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ただでさえ数で不利なところを、姫プ状態で切り抜けるのは至難の業だ

 掴んでいた手を離し、剣を抜く。

 先に飛びかかって来た一匹の腹を、振り抜きざまに斬りつける。

 落ちて行くゴブリンを、続けざまに来たゴブリンに向かって蹴り飛ばす。


「やるじゃねーか! 相棒!」


「止まるな! 走れ!」


 立ち止まるフレーゲルの手を引き、すぐさま走り出す。

 傷を負ったゴブリンは分からないが、ぶつけられた方のゴブリンはすぐ追いつくだろう。

 他のゴブリンも、着々と距離を詰めて来ている。


 問題は、この姫プヒロインだ。

 先程からの様子を見るに、戦闘が出来るとは思えない。

 ただでさえ数で不利なところを、姫プ状態で切り抜けるのは至難の業だ。


 さっきの無意味な悲鳴さえなければと思わなくもないが、今更である。


「も、もうっ、走れな……っ」


 フレーゲルの足がもつれる。


「ちょっ、フレーゲルちゃん! 今止まるのはやべーから!」


「おいっ、さすがに抱いては走れないぞ!?」


「ご……ごめんなさっ……」


 立ち止まってしまったフレーゲルの手を離して振り返ると、ゴブリン達が次々と襲い掛かってくる。


「あーもーっ! 仕方ねーなッ!」


 ライリーも剣を抜く。

 二人で背後にフレーゲルを庇いながら、棍棒を振り上げたゴブリンを斬りつける。

 ライリーと一匹ずつ、どうにか深手を負わせた。

 息の根は止められなかったが、地面でのた打ち回っている。


「怯んでるうちに突っ込みたいが……」


「回り込まれるとなぁー……」


 短剣を抜く事すら出来ず、震えている少女を見る。

 回り込まれたら、まず真っ先にこの姫プヒロインがやられるだろう。


 一番最初に斬りつけたゴブリンも、いつの間にか追い付いている。

 どうやら傷が浅かったらしい。


「来るぞっ!」


「やるしかねーな!」


 一時は怯んでいたゴブリン達が、再び襲い掛かってくる。

 それを迎え討とうとして…………足が動かない!?


「なっ!」


「うそだろ!?」


 のた打ち回っていたゴブリン達が、俺とライリーの足を掴んでいる。

 すぐさまそれを斬り殺すも、目の前にはもう棍棒が迫っている。


「痛ってぇ!」


「大丈夫か!?」


 何とか直撃を避けて斬り返すが……浅い!


「きゃああああああッッ!!!」


 迫るゴブリンの相手をしている間に、回り込んだゴブリンが二匹、フレーゲルを引きずって行く。


「フレーゲルッッ!!」


「退けこらッ!」


 慌てて目の前のゴブリンをさばこうとするが、いつの間にか増えているゴブリン達を相手に苦戦する。


「いやっ、やめ……!!」


 引きずられたフレーゲルの服が裂かれる。

 暴れる体を、叫び声につられたゴブリン達が押さえつけた。


「待ってろ! 今行く!」


 目の前のゴブリンを斬ると、剣を振り回しながら強引に走り抜ける。


「このまま突破するぞ!」


「わかってるって!」


 立ちはだかるゴブリン達を押し退け、蹴り倒しながら進む。

 あと少し……っ!


 叫びながら抵抗するフレーゲルの下着が引きちぎられた瞬間、奥からズシン、という音が聞こえた。


「くそっ、今度は何だ……!!」


 押し倒されたフレーゲルの更に奥、木々の間から緑の巨体が覗く。


「おいおい……運悪すぎねぇ……!?」


「ホブゴブリン……か!?」


 ホブゴブリンがフレーゲルに近付くと、群がっていたゴブリン達が離れて行き、強引に進んでいた俺達との間に立ちはだかる。


「また増えたじゃねーか!!」


「そんな事より、フレーゲルがやばいぞ!!」


「いやあああああ!! 助けてッ! いやぁぁ!」


 片足を引っ張られたフレーゲルが悲鳴を上げる。


「おい、テディ! 飛べ!」


 ライリーがゴブリンを刺し、屈む。

 その背を駆け上がり、前に飛ぶ。


 ゴブリン達の頭を飛び越え、その勢いのまま、剣を振り下ろす。


「グギャアアアアァッッ!!」


 フレーゲルを掴んだ腕が、半ば程まで深く斬れて垂れ下がる。


「テ、テディく……っ」


「来い!!」


 足を解放されたフレーゲルの腕を掴み、剣を振り回しながら走り抜ける。


「ナイス!!」


「お陰でな! ……行くぞ!」


 ライリーのそばまで退き、そのまま撤退に移る。

 が、数が多い。

 このままでは、また退路が塞がれてしまう。


「押し切るぞ!」


 とにかく、目の前さえ開ければ……!


