7話 自由都市オリジア
今回も中途半端です。
―オリジアナ大陸 オリジア地方 リディス草原南 オリジア側
貿易都市ノスティアと自由都市オリジアを繋ぐ、広いリディス草原の南側。
大きな岩などが点在しているが、そのほとんどが緑色の草原という景色の中で、アークスとファルクスの2人は原生生物「オーラット」という大きなネズミに囲まれていた。
2人は背中合わせで周囲のオーラットの動きに警戒しながら、それぞれ心装具を構えると、何かを諦めたようにアークスが呟く。
「話し合いは…………できなそうですね?」
「それはそうだよ~。一般的に原生生物に知性はないもん。あるのは闘争本能と狩猟本能、そして食欲だけだとおもうよ?」
アークスの呟きにファルクスが呆れたようにそう答えた。
―――――戦闘に入るたび、アークスが話し合いを提案するのだが、ファルクスの言うとおり、原生生物に知性は無いとされているため、こちらの言葉を理解しているのかさえ不明なのである。
それはさて置き、背中合わせで2人が話しているその間にも、オーラットたちは彼女たちににじり寄ってきており、中にはすでに飛び掛かろうとしている者までいる。
その光景を見たアークスは自身と背中合わせになっているファルクスに振り向かずにこういった。
「私の心装具『封印癒弓 オーニス』だと彼らの大きさ的に不利です。だから、私も魔具『オリジン』で接近戦をしますから、ファルクスは右をお願いします。私は左を」
「うんわかったよ~。それじゃ~………」
「「いくよ!!」」
そういってアークスはオリジンに心力を込めて右腕のほうだけを剣状にすると左に走り出し、ファルクスは『封光鎌 ルーメン』を上段に構え、右へと走り出した。
「これならどうですか! 『連閃空』!」
そう宣言したアークスは魔具の機能の一つである魔技を発動させ、近くにいたオーラット数体を展開した右腕の心力の剣で4回斬りつける。
すると、アークスの右手に展開されていた心力の剣から斬撃が飛び、アークスが振るった剣そのものでその数体が、アークスの発動した魔技によって形成された真空派のような斬撃により、後ろにいた数十体が胴体や頭を真横に何度も切り刻まれ、そのまま絶命した。
「まさか斬撃が飛ぶとは……まあいいです。使えるものはっと……」
その光景を見たアークスは驚きを通り越して呆れると、そう呟き、まだある程度形の残っているオーラットの死体の皮を剥ぎ始めたのだが、剥ぎ始めてから数十秒。アークスの顔が歪む。
「予想以上にやり過ぎました…………。殆どボロボロですね。し肩がありません。ファルクスに期待をしますか――――――…………」
アークスの手元には無残にも斬り刻まれたオーラット……であったものが幾つも置かれていたが、それらの殆どが原形を留めていない。よって素材として使えるのは牙や爪くらい。
これでは大したお金にならないだろう。いくらストレンジボア討伐代の15万アウルムがあったとしても、旅をしていてはすぐに無くなってしまう。
そんな期待を胸に、アークスはファルクスのほうに目を向け、その先に広がっていた光景に既視感を感じて思わず黙り込んでしまう。
アークスが見たもの。それは、口元に微笑みを浮かべ、彼女の心装具である大鎌を振り回し、オーラットの群れを1度に数匹単位で斬り刻んでいたファルクスだった。
「弱いね~。斬り刻まれろ!『光天刃』!」
ファルクスがそう宣言すると、彼女の心装具である大鎌のルーメンが金色の光を纏う。彼女は太陽のような光を纏ったルーメンを手に、身体を回転させる。すると、ルーメンの刃が伸びたかと思うと、伸びた金色の刃がファルクスを取り囲んでいたオーラットが細々に斬り刻まれ、全滅する。
彼女に斬り刻まれたオーラットは元の形がわからないくらいに、ばらばらの肉片となり果てていた。
アークスは呆れた表情を浮かべ、肩を竦めると、剥いだ皮や牙をオリジンの心装珠にしまいながら、ファルクスに呼びかける。
「ファルクス。倒すのはいいですが、もう少し形を残してください。いくらエイギスさんたちに15万アウルムをもらったからといっても旅をしていれば、すぐに無くなってしまいます。…………私も人のことはあまり言えませんが」
