道種 熊次郎③
熊次郎視点です。
『道種理事長! SNSに投稿された記事について詳細を聞かせてください!』
『身内の女性達とは今もなお関係を続けているのですか?』
SNSに投稿された記事を目の当たりにしてからわずか数日後……。
ワシに話を聞きたいと多くの人間が学園に押し寄せてきた。
我が学園の生徒達やその親族はもちろん……動画配信者なる無知な若造共……しまいにはマスコミまで動き始めた。
学園のSNSには大量のコメントが溢れかえ……学園の電話は常にうるさく鳴り続けている。
学園の正門には毎日のようにハイエナ共が張り付き……ワシに喰らいつこうと息を荒立てている。
中には家にまで張り付いてくる狂気じみたハイエナまでいるから驚きだ。
無論……ワシは全て無視している。
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ダンッ!!
「一体何がどうなっておる!?」
行き場のない怒りを少しでも発散させようと……ワシは理事長室のデスクを叩いてしまった。
祖父から譲り受けた学園の宝とも言えるデスクを……。
だが、今のワシにはそんなことを考える余裕すらなかった。
ネットでの情報に踊らされて騒いでいるだけ……そう自分に言い聞かせてきたが、さすがにこう何日もしつこく喰い下がり続けていればイラ立ちもする。
「理事長……もうこうなった以上、会見を開いて直接詳細を説明するしか……」
脂汗を掻きながら校長はそう提案してくるが……ワシは断固としてそれを受け入れなかった。
会見など開いたところで……たかだかネット上の戯言を鵜呑みにしてワシを問い詰めて来る低能な連中にこの崇高な理想が理解できるはずはない。
実際……大河達のような非国民共の耳には全く入らなかったからな……。
「会見など不要だ! そもそもこれはプライベートな話で、学園とは関係がない。
親達にはそう説明させておけ……ハイエナ共は追い返せば良い。
教員達にはそう伝えろ!」
「しっしかし……」
「さっさと行け!!」
何か言いたげだった校長を理事長室から強引に出て行かせ……ワシは再び静寂に包まれた理事長室でお勤めの続きを始めた。
ワシにはやるべきことが山ほどある……いつまでもこんなつまらん話に付き合ってられるか!
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ところが……それから1週間後。
校長が再び理事長室を訪ねてきた。
「いっ今なんと言った?」
「ですから……謝罪会見を開いてほしいのです」
「ふっふざけるなっ!
なぜワシが謝罪会見など……」
「理事長……ご存じですか?
理事長の話が広がっていく影響で……生徒達が世間から羞恥の視線を向けられているんです」
校長は手に持っていたタブレットを操作し……ワシに突き付けてきおった。
そこには……。
『例の理事長……学園の女子生徒を片っ端から喰い散らかしているって話だぜ?』
『マジ? でもまあ、身内を喰い散らかして孕ますような爺なんだから……あり得ない話じゃないか』
『学園の生徒の3割は爺の子供だって話も聞いた!』
『気持ち悪すぎる!! マジでこんな性欲モンスターがなんでエリート学園の理事長やってるのか理解できないわ。
理事長の人選基準にヤリチンって項目でもあるの?』
『ここまでくると……男子生徒のケツにも手を出してるんじゃね?』
ワシと生徒達の関係について……永遠と書かれていた。
もちろん……このような事実はない。
これらは全てデタラメだ。
「なっなんだこれは!?
こんなものはデタラメだ!
いい加減なことばかり書きおって……」
「真偽はこの際問題ではありません……。
問題なのは……生徒達が世間で辱めを受けていると言う事実です。
ネット上では顔や名前、住所と言った個人情報まで晒されている子も何人かいますし……中にはこの辱めに耐え兼ねて不登校になってしまった子もいます」
「何っ!?」
この道種学園の生徒がこんなデタラメで心を折るとは情けない。
真のエリートであれば、噂話だの晒しだの無視して勉学に励むべきであろう?