 背後で、ホブゴブリンが雄叫びを上げる。

 どうやら逃がす気がないらしい。


「ここで終わるわけには……っ」


「神秘よ」


 そう聞こえたと同時に、目の前に光が溢れる。


「きゃっ!」


「……なんだこれは!?」


「体が光ってる!」


 光が俺達とゴブリンを包み込む。


「顕現、せよ!」


 光が収束し、俺達の傷が癒えていく。

 逆にゴブリン達は呻き出した。


「あらぁ……?」


 現れたのは、流れる真っ黄色の金髪から覗く、鋭い眼光。


 筋骨隆々の肉体。


 そして身に纏う、白を基調とした……修道服!?


「誰かと思ったら、アナタ……」


 ちら、と流し目で見ながら微笑むのは、この間の……筋肉辛子男!!!!


「こ、この前の……美容室にいた人、だよな……?」


「覚えていてくれたのね? 嬉しいわぁ……」


「えっ? テディお前知り合いなのか?」


 フッと笑ったその表情から迸る、肉食感はなんだろうか。


「ちょっと待っていてちょうだいね? 今片付けちゃうから」


 片目を瞑ってから、修道服の裾を翻す。


 先程から、なぜか苦しんでいるゴブリン達の前に立つ。

 体に闘気を迸らせながら拳を突き出すと、横薙ぎに払う。


 そのまま、ゴブリン達を次々と吹き飛ばしながら前進。

 深めのスリットから覗く、バッキバキに鍛え上げられた脚が、ホブゴブリンの体を深く抉る。

 蹴りつけたその体に一気に肉薄すると、背負っていた錫杖の先端の刃で、ホブゴブリンの首をはね飛ばした。


 ホブゴブリンの首が落ちたのをきっかけに、残りのゴブリン達が逃げ出す。


「追いたいところだけど、今はその子よねぇ……どうしてあんな事になっちゃったのかしら?」


 呆気に取られていた俺達の前に、筋肉辛子男……いや女……? が近寄って来る。


「それは……私が、ゴブリンを見つけて、叫んじゃったから……っ! それで、沢山ゴブリンが来て、それで……っ! ……ごめんなさいっ」


 大方、いつものテンションでか弱いアピールしようとしたら、思いの外ゴブリンが集まって来てしまったというところだろう。

 そもそも最初、ゴブリンとはかなりの距離が離れていたのだ。

 それこそお互いまだ気付かないくらい、かなりの遠さで、悲鳴を上げて驚くような距離感ではなかった。


 しかし俺も鬼ではない。

 未遂とはいえ、危うくゴブリンの苗床にされかかった少女に、お前のせいだと罵倒する気にはなれなかった。


 フレーゲルを見ると、あちこち引き裂かれた服の隙間から覗く肌を、自身の腕でぎゅっと抱きしめている。

 小刻みに震える体は、いつものようなあざとい様子も見えない。

 ぐしゃぐしゃの顔で泣きながら頭を下げるフレーゲルを見て、俺達も顔を見合わせる。

 肩をすくめたライリーが、ひらひらと手を振る。

 仕方ない、といったところか。


「こんな場所で叫んだらダメよぉ。敵に囲まれちゃうわよ? 仲間も死なせてしまうところだったし、アナタ自身も、ゴブリンの苗床にされるところだったのよ?」


 言い方こそそこまでキツくないものの、その鋭い眼光は本気の目だ。

 フレーゲルがこくこくと頷いた。


「はい……すみませんでした。助けてくれて、ありがとうございます」


 俺達三人に向かって、頭を下げるフレーゲルを見て、俺とライリーも彼……いや彼女? に向かって頭を下げる。


「俺達だけじゃもう、駄目かと思った。本当にありがとう」


「すげー助かったぜ! めっちゃ強いな!」


「うふ、ありがとう。嬉しいわぁ」


 頬に手を当てて、流し目を送ってくる度に、腕の筋肉がムキムキと動いている。

 というか、さっきからなぜ流し目を送られているのだろうか。

 そういえば、美容室でもこちらを見て笑っていたような……。


「前に美容室で見たと思ったが……聖女、だったんだな」


 身に纏う白い修道服を見て言うと、ニッコリと笑顔が返される。


「そうよぉ。アタシは聖女、アンジェラよ。仲間を助けるために、あの状況からよく切り込めたわね。なかなかの連携で、痺れちゃったわぁ……良いパーティーね」


 うっとりとした表情でこちらを見るアンジェラに、つい目をそらす。


「まぁな! 良い相棒だぜ」


「……パーティーと言えば、この辺で三人組の少年を見なかったか? こいつのパーティーメンバーなんだ」


「アタシは見てないわねぇ……ついでだし、付き合うわよ。まだ一緒に居たいし、ね」


「そ、そうか。助かる」


「アンジェラさんが居てくれれば、大分心強いな!」


「ありがとうございます!」


 妙に距離の近い聖女、アンジェラを加え、俺達はフレーゲルの仲間を探す事にした。

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