「さっさと片が付いたんだから良いじゃない」
「そういう意味では…………おや?」
アークスは14歳に見えない胸を張るファルクスに呆れるが、胸を張るために腰に当てられている彼女の右腕に、攻撃をかすったのだろう小さな擦り傷を見つけた。
「少し掠り傷がありますね? 『彼の者に応急処置を 「ファーストエイド」』」
「ありがと~アークス。だから好きだよ~」
アークスはファルクスの右腕を取ると、そこに手をかざして心術を使い、ファルクスの傷を癒す。擦り傷であったため、傷はすぐに消える。
アークスがファルクスの傷が消えたことに安心していると、お礼を言ったファルクスがそのまま抱きついてきた。
アークスはファルクスに抱きつかれても嫌な気はしないが、アークスとファルクスは背がほとんど変わらないため身動きが取れない。なのでアークスは若干、強引に自分に抱きついているファルクスを引きはがすと、引きはがされて不満そうなファルクスに微笑む。
「そろそろ行きますよ。意外と時間を取られてしまいましたが、せめて夜までには着きたいですから」
アークスのその言葉に、まだ不満そうな表情をしながらもファルクスが頷く。
アークスはそんなファルクスの頭を撫でると、月の心術の詠唱を始めた。
「『我らに朧月の隠れ身を 「フェイト」』」
アークスがそう詠い終わると、2人をまるで満月を霧が隠したような朧月のように、霧のようなものが包み込む。
これは月属性の隠密系の心術で、夕方から朝方くらいまでの間しか効果は薄いが、夜ならば気配でさえも完全に消せる術である。今は殆ど夕暮れに近いので隠密の効果は期待できるであろう。
初めて試した心術がうまく発動したことを確認したアークスは笑みを浮かべると、先ほどまで撫でていた手で、急に撫でることをやめたアークスに向き直ったファルクスの手を取る。
「さあ行きましょう」
「うん!」
そういって二人は歩き出した。
………………再びこの惨状を放置して。
―その数分後 リディス草原 同所
2人が先ほど戦闘を行っていた場所に4人の人影があった。
彼らは目の前に広がっていた惨劇ともいえるようなその光景を見て唖然とする。
何故なら自分たちがギルドからの依頼で、狩りにきたオーラットが1匹残らず、すべて惨殺されていたのである。
その周辺一面にオーラットのものであろう血の臭いが充満し、辺りには鮮血がべっとりと付いた岩や肉片のようなものが大量に浮かぶ血の池がいくつもあった。
嗅覚が現実だと知らせる血の臭いと目を開けている限り脳裏に送り続けられてくるこの惨劇に、彼らの中で、短剣を持ったマーマンの女性がこみ上げてくる吐き気を我慢しながら話し出す。
「な、なに…………? どうなってるの…………?」
「無理に話すな。それにしてもひどいな…………。2日前も北側で謎のクレーター騒ぎがあったしな」
吐き気を抑えながらもそう言ったその女性、レイ・トリトンを気遣いながら、背が高く、長剣を持ったヒューマンの男性、リヨン・ハイシュルはそう呟く。
このリディス草原の北側、つまりはルナ側では2日前、大量の巨大なクレーターが現れたことで大騒ぎになっている。
もっとも、そのクレーターが発見されたのはアークスとファルクスがギルドを出た後のことなので、騒ぎになっていることを2人は知りもしないのだが。
レイを気遣いながらも、リヨンが考え込んでいると、彼の後ろに立っていた内の一人である、片手剣を持ったマーマンの男性、カイト・エイルがこう言った。
「それよりもどうするよ? これじゃ依頼達成とはいかないよ。証拠の素材もばらばらだし。しかも無事みたいだった素材も剥ぎ取られてるし。…………それとさっきから黙ってどうしたのさ?ミコト」
これでは討伐、及び依頼達成とはいかない。何故なら自分たちが倒したわけではないうえ、持ち帰るべき依頼達成の証拠となる素材もない。
肩を竦めてそう言ったカイトはもう1人の仲間(と言っても途中で雇った傭兵だが)が先ほどから黙っていることを不思議に思い、そう問いかけた。
