Memory#2 桜木愛菜が邪神になるまでの物語:2
私の運命と言うべき天使と出会った。
天使こと椎菜ちゃんは、とても……とてもとてもとても! 可愛い男の娘だった。
超可愛い。
いじめ? 些事些事。
自殺? んなもん撤回だよ撤回。
こんっっっっなにも! 可愛い男の娘が弟になるとか、どんなミラクル人生ですか!? 私の人生のハイライトはここぞ!?
ヤバい、なんでさっきまで、もう死のう……とか思ってたんだっけ。
忘れちゃったな……あー、たしかあれ。
なんかこう、親の権力がないと威張れないこの世の悪のようなクソ女が原因だったような気はするけど……ごめん、そんな奴の顔、全部もやがかかってるわ。
そんなことよりも、目の前の弟君の方が大事なりィ!
「んっと、お姉ちゃんは何が好きなの? 僕はね、えんがわが好きだよ!」
渋い! でも可愛い!
「お姉ちゃんはね、絵を描くのが好きなの」
「そうなの!? お姉ちゃんの絵、見てみたい!」
天使か?
天使だったわ。
「実はお姉ちゃんの大事な大事なスケッチブックが消失しちゃってね」
「そーなんだ……」
あぁっ、私の天使が酷く落ち込んでしまっているゥ!?
だけど、しゅんとしたところも可愛いよ! 天使な椎菜ちゃん!
いや、これはもう天使が椎菜ちゃんに失礼では?
ぶっちゃけ、天使よりも椎菜ちゃんの方が可愛いよね?
いやそもそも、悪魔よりも天使の方が人間殺してるんだよなぁ……と思ったり。
ならば、椎菜ちゃんは天使の上位互換!
よしそうだ椎菜ちゃんは天使以上の存在異論は認めねぇ!
「大丈夫! お姉ちゃんはね、紙とペンさえあればすぐに描けるから!」
「ほんと!?」
「ほんとほんと! 何描いて欲しい?」
「んっとね、んっとね……あ、この子!」
そう言って、椎菜ちゃんが私にリクエストしたのは、たまたま近くにあった、私が好きなマンガのメインヒロインだった。
「おっけー! じゃ……さらさらさら~~!」
早速椎菜ちゃんのためのイラストを描き始めた。
最近、全然楽しいと思えてなかったイラストを描くことがすごく楽しい。
そうか、私と言う一個人をしっかりと見てくれる存在が、キラキラとした目で私が絵を描いているところを見てくれているからか……!
やばい、楽しい! 楽しすぎるぞ、イラストを描く行為!
誰だよ、楽しくないと思ったの。
こんなにも楽しいことはないよ!
「はい完成!」
「わ~~~~! 可愛い~~~! お姉ちゃん、すっごく上手なんだね!」
「ふふふ、私はイラストを描くのが得意だからね!」
「僕、得意じゃないから尊敬しますっ!」
か わ い い 。
ヤバい、語彙が溶ける。
キラキラ爛漫な笑顔と一緒に尊敬の眼差しを向けて来る超可愛い男の娘とか、これはもう現実ではないのでは!?
いや、これは現実……そう、いじめによって我が精神が壊されそうになっていた現実ではないのだ。
むしろあいつらの方が現実に存在しちゃいけない悪だろう。
それにしても……。
「ねぇ、椎菜ちゃん」
「なぁに? お姉ちゃん!」
ヤバい。
いや待とう。最早ヤバイが真っ先に出てくるようになってしまっている。
だが、それくらいに可愛い。そう、それくらい可愛いんだよ、目の前の椎菜ちゃんは。
最高か? 最高だったわ。
「椎菜ちゃんって、こう、いじめとかされる?」
「いじめ? んっと、先生はダメ! って言ってたよ! でも、前にお母さんしかいないことをからかわれたことがあったよ! 悲しい気持ちになったけど……」
よしそいつは殺そう。
じゃなくて。
「なるほど……うん、ありがとう椎菜ちゃん。でも、大丈夫。今日からは私のお父さんが椎菜ちゃんのお父さんになるし、この私が椎菜ちゃんのお姉ちゃんになるんだからね! 家族がたくさんだよ!」
「うんっ! 僕ね、お姉ちゃんかお兄ちゃんが欲しかったの! だから、綺麗で優しいお姉ちゃんができて嬉しいっ!」
アッ……まずい、今一瞬昇天しそうだった。
落ち着こう私。
そう、まずは落ち着くんだ、私……。
今さっき、椎菜ちゃんと言う天使を守護るって決めたじゃん。
……守護、そう、守護か……。
ちらりと私の体を見下ろす。
「…………ふむ」
うん、貧弱。
実に貧弱。
なんだこのか弱い女の肉体は。
これでは、椎菜ちゃんを守護るなど、無理無茶無謀ではないか!?
