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トレントと夜営

今回は、少し下品です。

いつもかな?

 どんなに急いでも、エルフの森までは後一日程の距離がある。


 ハーピーの群れはエルフの森を目指していたのではないか、という俺の予想を聞いたクラフトは、確かにその可能性もあると賛成はしたものの、実際にハーピーの言葉が理解出来た訳では無いので、焦っても仕方が無いと結論付けた。


 確かにそれが確定だとしても何か出来る訳では無いし、到着してみれば解る。急いだ結果、大量のハーピーに襲われましたではたまらない。

 それよりは予定通り行動しようという事だ。


 凄く納得するが、簡単に言ってしまえば「エルフが襲われようが関係ない」と言ってるのと同じだ。

 酷いとは思うが、単なる商売相手など、所詮はそんなものだろう。


「個人的にはエルフを守ってあげたいんですよ?それでエルフ美女に感謝されて、キャッキャウフフな感じになりたいです」


 非常に欲望に正直な意見だが、無理な物は無理という事らしい。

 最低だとも思うが、それが商人だと言われれば納得も出来る。

 まぁ、俺も危ない目に合いたくないから、急がない事には賛成なんだけどね。



 そんな会話をしながら、今まで通りに馬車を進めると、いつの間にか日が落ちてきた。


「今日はこの辺りで野宿しましょう」


 クラフトの言葉に御者が馬車を停める。

 どうするのかと見ていたら、荷台から水や調理器具を出して、晩飯の準備を始めた。


「俺達はテントの準備だ」


 ケントがそう言ってソートゥースを引っ張っていった。


 パームは御者のオッサンを手伝って料理をするらしい。


 手持ち無沙汰になったので、アゼリアを誘って焚き火の用意をする。


 薪を集めたところで、アゼリアに魔法で着火して貰った。


 この辺の作業は過去にもやっていたので慣れたもの。

 旅に出て最初のうちは、アゼリアが魔法の加減を間違えて周囲が火の海になったりしたが、今はそんな事は無い。

 煽りで前髪が焦げたソートゥースを見て、アゼリアがケタケタ笑っていたのも今では良い思い出だ。

 そんなに昔でもないけど。


 しばらくするとテントも貼り終え、周囲にはスープの匂いが充満してきた。


 皆で火を囲んで食べ始める頃には、辺りはすっかり暗くなっていた。


 食事中の話題は、やはり昼間の戦闘に関する事が多かった。

 いくらハーピーが何処にでもいるとはいえ、やはりあの数は異常だ。

 何かあったと考えるのが当然だろう。

 それに何かあったのがハーピーだけとも限らない。

 夜の見張りは厳重にしようという話にもなった。


 そんな中、ソートゥースに助けられたり、アゼリアの魔法を初めて見たケントは、やたらと二人を褒めちぎっていた。

 ソートゥースは「ぅるせぇ」と照れていたが、アゼリアは調子にのるので余り褒めない方がいいと思う。

 案の定、


「ふははは!僕の偉大さが判ったか!」


 と、何処かのラスボスのような台詞を吐いて胸を張っていた。

 本当に残念な奴だ。

 性格も、胸の薄さも。


 パームの作ったスープは皆にウケが良く、俺も美味しく頂く事が出来た。

 本当にこの幼女は女子力が高い。

 これで見た目が幼女じゃなければと、やはり残念に思う。

 大きめの鍋にお玉を入れて掻き混ぜてる姿なんて、小学生がお母さんを手伝って料理しているようにしか見えなかった。


「うにゅっ。このままでは明日の朝ご飯が無くなるのです〜」


 スープが美味すぎて、皆で沢山食べすぎたらしい。

 その言葉を聞いて、そろそろ寝ますか。とクラフトが終了宣言をした。


 夜の見張りは、まずアゼリアとパームが付く事になった。

 次が俺とソートゥースで、最後にケントとクラフトの順に決まった。


 非戦闘員のパームだが、草小人は屋外での活動が得意だし、アゼリアだけだと寝かねない。

 パーム自身もやる気だったのでお願いしたら、それを聞いたクラフトも見張りを申し出た。


 流石に幼女を見張りに立てて自分は寝ているという事に心苦しさを感じたらしい。

 その辺りの判断は正常なようで安心したが、護衛対象が見張りに付くのも問題なのでケントと一緒になった。

 なので、図らずもコンビでの夜番になったので俺もソートゥースと組んだ。

 戦力に偏りがあるように見えるが、妥当な組み合わせだろう。

 一番辛い時間が俺達だしね。



「にゅう。交代なのです」


 パームの声に起こされて、ソートゥースと二人で焚き火の所に向かう。

 異常無しなのです。と行って自分のテントに向かうパームは、寝ぼけてフラフラなアゼリアを抱えていた。

 案の定寝ていやがったらしい。



 二人で火を見つめながら、取り留めの無い会話をしていると、遠くで獣の鳴き声が聞こえた。


 この時間に獣が騒ぐのはおかしい。

 目線を交わし、二人で武器を手に取る。


 耳を澄ませていると、どうやら少し先の草原の辺りで争っているような音が聞こえた。


 他の旅人が襲われたのかな?


