6話 ノスティア出発
今回は短いです。
―早朝
―オリジアナ大陸 オリジア地方 貿易都市ノスティア中央部 ギルドノスティア支部 2階
「すぅすぅ………んっ……眩し…い………」
アークスは窓から差し込んでくる朝陽の眩しさで目を覚ました。
それから「ん――――」と伸びをすると、辺りを見渡した。
自分の小屋とは違う整った部屋。きちんとベットメイクされたベット。そして何故か1つだけベットメイクが乱れているベット、そして辺りを見渡しているアークスに抱きつきながら「すぅすぅ…………えへへ……あ~くす~」と寝言を漏らし、アークスの隣で猫のように丸くなって、幸せそうに眠っているファルクスを見て、「そういえば………」と、ストレンジボア戦の後の昨日の約束を思い出し、眠っているファルクスの頭を撫でると、視線を再び部屋に戻してこう呟いた。
「ここは…………どこでしょう?」
それから数分後、アークスは昨日のこととここがノスティアギルドの部屋であることを思い出すと、アークスに抱きついているファルクスを起こさぬようそっとはがして、静かにベットから抜け出すと、置かれていたブーツを履き、壁に掛けられていた上着を羽織ると、2人がいるであろう下へ降りた。
アークスが木製の階段を下りて、ギルドの下の酒場に降りると、ミリアとエイギスがギルド内のカウンターに座っていた。エイギスは何か知らせのような物を読んでいた。
同声を掛けたらいいか分からず立ち尽くしていたアークスに、アークスが下りてきたことに気付たミリアが声をかけてきた。
「あっと!意外と早く起きてきたわね。ファルクスちゃんは?」
「えっと、まだ寝ています。なぜだか私の隣でとても幸せそうな顔して眠ってました。それと昨晩は取り乱してしまってすみません」
アークスの発言を聞くとミリアがエイギスの方をを苦笑しながら見た。
その視線にエイギスは知らせから顔を上げ、少し困ったような表情を浮かべると「嬢ちゃんは確かにミリアのベットに寝かしたはずだがな………」と呟いていた。
それを聞いて、理由を知るミリアはまた苦笑し、理由を知らないアークスはよくわからず首をかしげた。
それから、数十分の間、アークスがこの町について、2人と話していると、階段のほうからどたどたという物音がした。
3人がそちらを見ると、ファルクスがこちらに向かって走りながら「アークス~!」と抱きついてきた。
……それもかなりの勢いで。
いくらファルクスが小柄といっても、その衝撃に3センチほどしか背が変わらないアークスがもちろん耐えられるはずもなく、床に背中を思いっきり打ちつけた。
アークスは背中をさすりながらファルクスに話しかけた。
「いたた…………。ファルクスおはようございます」
「うん! おはよ~アークス~。ひどいよ~なんで起こしてくれなかったの?」
そういって頬を脹らましながら抗議するファルクスに、アークスは苦笑すると「ごめんなさい」といって彼女の頭を撫でながら言う。
「あなたがとても幸せそうに眠ってましたから。そういえば寝言で私の名前を言ってましたが、どのような夢を見ていたんですか?」
「えっとそれは~アークスをよ「させるか! ミリア!」むぐっ!?」
「えっと…………? ミリアさん? どうして私の耳を塞いでるんですか?」
顔を赤くして何か言おうとしたファルクスの口をエイギスが塞ぎ、保険としてアークスの耳をミリアが塞いだ。
エイギスはまだ彼女の耳が塞がれているを確認するとファルクスをたしなめた。
「嬢ちゃん。アークス嬢ちゃんのことが好きなのはわかるが、自重しろ」
「だって~…………」
ファルクスはそういうとアークスに抱きついた。
耳を塞がれていて、現状を理解していなかったアークスは首をかしげながらも抱きついてきたファルクスの頭を撫でていた。
その様子を見たメルトス夫妻は片方は呆れ、もう片方はほほえましそうに眺めていた。
―数十分後 貿易都市ノスティア ギルド ノスティア支部前
いくら貿易都市ノスティアといっても朝早くは商人しか歩いておらず、人通りも大して多くない。そんな中ギルドの前に4人はいた。
普通だったら旅に出るはずの2人は荷物を背負っているものだが、アークスたちにはオリジンがあるため、無駄な荷物は存在しない。
「お世話になりました。泊まる場所だけでなく、朝食と携帯食料、そして世界地図までいただいてしまって。…………何かすみません」
「だから気にするなといったろ。嬢ちゃんたちはまだギルド登録も冒険者登録も出来ない。だからせめてもの餞別だ。大して良い物じゃないがな」
朝食を食べているとき、もうこの町を出るといった2人にエイギスは携帯食料と地図を渡した。
さすがに悪いと思ったアークスは謝るが、再びエイギスに押し切られてしまった。どうやら押しに弱いようである。それを見て何を思ったか、ファルクスが目を輝かせていたが。