あぁ、そうだよ。これはダメ。
由々しき事態……でも、何をすればいいんだろうか……。
「お姉ちゃん?」
「あ、ごめんごめん。ちょっと考え事をね。それにしても、椎菜ちゃんはお姉ちゃんができて嬉しいんだね?」
「うんっ! 僕ね、お母さんのことは大好きだけど、一人でいることが多かったから、寂しかったの……。でも、今日からお姉ちゃんができて、お父さんもできてすごく嬉しくて、これなら寂しくないの!」
「ありがとうっ……!」
「ふぇ!? お姉ちゃんどうしたの!?」
しまった、感極まったのと、あまりにも健気で可愛すぎて、つい抱きしめてしまった……!
まあ、うん、可愛いから仕方ない。
でもこれ、高校三年生の女が、小学六年生の男の娘(しかも小柄)に抱き着いていると言う、素晴らしくあれな絵面なのでは?
……まあ、いっか! 家族だしね!
血は繋がらないけど、今日から姉弟!
であるのならば、襲わなければセーフ!
姉とは、弟に手を出さない存在なのだ……!
「うふふ、もう仲良くなったわね、聡一郎さん」
「そうだな、雪子さん。……なんというか、椎菜君に会った途端、愛菜が心の底から元気になってくれたようで、俺は安心したよ。あとは、学校の問題だなぁ……」
「何かあれば、私も全力を出すわよ~」
「あぁ、その時はお願いするよ、雪子さん」
◇
部屋に戻った私は、色々と考えた末、こう思った。
「よし、強くなろう」
と。
やはり、姉として、椎菜ちゃんと言う最高に可愛い弟君を守護るためには、力が必要だと思うわけですよ私は。
特に、いじめなどという、この世の悪が存在し、そして椎菜ちゃんを誘拐しようとたくらむ厄介な存在がいないとも限らない。
であるのならば、鍛えるのは当然。
「よし、早速鍛えよう。あー、でも、さすがにムキムキにはなりたくないなぁ……椎菜ちゃんに嫌われたくないし」
さすがに、筋肉ムキムキになった姿を椎菜ちゃんに見られるのはなんか嫌だ。
まあ、椎菜ちゃんなら、すごい! って言ってくれそうな気はしないことも無きにしも非ずだけど、最悪を想定して、筋肉ムキムキはなし!
「うぅむ、鍛えるにしてもどうするか……やはり、最初は体力作りが必須かな?」
昔読んだマンガでも、強くなるにしても、やはり体力は必須とか主人公の師匠が言っていた。
そう、どんなに力を付けても、技術を身に着けても、体力がなければ話にならない。
となれば、体力を付けるほかなし。
「……決めた! まずは、毎日フルマラソン! そうすれば、体力などいくらでもつく! というか、急いで力を付けなければ!」
体力をつけるのならば、やはりマラソン! マラソンは全てを解決する!
肉体を鍛えるに値する物を手に入れるには、やはりマラソンをして体力を鍛えるしかねぇ!