 距離がありそうだったので、静観する事にする。

 襲われた奴には悪いが、助けに行くような距離でもない。それに襲った獣がそいつらで満足してくれれば、こちらに被害が及ぶ事もなくなる。もちろん、向こうで退治してくれるなら、それが一番いい。困るのは、手負いがこちらに来た時だけだ。


 注意深く音を聞いていると、戦闘音は止んだがそちらから向かってくる獣の気配がした。


「ちっ」


 ソートゥースが隣で舌打ちする。


 襲った奴を全滅させての帰路なら、来た方向に帰るだろうが、こちらに向かってくるという事は手負いが逃げてきたか。

 戦闘音が止んで間もないタイミングだから、まず間違い無いだろう。


 数は少なそうだが、かなりの速度で走ってくる気配を感じる。

 野犬か狼ってトコかな?


 念の為、全員を起こすようソートゥースに指示する。


 姿が見えた。

 やはり野犬だ。

 先頭に二頭。他にはいない。やはり逃げてきたのか。


 二頭だけなら皆を起こす必要も無かったか?しかし一頭に手間取ってうる間にもう一頭が寝ている連中に襲いかかるなんてのは避けたいから正解か?そんなことを考えつつ距離を図る。


 鳴き声は二頭。

 左右どちらが先に接敵するか・・・。


 距離が近づく。

 ・・・何かがおかしい?

 足音が一頭分しかしない?


 これは・・・二頭じゃ無い!


 それは一頭の犬に頭が二つある、熊よりもおおきな魔物だった。


「なんだコイツ!?」


 森にはこんなヤツいなかったから初めて見る。

 そいつが二つの大きな口を開けて襲ってきた。

 自分の顔より大きい口なんて、始めて見た。

 一瞬、『狼に食べられる赤ずきんって、こんな気持ちなのかな?』なんて呑気な事を思う程、現実味が無い。

 それでも、


「悪いな!エサになる趣味は無いんだよ!」

「グァアッ!!」


 棍を犬の顎下目掛けて、力いっぱい叩きつきた。

 右側の犬の口が閉じたが、左側が構わず突っ込んでくる。

 振り上げた棍をそいつに向かって繰り出すが、犬の方が速い。牙と棍がぶつかり合い、勢いで横に吹っ飛ばされた。


「ぐぅっ!」


 歯を食い縛って衝撃に耐えるが、地面に叩きつけられて体中が痛い。

 顎を打ち抜かれた方の頭も復活して、こちらに追い打ちをかけようと迫る。

 慌てて上体を起こして横に飛ぶと、まさに俺のいた場所を犬が通過した。

 熊よりデカい大型犬なので、迫力が凄い。トラックみたいだ。

 トラックに惹かれて異世界転生って話はよく聞くけど、犬に轢かれても転生するんだろうか?あぁ、俺はもぅ転生してるんだったか。


「オルトロスがなんでこんな処に!?」


 俺が下らない事を考えていたら、後ろからケントの声が聞こえた。


 起きてきたのなら、驚く前に助けろ。

 ってかコイツ、オルトロスってのか?犬の癖にずいぶん立派な名前だな。

 頭が二つあるから偉いのか?


 犬、改めオルトロスは俺達の方へ振り向きながら、片方の頭が声のしたケントの方を向いて唸り、もぅ片方がこちらを睨みつける。

 器用にも程がある。こっち見んな。俺の事は忘れてくれ。


 しかし、そう甘くは無かったようで、ケントの方を見ていた頭もこちらに向き直り牙をむく。

 左右の頭の動きに注意しながら、油断無く棍を構え直して睨み返す。

 確か熊は目を逸らしたら襲ってくるって聞いた事あるから、力いっぱい睨んでやった。


「グルルル・・・」


 獰猛な唸り声に若干ビビるが、向こうも俺が睨んでいる事で動きを止めている。


「オラァ!」


 と、そこへソートゥースがオルトロスの横腹へ木刀で殴りかかった。

 反射的に横に跳び躱されたが、そのまま乱打して追い打ちをかける。


 流石ヤンキー兄ちゃん!木刀捌きが似合いすぎる!


