15話 オリジンの変化
おそらく次回もですが、今回もあまり話が進みません。
―アークスの心源
「ところでさ、オリジア」
「なんだいルナ」
先ほどの行動、やり取りに疑問を持った満月を思わせる金の髪を持つ小柄の女性ルーン、いやルナは自然を表すかのような淡い緑色の髪をした長身の女性ラディス、いやオリジアに話しかけた。
「さっきアークスちゃんになにしたの?」
怪しむようにそう言ったルナに対して、オリジアは笑ってこう返す。
「だからさっきもいったろ。彼女の拒絶反応、受け入れの時の痛みを私の力で無くしただけさね」
「ほんとにそれだけなの?」
まだ、怪しそうに睨んでくるルナに、オリジアは苦笑すると話し出す。
「まぁ、当然それだけじゃないさ。彼女、アークス嬢ちゃんの属性は『癒し』なんだろ?」
オリジアの言葉にルナが頷くと、オリジアが「そこなんだよねぇ」と嘆息する。
「私の力、つまり『根源の加護』は『自然の加護』だってことなんだよねぇ」
「それがどうかしたの?」
いまだ彼女の言いたいことの分からないルナが聞き返す。そんな彼女に見かねてオリジアはこう切り返す。
「じゃあさ、自然では生き物が傷を負ったらどうなる?」
「どうなるって・・・、傷が深ければ回復しなければ死ぬだろうし、浅ければ傷は塞がるでしょ」
意味深なことを言ったオリジアにルナはそう返すが、どうやらそれは彼女の求める答えでは無いらしい。
彼女の質問はまだ続く。
「じゃあさぁ、ルナはどうして傷は塞がるのかわかるかい?」
「えっと・・・確か大気中にある自分と同じ属性の生命子を体に取り込むのよね? 属性の心術も確か同じような感じで同じ属性の心力を取り込ませるんだっけ?」
「はい、正解だよ。じゃあ、アークス嬢ちゃんや『彼女』が使っていた心術はどういう仕組みか解るかい?」
「『彼女』から聞いたけど、確か心術と生命術の合成術………まさか!?」
突然何かに思い当たったルナははっ! と顔を上げると、オリジアの方を見た。すると、オリジアが満足そうにルナを見ていた。
「まぁ、そういうことさ。言うならばリミッターみたいなものかねぇ」
「リミッター・・・・」
「あんまりそういうことはしたくないんだけどねぇ」
オリジアはそういって遠い目をすると、その場から掻き消えた。唖然としていたルナはオリジアが掻き消える音で正気に戻った。
「ちょっと! オリジア! まだ話は終わってないんだから!」
そう叫んでルナも慌てて追いかけるようにして、この場から掻き消えると、その場所、アークスの心源に再び静寂が訪れる。
…………その空間には、彼女たちが確かにいたことを証明するように、彼女たちの存在を表す月と根源の生命子が静かに漂っているだけだった。
―オリジアナ大陸 オリジア地方南部 静霊の森奥地 戒めの石板前
「…………あれ? ここは」
アークスが目を開けると、彼女の目の前には光の失った心装珠が埋め込まれた石板が佇んでいた。どうやら元の空間に戻ったらしい。
アークスが隣を見てみると、まだ、ファルクスとミコトが手で目を隠していた。そんな光景に苦笑して、2人に話しかける。
「2人とも。もう大丈夫ですよ?」
アークスにそう言われ、目から手をどけるとミコトがやれやれといった感じで息をつく。
「なんだったんだ? さっきの閃光は?」
「眩しかったね~」
そんな感想を漏らす2人にアークスは笑いかけると、こういった。流石に何があったかは言うことは出来ないが。
「とりあえず、戻りましょう。もうこの場には用はありませんから」
「ああ。さっさと帰って休むぞ」
「ぼくも~」
そういって歩き出す2人をしり目に、アークスはもう一度石板の方を振り返る。
彼女はもう一度、石板に埋め込まれた色の褪せた心装珠と刻まれている文字を見ると、先ほどのルーンとラディスのことを思い出しながら、抱いた疑問を口にする。