全く……所詮は無能な親から生まれた無能な子供か……。
「生徒だけではありません……。
教員達も生徒達同様の辱めを世間から受けています。
その上……親やマスコミの対応で身も心も疲弊しきっています。
現にさっき……教員の1人が疲労で倒れました」
「クソッ!!」
教員共も使えぬ奴らばかりか……。
「ですから……理事長に謝罪会見を開いてほしいのです。
今更開いたところで鎮火するとは思えませんが……これ以上騒ぎが大きくならない可能性がわずかでも残っていれば……やるべきです!」
「そ……そんなことができるか!!
この道種熊次郎が公衆の面前で頭を下げるなど……そんな学園の名誉を貶めるような真似ができるか!!」
このワシが無能な親共に頭を下げる?……カスのようなハイエナ共に非を認める?
あり得ぬ!
そんなこと……あってはならないのだ!!
ワシは大河達に法廷でこの名を傷つけられたのだぞ?
その名を……さらに傷つけるだと?
ふざけるなっ!!
ワシは道種家の当主であり……いずれこの日本を救う救世主として歴史に名を残す男だぞ?
これ以上……この名を辱めてためるか!!
「お言葉ですが理事長……学園の名誉などすでに堕ち始めています。
もはやこの先……学園を維持できるかどうかもわかりません。
今は学園の名誉より……生徒や教員達を優先するべきかと……」
「貴様、このワシに……理事長の座を下りろと言うのか?」
謝罪会見などと聞こえは良いが……ワシにとって実質それは解任と同じだ。
ワシはこの命尽きるまで理事長の座を下りる気はない!!
まして無能な生徒や教員のために……この身を犠牲にしてたまるか!!
「謝罪会見などしてみろ……ワシだけでなく、校長である貴様も学園を去らなければならない可能性だってあるのだぞ?
わかっていってるのか?」
「わかっております……。
私とて責任ある身……覚悟はできております」
「そうか……学園を去る覚悟ができているか……。
ならばその覚悟に免じて……この場で校長の任を解いてやる。
さっさとこの学園から立ち去れ!!」
「理事長!!」
「それ以上その臭い口を開くな!! 出て行けぇ!!」
校長はそれからもしつこく食い下がっていたが……ワシが警備員を呼ぶと脅したらしぶしぶワシに背を向けて去っていきおった。
苦虫を噛み潰したかのような顔を浮かべていたが……自身の言葉後悔していたのだろう。
だがもう遅い……。
去りたければ1人で去るがいい。
ワシに異を唱えるような無粋な人間は我が学園にはいらんのだ!!
「謝罪などしてたまるか……」
ワシは過ちなど何も犯しておらんのだ!!
そうだとも……ワシは何も間違っておらん!!
真に間違いを犯しているのは……ワシを非難する非国民共だ!!
ワシはそう自分自身に言い聞かせ……断固として世間に背を向け続けた。
日本国にこの身を捧げているワシの愛国心を理解できぬ非国民など……相手にする価値もないのだからな。
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それからわずか3日後……ワシは理事会に呼ばれた。
「いっ今なんと……」
「君を道種学園の理事長から解任する……そう言ったのだよ」
その冷淡な言葉にワシは耳を疑った……。
一瞬、幻聴が聞こえただけでは?
そう思いたいあまりに聞きなおしたが……会長はため息交じりに解任をワシに突き付けてきた。
「なっなぜです!? どうして急にそんな……納得できかねます!!」
「世間からあれだけ非難を浴びておいて……なぜもなにもないだろう?
むしろ……どうしてそのまま理事長を続けていけると思っていたのか、こちらが伺いたいくらいだ」
「あっあんな戯言で私を理事長の座から下ろすと言うのですか!?」
「君の行為を裏付ける証拠や証言がネット上で公開されているのだよ?
本当に戯言であれば、まだ言い訳を考える余地もあったが……全て事実であると証明されている以上……私達も君を庇う訳にはいかんのだよ」
「わっ私がこの日本の教育にどれだけ貢献したか……お忘れになったのですか!?」
我が道種学園には……これまで問題を起こすような生徒は1人としていない。
その上、毎年多くの生徒達が1流大学に合格している。
なぜか?