◇
翌日。
「私、今日からマラソンするね!」
「お、おう、急だな……愛菜はインドア派だったと思うが……」
「強くなる理由が出来たので!」
「そうか。まあ、健康にいいからな。行ってらっしゃい」
「行ってきまーす!」
私は運動しやすい服をさっさと購入し、早速マラソンを始めた。
最初はひいこらひいこら言っていたし、足も遅かった。
別に太っていたわけではないけど、贅肉はあった。
正直、三十分走ったくらいで辛くなった。
でも、
「はぁっ、はぁっ……椎菜ちゃんのっ……はぁっ……笑顔を思いっ、はぁ、はぁっ……浮かべれば、疲労など……なんのそのぉ!」
椎菜ちゃんの笑顔を糧に、私は頑張った。
初日は、給水込みで五時間かかった。
家に帰って、ご飯を食べて、お風呂に入ってベッドにダイブすると、一瞬で意識が落ちた。
◇
「うん、筋肉痛! だが、知ったこっちゃない! 私は常に限界の壁を超えなければならぬ! そう、全ては椎菜ちゃんを守護するために……!」
朝起きた私の目覚めは過去最高だった。
適度な疲れはやはり質のいい睡眠を取れるように促すのだろう。
まあ、筋肉痛だけど
「じゃ、行って来ます!」
「行ってらっしゃい」
「行ってらっしゃい、愛菜ちゃん」
「お姉ちゃん行ってらっしゃい!」
「行って来ます!」
私はなるべく早く学園に行くことにした。
先生と話すために。
「おはようございますセンセェ!」
「お、おう!? さ、桜木か!? な、なんかお前……二日の間に何があったんだ? ってくらいに元気だな?」
学園に登校してきた私は、校庭で体育の授業の準備をしている先生を見かけて元気よく声をかける。
先生は驚いていた。
「いやぁ! 聞いてくださいよ先生! これ見てこれ!」
「ん? 随分と可愛らしい子供だな。どうしたんだ?」
「実は私のお父さん再婚したんですよ!」
「それはめでたいな。ということは、相手は連れ子か?」
「Yes! 私の最愛の弟君、椎菜ちゃんです! 可愛いですよね! ね! ね!!??」
「あ、あぁ、可愛い……って、え、この子供、男なのか!?」
「はい! 可愛いですよね! まさに男の娘! ちなみに、性格もすごく健気でいい子でしたァ!」
見た目どう見ても女の子なのに、実は男の娘!
私はオタクなので、大好物です!
「そ、そうか」
「いやぁ、土曜日に自殺を決行しようとしましたけど、椎菜ちゃんと言う天使の笑顔とお姉ちゃんという至高の言葉をかけられたことで、いじめとかどうでもよくね? の精神になって、昨日から椎菜ちゃんを守護るために強くなろうとし始めたんですよ!」
「今しれっと自殺しようとしたって言ったなお前!?」
「え? 言いましたけど?」
「お前二日で変わり過ぎだろ……!?」
「それくらいの衝撃、ということですよ、先生」
いじめ? 何それ美味しいの? って言うのが今の私。
あの程度で自殺を考えていたなど、なんて軟弱だったんだろうか私。
まあ、椎菜ちゃんと言う存在ありきだけど。
「そ、そうなのか……無理……をしてるようには見えないな……」
「はい! 実は昨日からフルマラソンしはじめまして!」
「いきなりフルマラソンするのはバカだろ!?」
「いやいや、最速で体力をつけるにはやはりそれくらいは必須ですよ」
「えぇぇぇ……」
「ちなみに、全身筋肉痛ですが、今日もフルマラソンします」
「いや休めよ!?」
「椎菜ちゃんを守護るためには、時間はいくらあっても足りないっ……!」
椎菜ちゃんが安心して大人になるための時間は、私が守護らねばならないからね!
時間が足りないんだよ時間が!
「お前出会った瞬間にとんでもないブラコンになってないか!?」
「この天真爛漫な天使の笑顔でお姉ちゃんとか呼ばれたら、誰だってこうなりますよ」
「……ちょっとわかるのが複雑だ……」
「と、言うわけなので、先生、ここからは私のターンです! ぶっちゃけ、あんないじめっ子どもなど、どうでもよろしい! まあ、証拠は手に入れるつもりがね!」
「あ、あぁ。だが、本当に大丈夫か? 私としては、お前が心配だぞ? なんせ、限界まで行ったみたいだしな……。もしかしたら、いじめでまた……」
「甘いですよ、先生。今の私は……椎菜ちゃんの最高のお姉ちゃんを目指しているんです。その他など、有象無象です。いじめ? 勝手にやってろ、と私は中指立てて笑顔で言ってやりますよ」
「……そうか。だが、私の方でも色々と証拠集めはしてみるよ」
「ありがとうございます! あ、多分ですけど、先生の対策が封じられてたの、多分教員の中に賄賂でも渡されてるのがいると思いますよ。なんとなくですし、確証はないですけどねぇ! じゃ! 私はこれで!」
「あ、桜木! ……行っちまったな……。私としては、自殺しそうなくらいに虚ろで辛そうなあいつが、あんなに元気になってくれたのは嬉しいが…………だとしても、変わり過ぎだろう……」
いやぁ、まずは無尽蔵の体力を手に入れないとねェ!
可愛い天使(比喩抜き)と出会ったことで覚醒したいじめられっ子です。
上中下の三話構成にしようと思ったら、なんかすっごい書けるので、三話以上やります。多分五話で収まるはず。
前回があんなに重かったのに、二話目でこれかぁ……。