「『後の者に真実を・・・いや、我らの罪を伝えるために・・・・』ですか……。どういった意味なんでしょう?」
「アークス嬢。何をやっているんだ?」
「置いてっちゃうよ~?」
顎に人差し指を当て、考え込んでいたアークスに2人の声がかけられる。見ると2人はかなり離れた場所まで行っていた。
「今行きます! 待ってくださいよー」
アークスは抱いていた疑問を頭から振り払うと、再び前を向いて歩き出した2人を追いかけた。
…………一瞬、彼女の虹彩が、今度は淡い緑色に変わっていたことに、アークス本人も、ファルクスとミコトも気づかなかった。
―数時間後 隠者の里レムリア 静霊の森入口
再び森を抜け、夕暮れになって、ようやくレムリアに戻ってきた3人だが、明らかに1人だけ雰囲気が違っていた。
森の探索、巨大な芋虫との戦闘、石板の前での膨大な生命子、そして同じ帰り道。
まぁ、帰り道では原生生物も襲ってこなかったわけだが。
それらを体感したファルクスとミコトの2人が疲れ果てているのに対し、それらに加え、魔具オリジンへの『根源』の生命子の供給を行ったアークスは元気そうだった。
そんなアークスに2人が問いかける。
「なぁ、アークス嬢。疲れていないのか?」
「そうだよ~…………。ぼくたちはもうへとへとなのに~…………」
「私は大丈夫ですけど…………。ええっと…………なんていったらいいですかね……?」
そんな2人に、まさか、疲れていない理由がルーンたちのおかげとも言えず、アークスがどう返そうか考えていると、3人がいる森の入り口に向かって薄紫色の髪を持った1人の少女が走ってくるのが見えた。
「メルティ」
「アークスー! 無事だったんだねー!」
アークスは嬉しそうに彼女の名を呼ぶと、同じく嬉しそうな顔をしてうれしそうな声を出したメルティがアークスがいる方に向かって走ってきた。
…………勢いを殺すことなく。
なんとなく身の危険を感じたアークスは躱そうとしたが、メルティはもうすでに目の前まで来ている。とっさに目をつぶり、手を前で交差させる。
すると、いきなり彼女の両腕に装備されている魔具オリジンの心装珠が輝いた。それを見て、驚くミコトたちをしり目に、目を閉じていたアークスの耳にびったーん!!! と何かが勢いよく硬い物にぶつかるような音が届いた。
「え・・・? なんですか? 今の音は」
アークスが恐る恐る目を開けると、彼女を心力で出来た壁のようなものが覆っており、アークスの目の前には、メルティが張り付いていた。
メルティの体が、その心力の障壁にぶつかった状態のまま、ずるずると地面にずり落ちると、アークスを覆っていた障壁が掻き消える。
「メルティ!? 大丈夫ですか!?」
「・・・・・・・・・・」
「あわわ…………!? とりあえず回復を!『傷つきし者に応急処置を ファーストエイド』!」
アークスが慌てて倒れこんだメルティに駆け寄るが、反応がない。そのことに、より慌てるアークス。
慌てて心術を詠うアークスと地面に突っ伏す自分の実の妹。ミコトはそんな光景に肩を竦めると、アークスの回復心術により、とりあえず傷が癒えたメルティを背負い、落ちないように抱えてから申し訳なさそうに落ち込んでいるアークスを見る。
「どうやらその魔具、オリジンの機能が増えたようだな」
「の、ようですね…………。私の意思は無視かもしれませんが」
何故か苦笑を浮かべ、そう返すアークスを不思議に思ったファルクスが問いかける。
「アークス? もしかして制御できないの~?」
「ええ、勝手に発動するみたいで…………。見ててください」
ストリアから聞いた伝承通り、確かにオリジンの機能は増えたが、正直な話、今のアークスには制御が出来ないのだ。