「体には気を付けてね。後、道中の原生生物や魔物にも」
「「はい! (うん! わかった~)」」
ミリアが2人を気遣い、そういうと2人元気よくそう返事した。エイギスはそれを見て微笑むとこういった。
「自由都市オリジアはここノスティアからでて、南にある。もう奴はいないから寄り道さえしなければ、2日後の夕暮れには着くはずだ。…………気を付けて行けよ」
アークスはその言葉に「はい。それではまた来ます」と答えるとファルクスの手を取って歩き出した。
………また恋人つなぎで。メルトス夫妻の2人はアークスとファルクスの2人が見えなくなるまで苦笑することしかできなかった。
2人が見えなくなってようやくメルトス夫妻の2人は口をあけた。
「いってしまったな」
「ええ。でもまた会えるわよ。………そんな顔をしなくてもね」
ミリアの答えに「わかってる」と素っ気なく答えるとエイギスは最後にこう呟いた。
「死ぬなよ」と。
一方その頃
―オリジアナ大陸 オリジア地方 リディス草原南 ノスティア側
「反対側と違って街道広いね~。なんでだろ?」
「反対側、つまりルナ地方へはあんまり人が来ないからですよ。人によってはヴェネスを魔物の一種とみている人もいるとエンシスが言っていましたし」
「へぇ~。…………なんだか悲しいね」
「ええ。同じヒトですし、話せば解り合えるのに」
そう言って2人してため息を吐いた。
確かにヴィネスは他の種族が持たないような身体能力や特殊能力を持つものが多く、心魔が現れた時に生まれた人種だということもあって、多くの人が誤解や恐怖を持って接している節があり、街によってはヴェネスを街の中に入れないという街やヴェネスを魔物のように狩ろうとする人が集まる街までがあるという。
何故そんなことになるのか? それは自分たちの持っていないものを持っているものに恐怖を持つのは当然なことだからだ。
しかし、彼らにも心があり、話し合えば解り合うことが出来る。
だからこそアークスはせめて自分だけは解り合おうと改めて決心すると、悲しそうに顔を歪めるファルクスの手を取ると、そんな考えを振り払い、歩き出すのだった。
同時刻
―マクスウェル大陸 イフリート地方 火山の村ソドム
「はあ!『炎塔陣』!」
「ぐぎゃあーー!」
そう心技の宣言した炎のような赤髪を持つ彼は、左手に持った、彼の心装具である炎を纏った剣を地面に突き刺した。
すると、心技が発動し、地面にいくつもの魔法陣が現れる。
彼の放った心技により、地面に現れた幾つもの魔法陣から、幾つもの火柱が上がり、枯れ木の姿をした魔物マルタの群れを燃やし尽くした。
辺りにはマルタが燃えた後の炭と彼だけが立っていた。
「これで全部か……。日ごとに増えているな。これが何かの予兆でなければいいが……」
彼はそう呟くと、彼は心装具を持っている方とは逆の手を上げる。すると、彼の近くの物陰から、彼と同じ紋章の付いた制服を着た騎士隊員たちが現れた。彼らは彼の前に走りよると、整列する。
整列し終わったことを確認した彼は、現れたその者達全員に目配りをし、今度は心装具を持っている手を上げ、彼の心装具を空へと掲げ、その場にいる全員に聞こえるように指示を出す。
「我々はこれより、帝都マクスウェルに帰還する! 回復の使えるものは傷ついた者の手当てをしてくれ!残ったものはソドムとイフリートの警護を!」
その一声にすべての隊員が「はっ!」と答え、彼に敬礼すると、与えられた役割ごとに動き出した。
全ての部隊員がその場から離れたことを確認した彼は誰にも聞こえないような声でつぶやいた。
「無事でいてくれよ、相棒。…………いや、アークス」
彼の呟きに答えるように彼、エンシス・F・インケンディアの左手にある心装具『火宝剣 インセンディウム』が纏う炎がまるでエンシスの心を表すかのように大きく渦巻いた。
その様子を見たエンシスは思わず苦笑を浮かべた。
「お前がなければ、俺はあいつと一緒にいられたのか……? …………いや、いられてもただ、いるだけだったか」
かつてエンシスがパートナーから引き離されたことを宝具の所為にしようとした自分を嘲笑う。
エンシスだって心装具に当たるのは間違っていると自覚はしている。何故なら心装術によって、自らの心力を武器状に具現化させた心装具は自分では形状も性能も選ぶことは出来ない。それこそまさに神のみぞ知ることなのだ。
エンシスはインセンディウムを消すと、その身を翻した。…………魔物の討伐結果を今の主に伝えるために。
………その時の空は黒煙に包まれていたため、彼は気づかなかった。
火の生命子がまるで彼に何かを伝えようとするように渦巻いていたことに………。
ノスティア出発。そして、今まで名前だけでていたエンシス・F・インケンディア登場。まあ、アークスと会うのはまだ先ですが。
応援、感想お待ちしています。