6.登校
訪問有り難う御座います!
がたり、がたりと体が揺れる。いつもなら早く出るのに、今日はつい本に夢中になってしまい、一本遅れて電車に乗ることになった。休もうかとも思ったが、たかが混雑の電車ぐらいで休むのも馬鹿げている。
しかし、この混雑を誰が予想しただろうか。会社員から学生まで、びっしりだ。勿論、男も女も関係なく、詰め込まれている。
何とか小さな隙間に身を寄せるも、大きな揺れの度に、潰されやしないかと冷や冷やしていた。
がたりと大きく車体が揺れる。
「ひゃっ」
「あれ、水面?」
襲ってくる衝撃に目を瞑ると、降ってきたのは聞き覚えのある声だった。
「え、何でここにいんの!?」
目を開けると、和斗の腕の中にいた。一瞬にして顔が熱くなる。
どうして、ここに和斗がいるのだろうか。
「えっと、あの、おはようございます」
「おはよう。……じゃなくて、水面はもう一つ早いやつだろ?」
「はい。あの、つい本を読んでしまいまして」
「あぁ……それで遅れたわけね」
それだけで理解してくれたのか、柔らかな笑い声が降ってきた。
ふわりと、和斗が笑う度に髪がくすぐられる。唯一の救いは、ひっついているという事で、和斗に顔が見えないということだろうか。
顔が、熱い。
「……えっと、悪い。ちょっと我慢してくれ」
「え?」
思わず顔を上げると、そっぽを向いた和斗の顔があった。
「耳、赤い」
「っ!?」
顔は隠せても、耳までは隠しきれていなかったみたいだ。
慌てて髪で耳を覆うも、もう遅いだろう。
更に水面は耳を赤くするのだった。
「ごめん、着くまでな」
「そんな……有り難う御座います」
潰れないようにしてくれていることは分かる。まさか、本の中の人物のように、実際にこんなにも優しくして貰えることがあるなんて、想像もしなかった。
ちらりと視線だけやると、窓から外を見る和斗の顔が見えた。
何て、優しい人なのだろうか。
「えっと……和斗さんも電車なんですね」
「え、何で?」
「ほら、この間は駅ではなく途中で分かれたでしょ?」
「あぁ、あの日は用事があったから。水面、いつも一つ前の電車だろ?」
和斗の目が下に向けられる。慌てて水面も下を向いた。
「そうです」
そういえば、どうして、和斗は水面の乗る電車の時間を知っているのだろうか。水面のことは何でも見透かされているようだ。
「今よりは少ないんだろうけど、そこそこ混みはするんだろ?」
「はい」
「じゃ、俺も明日からもう少し早く出よ」
「え?」
思わず顔を上げると、すぐ目の前に和斗の顔があった。鼻の先が触れてしまいそうだ。
にこにこと笑いながら、水面を見下ろしている。
「そうしたら、水面と一緒に行けるな」
何て一途な人なのだろうか。
何故か胸が苦しくなって、思わず水面は顔を伏せてしまった。
水面が潰れないようにと、回された腕が暖かい。
有り難う御座いました。
次から最終突入です!
残り2話ほどおつきあい下さい。