 オルトロスのヘイトがソートゥースに移り、木刀と牙での打ち合いになるが、やはり頭が二つあるのは厄介で、あっという間にソートゥースが傷だらけになっていく。

 それを見てケントも剣を振り翳してソートゥースの横に並び、頭の一つを受け持とうと動くが、野生の動きについていけないのか、あきらかに役不足感がある。


「クッ!」


 ケントが苦痛の声を上げる。今はまだ鎧で防げているが、直ぐに押し込まれる未来しか見えない。


 今度は俺がオルトロスの横に回り込み、ガラ空きの胴体へ攻撃するべく急いで移動する。やはり攻撃や防御に硬い前面よりも、柔らかい横腹を攻める方が効くハズだ。

 そして渾身の突きを繰り出すべく、棍に回転を銜えながら力いっぱいに突き出した。


 瞬間、ソートゥースに顔面を殴られたオルトロスがよろけ、俺の目の前には胴体では無く犬の尻が来た。


「あ・・・」


「「キャイ~ン!!!」」


 棍棒は急に止まれない。

 捻りの加わった棍が、かなりの深さで犬のケツ穴に突き刺さっていた。


「やべぇ!」


 二頭同時のサラウンドな悲鳴に驚き、反射的に棍を抜く。

 すると、ズボッという音と同時に、棍と一緒に血やら汚物やらが吹き出した。


 ビュバーーーー!!


「ギャーッ!!」


 体中に勢い良く血糞が降り注ぎ、その威力で後方に吹っ飛ばされる。


 クサッ!キタなっ!何だコレ!!


 って、何だも何も糞以外の何でも無いんだが、頭が理解するのを拒否してる。


「「アォーン・・・」」


 強制浣腸を喰らったオルトロスは全て出し切ったのか放心したように、またもサラウンドで情け無い声を上げる。

 泣きたいのはこっちだ!

 ちょっと口に入ったみたいで苦いし!

 見ると、ソートゥースとケントも呆然としてる。サボってないで今の内に攻撃しろよ!


「うおぉぉぉっ!」


 オルトロスにもケント達にも頭にキタので、雄叫びを上げながら棍杖をバットのように振り抜いた。

 狙いは脚。ケツはダメだ。


「ギャンッ!」


 出し切って気の抜けている状態では防御も何も無い。

 トイレで出し切って「はぁっ」って気を抜いた瞬間に殴られたようなもんだ。コレは痛い。

 左後ろ脚が折れ曲がり、ガクンと倒れ込む。


「今だっ!!」


 俺の声に、呆然としていたソートゥースがいち早く正気に戻り、オルトロスの鼻面をぶん殴る。それを見てケントも、もう一つの顔の頬に剣を突き刺した。


「ギャォォォォッ!」


 悲鳴を上げて仰け反るオルトロス。


「やったか!?」


 ケントが叫ぶが、それはフラグだ。

 ソートゥースが続けざまに木刀を繰り出そうとした処で、オルトロスが予備動作も無く跳び上がった。

 驚く程の跳躍力。

 コイツは犬だと思っていたが、実は猫だったのか?

 そして野生の獣特有の俊敏さで、その場を離れ走り始める。


「逃がすか!」


 ケントが声を上げ追いかけようとするが、オルトロスは脚を怪我しているとは思えない速度で遠ざかっていく。

 それでも走り出したケントを、ソートゥースが突然後ろから蹴り飛ばした。


「うらるっ!?」


 謎の声を出しながら地面に突っ込むケント。


「えーーーっ!?」


 ソートゥース!?何してくれてんの!?

 俺も思わず声が出た。


「どぉこに行くんだぁ?あ?手前ェの仕事は獣退治か?それとも護衛か?どっちだぁ?あぁん!?」


「・・・」


「逃げてくれる。結構な事じゃあねぇか!ワザワザ追い掛けて、他のヤツがココに来たらどぅするんだぁ?あ?そんな事も解らねぇ馬鹿か?殺すぞ!お?」


 はい。ヤンキーの説教が入りました。

 ハッキリ言って脅してるようにしか聞こえないが、言ってる事は正しい。

 蹴られた事に文句を言おうとしていたケントも、これには押し黙るしか出来ないようだった。


「・・・すまなかった。ソートゥース殿の言う通りだ。気付かせてくれて、ありがとう」


 はい、謝罪が入りました。

 相手が脳筋で助かったなソートゥース。

 俺だったら、ソレはソレとして蹴る事は無いだろう!?と殴り返したかも知れない。


 そんなやり取りをしていたら、いつの間にかオルトロスは姿が見えなくなっていた。


 結果的に誰も死ななかったのだから、オッケーなのかな?

 まぁ、酷い目にはあったけど。主に俺が。

 二回も吹っ飛ばされたし、フンは被るしで最悪だ。

 頭からフンまみれなんてプレイは二度とゴメンだ。

 ここまで特殊な趣味に目覚める気もさらさら無い。


 とりあえず疲れたし、一刻も早く体が洗いたい。


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