【第三話】『心労苦悶』
僕は今、悩み事を抱えている。しかもそれは早急に答えを出さなければならない。
さもなくば、僕はそばにいる人達に多大な迷惑をかけてしまうからだ。
『どっちにするか決まったかい?』
『・・・よし、決めた!』
『鴨南蛮で!』
今日は学食に『手打ちそばコーナー』が特設されている。地元のそば屋さんが学生へのアピールとして、毎年やっているイベントだ。
メニューは本店で人気の「海老天そば」と「鴨南蛮そば」の2つ。
僕はどちらも好きで、いつも迷ってしまう。
遅杉は海老天そばを頼んだらしい。
もともと僕は、学校で誰ともつるんでいないのだが、あの遅刻の一件以来、遅杉がよく話しかけて来るようになり、よく昼ごはんを共にしている。
どうやら遅刻仲間と認定されたようだ。
なにせあの日は、我がクラスで常連遅刻大魔王の遅杉をはるかに超える大遅刻を決めたからだ。
昼休みにそーっと教室に入ったが、遅杉に瞬時に見つかり大爆笑されたからな。
『来問!お前今日は休むのかと思ったわ!流石の俺もここまでひっぱれねぇぞ!』
『うるさい!お前は毎日遅刻だろうが!』
こっちは人生ひっくり返されそうになってたってのに、いや実際今までの人生は転覆した。
そこから必死でもがいて上陸したのにこの扱い。
あの時はホント休めば良かったと後悔している。
という事があったが、今の僕としては、情報通の遅杉から毎度聞かされる情報は見逃せない。
遅刻しかしてないのに、どうやって情報集めてるんだ?
向かいに座って爆食いする遅杉を見ながらそんな事を考えながらそばをすすっていたら、遅杉が箸を止めて急に真顔になった。いつもの噂話モードに入ったようだ。
『なあ来問、「フラッシュ事件」て知ってるか?』
僕の箸がぴたりと止まった。
『フラッシュ事件?』
『ああ、お前は聞いた事ないか?』
『知らないな。どんな事件なんだ?』
僕は、どう考えても子供がネーミングしたとしか思えないその事件の内容が妙に気になった。
『なんでも、急に辺り一帯が眩しい光に包まれて、気がついたら目の前の建物が消えてたらしいぜ。
隣街ではかなり噂になってるらしい。
かくいう俺も、その隣街のダチから聞いたんだけどな。』
・・光!あの白い光か!
でも何か引っかかる。
『へぇ。で、その建物ってのはどんな建物なんだ?』
『それがよ、謎なんだ。消えたって噂の建物が、元は何だったのか、誰も知らないんだってよ!
おかしい話だよな。』
『それなら地図とか見てみりゃわかるんじゃないか?』
『お前もそう思うだろ?地図を調べたやつがちゃんといて、またびっくりなんだよ。なんと、最初から空き地だったって話だ。』
『それじゃあ、最初から空き地だった場所を指差して、建物が消えた!って噂を流したようなものじゃん?』
ちょっと前に、僕が遅杉に廃校の話をした時、下手すりゃ僕自身がこれを言われる着地点になってたんだと思う。
『そうなんだよな。ただのハッタリかと思うよな。そんな証拠もないただのでっちあげの噂なんだが。
ただ、最初は『街全体を見えなくするほどの白い光を見た』っていう噂だったらしい。それに尾ひれがついて建物が消えたって話になったんだろうな。』
あの現象を、僕以外にも見た人がいる?僕と同じ境遇の人が!
『その建物が消えたって噂流したヤツ、誰かわかんないか?』
『来問、珍しく食いついて来るじゃねえか。噂には興味なさそうだったのによ。まあ、噂の出どころまでは流石の俺もわからないが、調べておいてやるよ。』
『頼む!』
『任せとけ!』
もしかしたら、僕と同じ境遇の人に会って、何か話が聞けるかも知れない。
その人は、あのサングラスの男側で生きてるのかも知れない。
いや、それは無いか。
こんな噂を流す事自体、あっち側の人からすれば完全ルール違反だろうし、下手すりゃ始末されてしまうかもしれない。
それにしても、わざわざ噂を流したのは何故だ?
あんな子供騙しみたいな話、まともに信じるヤツなんていないのに。僕みたいに事実を知ってる人間しか・・・そういう事か!
同じ経験をした人間なら反応が違う!わざわざ真実を真っ向から噂にして流した理由は同志を見つける目的か!
でも、仮にそうだとして、なんでそんな事を?会ったところで何かできる訳もないのに。
まあ、もし会ったとしてもいきなり同志だと暴露するのは危険だ。興味があった程度で話をきいてみるか。
しばらくは遅杉からの連絡待ちだな。
『来問〜、ちゃんと先生の話聞いてるか〜?』
『聞いてます!バッチリです!』
『お前はせめてバレない嘘をつけ〜』
クラスのみんなに笑われた。
こっちは内心それどころじゃないんだわ。
そして翌日。
僕は思い知らされた。
『は?フラッシュ事件?何だそりゃ』
フラッシュ事件は、白くまばゆい闇に葬られた。
噂も75日というが、1週間もたたないうちにそれは消えた。
噂は無かったことにされた。
ワンチャン遅杉の冗談かと思ったが、単純思考のアイツの事だ、反応を見ればわかる。あの時、商店街で聞いた時と同じ表情だったから間違いない。
やはり、あの事実は大っぴらには話せない極秘事項なのだろう。
仮に広めようとしたところで、噂という拘束しようもない対象にもかかわらず根こそぎ消し去ってしまう。
・・噂を流した本人は?まさか一緒に消されたとか・・
可能性はある。
それほど重要な事なんだ、あの光が起こす事象は。
このまま、何度白い光を潜り抜けても変わらない記憶と、変わり続ける自分以外の全て。それと付き合っていかなきゃいけないのか。
今日もまた、僕は丘の上公園に来ている。