ワシが築き上げてきた環境が完璧だからだ……。
校則……授業……生徒達のサポート……何もかもが完璧だ。
なぜか?
ワシが理事長として学園を完璧に維持しているからだ。
そのおかげで……道種学園はエリート学園として名を挙げ、教育委員会も模範な学校として道種学園を世に推薦したんだ……。
学園に勤めている3流教師共では……ここまでできなかった。
このワシがいたからこそ……成せたことなのだ。
そのワシを……解任するだと?
あまりに馬鹿げている!!
「君のこれまでの功績は称えよう……。
だがどれも所詮は過去の栄光だ……世間に叩かれている君を庇う理由にはならん。
これ以上君を理事長の椅子に座らせておけば……今度は私達が世間からの制裁を受けることになる」
「それはつまり……トカゲのしっぽ切りと言うことですか?」
「表現が違うよ、道種理事長。
この場合は……降りかかる火の粉を払うというのだ」
「私が理事長の座を下りれば……道種学園はどうなるか、想像できませぬか?」
「安心したまえ……。
君の代わりなど吐いて捨てるほどいる。
もっとも……これだけ世間から注目を集めてしまった学園だ。
理事長など、もはや不要かもしれんがな」
「ぐっ!!」
それからもしばらく喰い下がったが……解任の決断は揺らぎもしなかった。
世間からの評価を下げたくないと……奴らはワシを見捨てたんだ。
保身のために……このワシを捨てるとは……日本という国はどこまでワシを失望させれば気が済むのだ?
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それから間もなく……ワシは学園の名誉と生徒達を辱めてしまった責任を取るという形で理事長の座を下りた。
理事長を下ろされたなどとは言えないので……表向きにはそう通している。
解任については簡単な会見で世間に報告したが……謝罪しろとうるさい輩が多くいた。
無論、謝罪など1度も口にはせず……会見は10分もかからずに終了した。
ワシには謝罪すべきことなど何もないのだから当然だ……。
だが……この会見がさらに世間の怒りを買うことになったらしい。
ワシのその態度がふてぶてしいだの……反省が感じられないだの……ネット上での誹謗中傷がさらにひどくなってきたばかりか……。
『キチガイ爺死ね!』
『日本人の恥さらし!!』
家の外壁にまでビラやスプレーでワシへの誹謗中傷を書き始める輩まで現れ始めた……。
無論、ネットでの件を含めて警察に被害届を出したが……解決どころか良い兆しまで見えてこない。
ワシが収めてやった税金で生きているくせに……こんな時でさえ役に立たんのか!!
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長く腰かけていた理事長の座から下りることになったものの……経済的な面では問題なく生きていける蓄えがあったので今後の生活を心配することはない。
だがワシは……黄金よりも輝かしい理事長と言う肩書きを失ってしまった。
その上……。
『こんな常識の欠片もない狂人を教育者を名乗らせるな!!』
世間の名も知らぬ輩だけでなく……道種学園の生徒達やその親族……あげくに教員達までもが、ワシを教育の現場からの追放を願い……ワシは教員免許までもはく奪され、教育に一切携わることができない身の上となってしまった。
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「ワシは……どうすれば良いのだ?」
理事長どころか教育者ですらなくなった現実に……ワシは心底打ちのめされた。
家に籠り……嘆く毎日を過ごしていた。
「日本に尽くしてきたこのワシが……なぜ?」
何度自問自答しても……答えは浮かび上がってこない。
ネット上では……”ざまぁ”だの”自業自得”だの……落ちぶれてしまったワシを嘲笑う声であふれていると聞く……。
「狂っておる……。
日本は……狂っておる」
世間はワシを狂人だと非難してくるが……ワシからすれば、そいつらこそが真の狂人だ。
日本の未来が掛かっているワシを……寄ってたかって絶望のどん底に沈めるということは……もはやテロに等しい。
「そうだ……これはテロだ。
身勝手な正義感や狭い価値観を振りかざして日本を壊そうとするテロなのだ!!
