表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/8

6.登校

訪問有り難う御座います!


がたり、がたりと体が揺れる。いつもなら早く出るのに、今日はつい本に夢中になってしまい、一本遅れて電車に乗ることになった。休もうかとも思ったが、たかが混雑の電車ぐらいで休むのも馬鹿げている。

しかし、この混雑を誰が予想しただろうか。会社員から学生まで、びっしりだ。勿論、男も女も関係なく、詰め込まれている。

何とか小さな隙間に身を寄せるも、大きな揺れの度に、潰されやしないかと冷や冷やしていた。

がたりと大きく車体が揺れる。

「ひゃっ」

「あれ、水面?」

襲ってくる衝撃に目を瞑ると、降ってきたのは聞き覚えのある声だった。

「え、何でここにいんの!?」

目を開けると、和斗の腕の中にいた。一瞬にして顔が熱くなる。

どうして、ここに和斗がいるのだろうか。

「えっと、あの、おはようございます」

「おはよう。……じゃなくて、水面はもう一つ早いやつだろ?」

「はい。あの、つい本を読んでしまいまして」

「あぁ……それで遅れたわけね」

それだけで理解してくれたのか、柔らかな笑い声が降ってきた。

ふわりと、和斗が笑う度に髪がくすぐられる。唯一の救いは、ひっついているという事で、和斗に顔が見えないということだろうか。

顔が、熱い。

「……えっと、悪い。ちょっと我慢してくれ」

「え?」

思わず顔を上げると、そっぽを向いた和斗の顔があった。

「耳、赤い」

「っ!?」

顔は隠せても、耳までは隠しきれていなかったみたいだ。

慌てて髪で耳を覆うも、もう遅いだろう。

更に水面は耳を赤くするのだった。

「ごめん、着くまでな」

「そんな……有り難う御座います」

潰れないようにしてくれていることは分かる。まさか、本の中の人物のように、実際にこんなにも優しくして貰えることがあるなんて、想像もしなかった。

ちらりと視線だけやると、窓から外を見る和斗の顔が見えた。

何て、優しい人なのだろうか。

「えっと……和斗さんも電車なんですね」

「え、何で?」

「ほら、この間は駅ではなく途中で分かれたでしょ?」

「あぁ、あの日は用事があったから。水面、いつも一つ前の電車だろ?」

和斗の目が下に向けられる。慌てて水面も下を向いた。

「そうです」

そういえば、どうして、和斗は水面の乗る電車の時間を知っているのだろうか。水面のことは何でも見透かされているようだ。

「今よりは少ないんだろうけど、そこそこ混みはするんだろ?」

「はい」

「じゃ、俺も明日からもう少し早く出よ」

「え?」

思わず顔を上げると、すぐ目の前に和斗の顔があった。鼻の先が触れてしまいそうだ。

にこにこと笑いながら、水面を見下ろしている。

「そうしたら、水面と一緒に行けるな」

何て一途な人なのだろうか。

何故か胸が苦しくなって、思わず水面は顔を伏せてしまった。

水面が潰れないようにと、回された腕が暖かい。


有り難う御座いました。

次から最終突入です!

残り2話ほどおつきあい下さい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