カイトにそう聞かれた、腰に大太刀をつけたエルフ、ミコト・ライガはいつの間にか血だまりの一つに近づき、血の臭いを嗅いでいた。そして、顔を上げると彼らの方を振り返る。
「血の様子を見る限り、こいつらが殺されたのは数分前だ。自分たちはノスティアから来たが、誰ともすれ違っていない」
血の様子を見て、そう判断したミコトがそういうと、未だ疑問符を上げるレイと、ミコトの話を聞いて彼の言いたいことが分かったのか、静かに頷いたリヨンを余所に、カイトが大声で「そうか!」という。
「なら、自由都市オリジアへ向かったってことか!」
「そうだ。しかも数分前ならまだ追いつけるはずだ」
それを聞いたリヨンはレイの背を撫でながら「そうと決まったらさっさとここを離れるぞ。レイが心配だ」という。
その光景をカイトが「お熱いことで」とからかうとレイは顔を赤くし、リヨンはカイトを睨み付けた。そんな中ミコトだけはそれに加わらず、考え込んでいた。
「(これをやったのはギルドでも冒険者ではないはずだ。ギルドや冒険者ならこんなに切り刻んだりはしない。ならこいつらをやったのは一体…………? そして奴が言っていたクレーターとストレンジボアを狩ったという少女2人組……。もしや……)」
「ミコト? どうしたの? さっきから浮かない顔をしてるけど…………」
レイがそう話しかけてきたことで思考の海から現実に戻ったミコトはレイに「なんでもない」と答えると、いまだ睨み合っている2人に「いくぞ」といい、さっさと歩き出した。
…………アークスたちがその場を離れてからもうすでに十数分が経っていた。
―オリジアナ大陸 オリジア地方 自由都市オリジア城門北口
ミコトたちがようやくあの場所を離れた頃、2人は自由都市オリジアの城門にいた。
もう夜なので人通りは多くはないが、街のいたるところに明かりがついており、街頭によって、オリジアの中央に立つ大きなオリジア城が照らされていた。
思わず2人は感嘆の声を上げる。
「すごいね~。ノスティアもすごかったけどここはもっとすごいね~。お城もあるし」
「ええ。あれはオリジア城ですよ。今では確か、この街を造った元ギルド長が王をやってるらしいですよ。さあ、それよりもギルドを探しますよ」
そういってアークスはファルクスの手を取ると歩き出した。
ギルドを探して、2人がそのまま大通りを歩いていると、その大通りにあったギルドは簡単に見つかった。
なぜならとても大きいのである。ノスティアにあった支部の3倍はあろうかという建物で、中からは騒音が聞こえてきている。
それを見たファルクスがアークスの上着の裾を握ると、アークスに不安げにこう問いかける。
「ねぇ、アークス? 本当に入るの~?」
「だって入らないとオーラットの素材が売れませんからね。…………私だって出来たら入りたくないですよ?」
未だ不安げなファルクスにアークスは苦笑しながらそう答えると、意を決して扉を押し開けた。
開いた扉をくぐり、中に入るとノスティアのように酒場の部分とノスティアのギルド支部には無かった待合室のようなものがあったが、2人には関係がないのでさっさと受付へと向かう。
そして、先に並んでいた人の番が終わると、アークスは受付にいるお姉さんに話しかける。
「すみません。素材の買い取りをしてほしいのですが」
「はい。ただいま! はい!? 子供っ!? どうしてここにいるの? 迷子?」
その受付の反応に既視感を感じ、アークスは苦笑、ファルクスは不満そうに頬を脹らませると、アークスが訂正をしようと口を開く。
「いえ、ですから素材の買い取りを――――――」
アークスがそう言い欠け、両腕にある籠手型魔具であるオリジンから、オーラットの爪と牙、そして少しの毛皮を取り出したところでギルドの扉が勢いよく開けられた。
突然のことと、勢いよく扉を押し開けたことで扉が軋む音で、アークスとファルクスの2人を含む、その場にいた全員が驚いて入口を見る。すると、4人の人物が立っており、そのうちの1人の片手剣を持ったマーマンの男性が勢いよく受付カウンターへ走ってくると、何故か叫んだ。
「リーン! 今日ここにオーラットの素材を持ちこんだ奴はいないか!?」
