う直前に辛うじて見ることができたのは、目の前にできた裂け目からのぞいていた何もない白い空間だけだった。
頬をさわやかな風が撫で、木々の葉のこすれる音が響く中、雅紀は目を覚ます。周りを見渡し、静たちもいることを確認し、そして再び周りを見渡す。見えるものは木と草と空と大地のみ。
呆然として、一言。
「ここ、どこだ」




