トレントと襲撃後
「ぎゃははははははははっ!」
川で体を洗い野営地に戻ると、アゼリアの爆笑に迎えられた。腹を抱えて涙を流す姿に殺意を覚える。
「災難だったですねぇ」
「うにゅっ。もう大丈夫なのです?」
クラフトとパームが心配そうに声をかけてくれるが、いつもより距離があるような。
ためしに「問題無い。体も綺麗に洗ったしな」と言って二人に近づいたら後ろに下がられた。
「・・・・・・」
「「・・・・・・」」
「あーっははははは!ひーっ!ひーっ!」
三人の間に微妙な空気が流れ、ソレを見てアゼリアがまた笑い出す。
やっぱりコイツとはトコトン話し合う必要があるらしい。
――――――――――――
「兄貴。あの犬っころぁこの辺りの旅人、片端から襲ってたっぽいっすよ」
ソートゥースが教えてくれた。どうやら俺が川に行っている間、俺達が夜中に聞いた騒ぎの場所を見に行ってくれたらしい。
俺達は当初、旅人を襲撃した野犬か何かの生き残りが逃げてコチラに来たと考えていたが、あんなデカい犬が普通の旅人にヤラれるハズも無い。
俺達が聞いた騒ぎの場所は悲惨な状態になっていて、動く物は見当たらなかったようだ。
それでついでに周辺も見てみた処、他にも旅人が襲われた後を見つけたという事だった。それはつまり、
「食事の為ってぇより、襲うのが目的みてぇな感じだったんすよ」
確かに俺達が争いの音を聞いてから、間髪入れずにヤツはやって来た。
食事の為ならばそれなりの間が空くだろうし、それで満足したなら俺達の所には来ない。ましてその前に他も襲撃しているなら尚更だ。
確かに魔獣の中には凶暴なヤツもいて、動く物なんでも傷つける思春期の高校生みたいな奴も存在する。
通常、野生動物ってのは食事や縄張り争い以外では争いなどしないものだ。ましてこれ程手当たり次第に襲うなんて考えられない。
「何かあるのか・・・」
ハーピーの事もある。繋がりがあるとも思えないが、無いとも言い切れない。
「単純に、狂犬病のオルトロスにたまたま出くわしたって可能性も、無くはないですからね」
俺の呟きを聞いたクラフトが感想を言う。
相変わらず俺との距離は開いたまま。
・・・無理矢理抱きついてやろうかコイツ。
その距離感にムッとしながら返事を返す。
「確かにその可能性もある。でもこの辺りは比較的安全な街道のハズなのに、ハーピーにオルトロスだ。偶然というにはちょっと派手すぎる。対策は考えた方がいいだろう」
「対策というと?」
護衛リーダーでもあるケントが反応する。ちなみにケントは距離を取っていない。一緒に戦った絆は伊達ではない。ちょっと嬉しい。
「例えば、エルフの森に行かずに引き返すとかだな。いくら商売と言っても、命あってだろう?」
俺がそう提案すると、ケントはクラフトの方を見た。
安全を優先するなら、その選択も有りだと思う。しかし、
「それは無いですね。現状で被害が無い以上、引き返すのは有りえません」
クラフトのハッキリとした答えに、溜息で答える。
それに、とクラフトは続ける。
「それに、この辺りならエルフの縄張りの方が近いです。彼等の庇護化に入る方が安全だと思いますしね」
帰り道はどうするんだよ。とは思ったが、リーダーの決定だ。
「大丈夫だよ。今度は僕の爆裂魔法でやっつけるしね!」
アゼリアが能天気な台詞を吐く。
お前、夜中寝てたじゃねぇか。
俺がそう言うと、ムゥッと頰を膨らませて抗議してくる。
「昨日はやたら眠かったんだよ。多分、ハーピー相手にバカスカ魔法打ってたんで疲れてたんだと思う。次は大丈夫だよ!」
確かに魔法を使うと、普通に体を動かすよりも疲れる。
アゼリアは俺達の中でも珍しいくらい魔法が得意だが、その反動なんだろうか。
「ハーピーは数がいたから、思いつきで小さめの火球を沢山撃ったけど、次はデッカイのを一発撃ち込む事にするよ。そっちの方が得意だし!」
「うにゅっ!アゼリアはやっぱり凄いのです!」
パームが目をキラキラさせてアゼリアを褒める。
そんな事言ったらまた調子に乗るぞ?
「まかせて!我が名はアゼリア!樹木人随一の魔法の使い手にして爆裂魔法を操る者!」
ゴンッ!
アゼリアの頭をぶん殴る。
「あーっ!」
悲鳴のような言葉の続きのような声を出してアゼリアが蹲るが、知らん!
お前はいつトレントから頭のおかしい紅目の爆裂娘になったんだ!
危ない発言は控えなさい!
「う○こマンに殴られたー!」
「誰がうん○マンか!ちゃんと洗ったわ!」
「エンガチョー!」
「そんなん今時、小学生も知らんわ!お前は駄菓子屋のバァさんか!」
「誰がバァさんか!女性に対して失礼な!ウォルの方が僕より歳上だからジィさんじゃないか!」
「俺はジィさんでも○んこマンでも無い!ホレ匂いもしないだろうに!」
「ギャー!抱き着くな!セクハラ!変態!伝染る!」
「何も伝染らねぇよ!失礼な!」
「おおお、汚物は消毒だぁー!!」
「ギャーーーー!!」
アゼリアの火球にウォルが吹っ飛ばされる。
「ガキじゃねぇんすから・・・」
フーッフーッと威嚇するアゼリアと、気絶したウォルを見て、ソートゥースは呆れながら呟いた。
そして、その日の夕刻頃。一行はエルフの森、その交易の入り口に到着した。
しかしソコは、予想通りというか、予想以上というか、嵐にでもあったかのように荒れていたのだった。
アゼリアの反撃。
毎回、突っ込まれるだけでは無い。