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【第四話】『風雲急を告げる』

『はぁ〜・・もう限界。』


・・・


この先、君の未来は2つある。


日々起こる記憶の矛盾と向き合って生きて行く道。


管理側に協力する道。


さあ君はどっちを選ぶ?


・・・久々に夢を見た。


選択を迫られたあの日から1ヶ月が経とうとしている。


『真〜!起きてるか!そろそろ行くぞ〜。』


『今行く〜!』


『早く来て積み込み手伝え〜!』


父さんに起床を強要された。


今日は昼間から丘の上公園に来ている。

家族で久しぶりのバーベキューをしている日曜日。


フラッシュ事件が記憶の闇に埋もれて1週間が過ぎた。


何だかんだで、こうして日常を送る分には、枷になる事はないのかも知れない。


僕は身の周りに起こる変化を知り、生まれたての真実に順応していく。

他の人達は変化に気づかず生きて行く。


多分大丈夫だ。

このままでも僕はやっていける。


『はぁ〜・・もう限界。


もう食えない。無理!』


『はっは!

子供は大人の5倍食え!その計算で肉を仕入れてある!』


『何の基準だよ!もう焼かないでいいから!子の不始末は親が責任とってくれ!』


『なにおう?上等だ!こっから焼いた分は父さんと山分けで食べろ!』


『どうしてそうなる』


芝生に背中から思い切りダイブして、全身でひんやりを満喫する。


目を閉じて鼻から草の匂いを吸い込む。


今まで面倒だった家族イベントを、僕は心底楽しんでいる。


『天気がいいなぁ、今日は。寝て過ごすのはもったいないぞ〜真!』


目を開けた。

初夏の昼間の太陽はこんなに優しく眩しいんだな。


目を細めながら蘇るその視界に向けて、僕は眉間に深いシワを寄せた。


『はじめまして、「来問 真」さん』



警戒心MAXで跳ね起きる。

立ち膝のまま見上げた。


なんだ?こいつは。


家族団欒の中に堂々と介入してくるなんて。


・・いいや、本当はわかってる。きっとあの光に関係する人だ。


向こうは何事もないかのような表情で、こちらを興味深そうに見下ろしている。


年は僕より少し上に見える。

背は僕より低くて165センチくらいか。

金色のウェーブがかかった髪が耳の下あたりまで伸びているが、顔立ちは日本人だ。

で、やはり黒づくしのジャケットなんだな。


そんな目立ちたがり代表みたいな人物を前にして、僕はそれ以外の事に目が向いていた。


『父さん?』


肉を焼いている父さんが、景色共々一枚絵のごとく動かない。肉の焼ける音も聞こえない。


『もしかして、ロック中に人を見るのは初めて?』


ロック中?


『ホントは君もあんな感じでピタリと止まってる側だったんですよ?ホントにラッキーでしたね!』


ラッキーだと!?

サングラスの男は強不運だと言っていた。

訳がわからなくなってきた。



『何しに・・・ここに来たんですか?』


『私はあなたを勧誘に来たんですよ、元あなた側の人間として』


『え・・?』


僕と・・同じ!?


『私も元はあなたと同じ境遇。でもこれは、自分の意思で切り開ける道ではない事はご存じでしょう?』


『あなたもこちら側に・・』


『おっと、それ以上のおしゃべりは禁止だよ、さっちゃん』


『その呼び方やめてもらえます?』


サングラスの男が急に視界に出現した。

どこにいたんだ?


『いやぁ、来問くん久しぶりだね!元気に生きてたかい?』



サングラスの男と、「さっちゃん」と呼ばれた人物は知り合い、つまり同類。


『さあ真さん、迷うことなどひとつもないですよ?私と一緒に真実を歩んでいきましょう!』


『ダメだよさっちゃん、これは彼の問題なんだから無理強いしちゃ。』


『何でですか!迷ってる間、彼はずっと苦しみ続けるんですよ?早く解放してあげるべきなんです!』


『それは来問くんの感じ方次第だと思うけど』


2人は反りが合わなそうな感じだ。

根本的に思想が違うのだろう。


『いいですか!このレイヤーはただでさえ・・』


『ストップだ。さっちゃん』


急にサングラスの男の声色が変わった。

真冬に野晒しに放置されたステンレスのような冷ややかな口調。


さっちゃんと呼ばれていた人物は、やってしまったとばかりにバツの悪そうな表情で口を閉ざした。


口元を両手で覆いながら、チラ、チラとこちらを伺っている。


『来問くん。君の立場はかなりレアで、そして重要だ。我々としては野放しにしては置けない存在なんだよ。下手をすると仕事が増えてしまうからね、先日の


「フラッシュ事件」


みたいに。』


・・やっぱりそうだったんだ。


能天気な表情なのに、妙に重苦しい空気を醸し出しているのは気のせいか。

サングラスの向こう側はそれよりも深い闇で見えない。


『とまあ、そんな訳でさ、君が今まで通りの日常を過ごすと決めた場合、僕らはこうしてずっと君を監視し続ける事になる。それだけは伝えとくよ。』



『そういう事です。早くこちらに来た方が良いですよ。』


ちょっと勢いを失っていたさっちゃんも、ようやく再起動したようだ。


2人は僕に背を向けて手を振りながら去って行く。


『あなた方は結局何者なんですか!何が目的なんですか!』


『あなたがこちらに来る決心をしたなら、いつでも教えてあげますよ?』


『あ〜、早くお父さんのとこに行って手伝ってあげなよ。網に乗せすぎた肉が焦げちゃってるからね』


『あぢぃぃいい!』


思わず振り返ると、父さんが肉に焼かれていた。




あの時、クーラーバッグの中に父さんの手をグイグイ押し込んで笑っていた僕には知る由もなかった。

記憶が改ざんされる事による影響が、僕の日常にまで侵食していたことを。

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