ならば日本の未来を背負うワシが……このような卑劣なテロに屈する訳にはいかん!!」
いつの時代も正義の旗を掲げるのは少人数で……多くの有象無象共がその旗を折ってきたではないか!!
正義も愛国心も……ワシにある!!
このワシこそが……日本の救世主だ!!
肩書きを失おうとも……ワシには誰よりも優れた血がある。
残ったわずかな命を全て……いずれ生まれ出でる子供たちに託すのだ!!
ワシの汚名は子供達がいずれ晴らしてくれる!!
そしてワシの名は……日本を未来を救った救世主として歴史に刻まれるのだ!!
「よし……やってやる!!」
ワシは身を奮い立たせ……もう1度立ち上がる決意を固めた。
世間の愚か者共の声など無視すれば良い……。
ワシは……己の義務を果たす!!
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それ以降……ワシは苗床達を家に招いては種を注ぐ毎日を繰り返した。
理事長でなくなった分、妊活に費やす時間も増えた。
苗床達は旦那に見捨てられ傷心していたらしく……その傷を埋めるかのように……ワシに身をゆだねた。
特に千鶴は大河に裏切られたショックが大きかったようで……毎日のようにワシの元へと通っていた。
そのかいあってか……何人かの苗床に妊娠の兆候が見えてきた。
絶望に彩られたワシの人生に……光が差し込んできたのだ!!
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ワシの子作り人生が軌道に乗り始めたある日……。
ワシは千鶴が倒れたと聞いて病院に赴いた。
「おじいちゃん……」
病室に入ると……ベッドで横になっていた千鶴と目があった。
目にはクマができており……顔色も青白く見える。
「倒れたと聞いたが……何かあったのか?」
「おじいちゃん……あのね?
私……癌になったちゃったみたい……子宮の……」
「なっ何!? 癌だと!?」
唐突に千鶴の口から出た言葉に……ワシは腰を抜かしそうになった。
「うん……。
手術すれば治るらしいけど……子宮を全摘出しないといけないんだって……」
「そっそれは……子供が生めなくなるということか?」
「そうなんだ……。
子供を生めなくなるのは嫌だけど……自分の命には変えられない。
だからおじいちゃん……手術費用とか入院費とか出してくれない?」
なんてことだ……。
子供が生めなくなるとは……そんなものもはや女ではない。
千鶴はワシの優秀な血を色濃く受け継いだ苗床だ……体の相性も他の苗床より良い。
それを失うというのはあまりに惜しい……。
ならば……選択は1つだ。
「千鶴……股を開け」
「……えっ?
おじいちゃん……今なんて?」
「股を開けと言ったんだ。
子作りをするぞ?」
「なっ何を言っているの?
私……癌なんだよ?」
「だからこそだ……。
子供がまだ生める内にもう1人仕込んでやる」
「じょっ冗談はやめてよ……。
手術しないと私……死ぬかもしれないんだよ?
そんなときに子作りなんて……できる訳ないでしょ!?」
「千鶴……お前の義務はワシと優秀な子供を作ることだ。
お前がワシの子供を生むことが……日本の未来に繋がるのだ!
そのために……命を懸けるのは当然であろう?」
日本人が日本に尽くす……当たり前のことだ。
まして千鶴は道種家の人間……命を捧げてでも日本の礎となるのが誉というものだ。
「ほ……本気で言ってるの?
おじいちゃんは私の命より子作りの方が大切なの?」
「つまらんことを聞く暇があるのなら……さっさと股を開かんか!!」
「そん……な……」
煮え切らん千鶴を強引に起こし……ワシはその場で子作りを始めた。
病室は個室でワシと千鶴以外誰もいないし、病室を訪ねて来る人間などほとんどいないので気兼ねする必要はない。
それにも関わず……千鶴は声1つ出さん。
死が間近に迫ったことで思考が定まらんのやもしれんが……これでは少々盛り上がりに欠ける。
だがこれが千鶴との最後の子作りになるやもしれんからな……存分に楽しませてもらおう!!
次話は千鶴視点です。
熊次郎視点はこれで終わらせるつもりだったのですが、ちょっと気が変わって千鶴視点に一旦移ります。