ものは試しと、アークスがわざと転ぼうとする。すると、彼女の周りに再び心力の障壁が勝手に現れたかと思うと、障壁が触れた地面を抉る。そのままドゴッ! と音がしたかと思うと、アークスの身長よりも2回りほど大きいという、かなりの範囲の地面が削り取られていた。
それを見ていたファルクスとミコト、そしていつの間にか目を覚ましていたメルティが呆気にとられた。
驚くのも無理はないだろう。障壁とはいえ、地面を抉り取ることの出来る威力を持つ。それは少なくとも殺傷力はあるはずだからである。
基本的に心術障壁は殺傷力を持たず、展開していることが出来るのはほんのわずかな間だけ、というものなのである。
呆気にとられる3人に、障壁が消えて、立ち上がったアークスが苦笑を浮かべて、『根源』の生命術でその穴を塞ぎながら振り向く。
「ね?」
「いや、アークス嬢。ね? ではないと思うが…………。しかも、また新しい術を、いや生命術か? 使っているしな…………。はぁー、まぁとりあえずは長老のところへ行こう」
「そうだね~。ぼく疲れちゃったし~。」
そんな様子のアークスに、軽く頭痛を覚えながら、ミコトがそういうと、ファルクスが同意する。
芋虫を倒し、すぐに戒めの石板へ行き、そしてすぐにここへ戻ってきたのだ。疲労が溜まるのも無理はない。
「いつ帰ってきてもいいようにしてあるよー」
「気が利くな」
そんな3人にメルティから嬉しい言葉がかけられる。ミコトは思わずそう声を上げてしまった。
「じゃあ早くいかないと! 休みたいし~、アークスの新しい力についても気になるしな~。…………今後襲うために(ぼそっ)」
「ファル? 今何ていったんですか?」
「なんでもないよ~」
ファルクスが不穏なことを呟き、それに気づいたメルティとにこにこと笑いながら、牽制しあう。
そんな様子に、まさか自分の危機であるとは知るはずもないアークスは首を傾げ、ミコトは嘆息する。
「まったくお前らは…………。アークス嬢、気をつけろよ」
「???? はい?」
ミコトは自分に背負われながら口げんかをするメルティが落ちないようにすると、ミコトは心配そうな顔をするとアークスにそう警告する。
もっとも、言われた本人であるアークスにとっては何の事だかわかっていないが。
そんなミコトに背負われていたメルティが自分の家を指差すとこう切り出す。
「うん! こうなったら、さっさと家に帰ろう! お兄ちゃんゴーゴー!」
「いや、お前もう大丈夫なんだからもう降りろ。重い」
「むー」
そういってミコトがメルティを自分の背中から降ろした。降ろされたメルティは若干不満そうなそぶりを見せると、アークスとファルクスの方を見て、今度はアークスに近づく。
そんなメルティの行動に疑問に思うアークスを見て、メルティは苦笑すると、おもむろに彼女の手を取る。
………恋人つなぎで。
「いいもん。そんなお兄ちゃんなんか置いてっちゃうからいいもん。いこっ! アークス」
「えっ!? ちょっ! メルティ!?」
「ああ――――!!! メル、ずるい!!!」
そういってアークスの手を握って走り出すメルティをファルクスが追いかける。その場に1人残されたミコトは額に手を当ててから、ため息をつく。
「まったく、あいつもそうだが元気というより緊張感の無い奴らだな。…………だが、」
ミコトはそこで区切ると、空を見上げた。空には雲もあまりなく、夕日で赤く染まっていた。そして、ミ時からの故郷のレムリアの中央に配置されている風車を見て、再び赤く染まった空を見上げると、微笑みを浮かべ、こう呟いた。
「まあ、こんな日常も悪くはない」
彼はそういうと、憑き物が落ちたように先ほどまでの疲れを感じさせない、軽い足取りで3人が走って行った自分の家へと歩き出すのだった。
…………これから起こるであろうことに一筋の期待と若干の不安を抱きながら。
真っ赤に染まっていたはずの空には、すでに夜であることを表す三日月が、静かに浮かんでいた。
