表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/8

8.図書館

訪問有り難う御座います。最終話です。ここまでおつきあい下さり有り難う御座いました


薄暗い図書館に、ほとほとと涙が落ちる。静かな部屋に、すすり泣きが響いた。

「全部、ゲームだったんだ」

何故初めてあったとき、あの言葉を鵜呑みにしたのだろうか。《ゲームではない》今考えると、後ろ暗いことがあったから、わざわざそんなことを言ったとも考えられる。

「……泣かなくてもいいのにね」

拭っても拭っても、涙は零れた。

仕方がないので、膝を抱えて上を向いておくことにした。すると、さらに色々な想いが溢れてきた。

本を取ってくれたことも、昼休みの楽しいお話も全部、嘘だったのだろうか。あの優しさも、笑顔も全部――

「ぁっ……」

手が触れた先にあったのは、和斗と出会うきっかけとなった本。

全部全部――嘘。

「水面!!」

「っ!!」

突如現れた影から、慌てて逃げる。体が自然に動いていた。

「待って、水面!!」

「……嫌、来ないで!」

「水面!!」

「嫌、嫌、」

「俺、話さなきゃいけないことが――」

「聞きたくないです!!」

ぱっと手が取られる。一瞬の間に、水面の体は和斗に抱きすくめられた。背中から伝わる体温が熱い。

「ちょ、ごめん。ほんと、疲れた」

「ごめんなさい、ごめんなさい」

耳を塞ぎ、顔を伏せていると、体に回された腕に力がこもった。

「ごめん。俺、嘘吐いてた」

「嫌、聞きたくないです」

嫌だ。痛い。苦しい。これ以上、何も聞きたくない。

「全部嘘だなんて……言わないで。……嬉しかった。あの優しさが、笑顔が、全部嘘だなんて、思いたくな――」

「違う」

「っ!!」

「……このままでいいから、聞いて」

とくとくと、胸の音が響いてくる。そっと耳を塞いでいた手が外された。そのまま手ごと抱き締められる。


「嘘だと言ったのは、俺が本好きって事。本当は嫌い」

体を強ばらせたのが伝わったのか、慌てたように和斗は続けた。

「でも、水面に本を薦められて嬉しかったのは本当! 本は読んだし、面白かった。あそこまで読めたのは初めて」

ちらりと後ろを見ると、真剣な目と目が合った。

「本当?」

「本当!」

「どこまでが、本当ですか?」

「本好き以外、全部本当です」

頭に顎が乗せられる。少しくすぐったくて、何故か温かくて、落ち着いた。

和斗に抱き締められていると自覚すると、顔が熱くなったが、今はまだこのままでいたいと思った。

「好きって言ったのも、本当。入学式の時さ、同じ名字なのに、読み方が違う奴がいるって知って。それが興味を持ち始めたきっかけ」

「……」

「それから、何となく見てて……。水面、入学してすぐに授業さぼった日があったの覚えてるか?」

「えぇ!?」

そんな不届きなことをした覚えはない。

「図書館の前とおったとき、チャイムなったのに本を読んでる奴がいたんだ」

「あっ」

思い出した。確かあの時は、本を読むのに夢中になり過ぎて、授業チャイムに気が付かなかったのだ。確かあの後――

「終業チャイム聞いて慌てて図書館後にしようとして――」

「うぁぁぁ!! み、見てたんですか!?」

「筆箱ひっくり返したんだよな。あれは笑った」

恥ずかしい。まさか見られているとは思っていなかった。

真っ赤な顔を見られたくなくて、手で顔を覆う。

「それから、何かある度に目で追ってる自分がいて……好きになったわけです。はい」

「……」

「よし、俺は言った。全部言った! 次は水面の番な」

「っ!?」

回された腕に、力がこもる。

「泣いてたって事は……俺、期待しても良いのかな?」

低い声が、耳朶をくすぐる。

優しい人。素敵な人。何も答えない水面の返事を待ってくれて、笑顔をくれて、温もりをくれて。どうして嫌いになれるだろう。好きにならないわけがない。

「……っ」

水面は小さく頷いた。



大きな背中が、腕を伸ばして《緑の華》を本棚に戻してくれる。

「水面さ、俺と一度会ってたこと知ってる?」

「え?」

「やっぱ、覚えてねぇか」

初めてあったのは、ここ、図書館だと思っていた。

「話したこともあるんだぞ」

「いつですか?」

「内緒。思い出してもらわないと、俺が悲しいから」

和斗にはいつも、助けてもらっている。水面が口に出さずとも察してもらって、貰ってばかりだ。さっきも水面は自分の口から答えを出してない。

そっと和斗に手を伸ばす。

大きな背中に腕を回すと、和斗が振り返ったのが分かった。


「貴方のことが大好きです」



茜色の空が、図書館を染めていた。

有り難う御座いました。 2012.8現在、次シリーズ少年は夢を見る執筆中です!9月にはあげると思いますので、これからもよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