「うるさいよ! そんな声で言わなくても聞こえる! で、用件は?」
「だから、オーラットの…………ってそれは!?」
そこでやっとリーンとカイトは、さきほど、アークスたちが受付に置いたオーラットの素材に気付く。
そのまま2人はアークスとファルクス、オーラットの素材を交互に見ると、受付の女性、リーンがこういった。
「…………お嬢ちゃんたち? これどうしたの?」
「えっとここ、オリジアに来る途中にリディス草原で襲われたので狩りました。ちょっと力加減に失敗してしまってボロボロですけど」
アークスが先ほどの戦闘のことを思い出して苦笑しながらそう答える。すると、苦笑を浮かべるアークスにカイトが詰め寄ってきた。
「ほんとにお前らが狩ったのかよっ!?」
「え? あ、はい」
驚愕の表情を浮かべたカイトに肩を掴まれ、揺らされながらもそう答えるアークスに入口付近にいたミコト以外もやってきた。
「こんな子たちがあんな…………!?」
「そこまで強そうには見えんが…………?」
あの惨劇をやったのが小さな少女2人であることに驚きを隠せない3人。そんな3人が狼狽する理由がわからず、アークスとファルクス、そして状況が掴めないリーンを含めたギルドの中にいた人々は首を傾げる。
「そう言われましてもね? ファルクス?」
「そうだよね~。ぼくに至っては斬り刻んだだけだしね~?」
そういって2人は顔を見合わせて笑う。
辺りにいた人たちが呆然としていると、さっきまで入口にいたミコトが2人の前までくると、2人の目を見てこう聞いた。
「お前たちはもしかしてあの、ストレンジボアを2人で倒したアークス嬢とファルクス嬢か?」
その言葉に2人は顔を見合わせると頷いてから「「そうですけど? (だけど~?)」」と答えた。
するとミコトは「そうか」と言い、こういった。
「自分はお前たちが先日世話になったエイギスの友人のミコト・ライガ。エイギスにオリジア地方の聖地までの案内をしてくれと頼まれたものだ」
「エイギスさんの……? なんで…………?」
エイギスがなぜそこまでやってくれるのか分からないアークスが理由を知っていそうなミコトにそう聞くと、ミコトは苦笑を浮かべ、こういった。
「あいつはお前たちが心配なんだ。それと自分個人、あいつに話を聞いてお前たちの戦闘と言動に興味が湧いた」
「せんと~はともかく、げんど~って?」
ファルクスがそう聞くとミコトはアークスの方を見ながらこういった。
「そこの嬢ちゃんの言っていた言葉。たしか『会話ができれば、どんな姿でも人』だったか?それについては自分も同感でな?」
ミコトがアークスに笑いかけようとすると、ファルクスが彼女を庇うように彼女の前にたった。
それを見てアークスはファルクスの行動に首を傾げ、ミコトは「聞いていた通りだな」と呟くと、状況が掴めなず、また、2人がストレンジボアを倒したという事実に、いまだ固まっているリヨン、レイ、カイトの3人に向き直る。
「道中の路銀集めを手伝ってくれて助かった」
最後にそう言ったミコトに、呆然としている3人と、ギルドにいた人たちを一通り見た後、彼は2人に向き直った。
「これからよろしく頼む。アークス嬢、ファルクス嬢」
「とりあえず、その嬢というのはやめてください。年寄りくさいですよ?」
「そうだぞ~じじぃ! アークスは渡さないぞ~」
2人がそういうとミコトは軽く狼狽するとこう呟いていた。
「爺とか年寄りとか言わないでくれ…………。自分はまだヒューマン換算で32なのに…………」
その後、2人に言われたことを気にしていたのか、ミコトはすごく落ち込み、アークスとレイに励まされていた。
その後、アークス、ファルクスにミコトを加えた3人は、さっきの3人にオーラットの素材の半分を渡して換金してもらうと、そのまま、宿へと歩き出した。
…………宿についてから、部屋割りでファルクスとミコトがもめたのだが、もめている間にアークスが「一緒でいいです」と言ってしまったため、全員が同じ部屋になった。このときのやり取りは割愛させていただく。
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