―同時刻 静霊の森 奥地
アークスたちがじゃれあい、ミコトがこれからのことに期待を胸に、自らの家へと入って行った同刻。
先ほどアークスたちが芋虫を倒した場所に、1つの人影と1つの影があった。
人影は女性であったが、今存在する種族とは思えない角が頭に一対生えており、腕は鱗に包まれ、その先には鋭い爪を持った手が見えていた。そして、そんな彼女の背中には被膜の付いた翼が一対ある。
彼女はいわゆるドラゴニアのような姿をしている。もう一つの影に至っては、完全にワイバーンと言えるような翼竜のような姿であった。
そのうちの人影が芋虫であったであろう炭化した塊に近づくと、膝をついてその塊を鱗でごつごつしている手に取る。そして整った顔をしかめ、こう呟く。
「これは予想以上にひどくやられたな。まさか、イノセントクイーンが成虫になる前のイノセントワームの時に倒されるとはな」
「こやつはまだ成虫で無かったとはいえ、かなり成長していたはず。我は今の奴らにそんなこいつが倒せるものがいたことの方が驚きだが。なにせ今の連中は屑ばかりだからな」
「ふふっ、そうだな」
「???…………どうした? 嬉しそうだな?」
その人影の呟きに答えるようにして、その翼竜が言う。それに人影は、腰にある鞄のようなものに炭化した芋虫、いや蛾型魔物イノセントクイーンの幼体であるイノセントワームの欠片をしまいながら、若干嬉しそうにそう返す。
そんな彼女の様子に疑問をもった翼竜は彼女にそう問いかけると、彼女は嬉しそうに笑いながら当たり前だろ? と返すとこう続ける。
「かつての対戦で負けはしたが、それは『あのお方』が負けただけで俺は負けちゃいない」
「おぬしは本当に『あのお方』に対して容赦ないな? まあ、我も似たようなものだが。そんなに嬉しいことか?」
はっきり言って、今のこの世界には『彼女たち』に勝てる者はほとんどといってもいいほど、まったく居ないことが分かっている。
今では、かつて賢者といわれた忌々しい『彼』の血をひいているはずの王族でさえ、同じく、かつての忌々しいあの『英雄』の中でも最低ランクのやつらよりも弱いだろう。
だからこそ、彼女はこう答える。
「そういうやつが現れるのを眠りにつく前からずっと思って、いや、『願って』いたんだ。その願いがようやく達せられそうなんだ。嬉しくないわけないだろ?」
彼女は嬉々としてそういうが、翼竜は呆れたなような目で彼女を見つめるだけであった。彼女はそんな様子の翼竜を無視すると、いまだ呆れたような表情をした翼竜の背に飛び乗る。
「さ、目的は達成した。戻るぞ」
「我に乗らずとも自分の翼で飛べばよかろう。おぬしのそれは飾りか?」
そういって翼竜が顎で彼女の背にある翼を指すが、彼女は何言っているんだ? こいつ、と言おうとしているような顔をすると肩を竦める。
「だって俺が疲れるだろ?」
「…………はぁ。おぬしはそんな奴だったな」
翼竜は、悪びれもなくそう返す彼女に嘆息すると、彼女を背に乗せたまま羽ばたく。すると、彼は轟音を立て、空に浮かびあがった。
周囲には翼竜が羽ばたく音しか聞こえない。
「ではいくぞ。しっかり掴まっておれ」
「言われなくとも大丈夫だって」
そう言葉を交わすと、彼女らは轟音を立ててその場から飛び去った。
飛び去っていく彼女たちの目には、自分たちのエネルギーである魔素が世界を覆うように静かに渦巻いており、彼女が妖艶な笑みを浮かべると、翼竜が咆哮を上げ、さらに速度を出す。
次の瞬間、その場所には何も残っていなかった。
…………彼女らが飛び去った後、静霊の森の周辺には、生き物の気配すら感じないような異様な静寂が訪れていた。
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