エセイオスの影
カエサルたちのレスボス島攻防は終わった。
未来を見つめて少しの休みを得る
ジグルドから珍しく怒られた。
「お願いですから行き先は必ず誰かに伝えてください。」
最初は笑いながら謝ったカエサルだったがジグルドが本当にカエサルを心配していることもわかり、ダインやジジも本気で怒っていたので、真剣に謝った。
自分は身体も頑丈だし、剣で遅れをとるようなこともまずないと思っていたが、あまりジグルドやダインたちに心配をかけさせるわけにもいかない、と思った。
エフェソスの街を眺めながら過ごした夜はカエサルに素敵な体験をもたらしたが、心配する人が多いことも改めて心に刻み込まれた。
それでも、気持ちをすぐに切り替えて朝ごはんを美味しく頂いたカエサルは今いる仲間を集めて、今後の役割を説明した。
ジグルドたち以外は、全員アシア属州のミヌチウスの部下なので、その中でそれぞれの役割で頑張っていく必要があるのだ。
まず、カエサル自身の役割は来年から教育執行官となる。
人を育てることはあまり経験がないが、自分が剣や戦い、規律等を教えることは楽しそうだと思っていた。退役したベテラン兵士に代わって入った新人たちを教育するというものだ。ダイン、ジジとあわせてエセイオスがカエサルの補佐になり、アルバニス、バラッシ、ハナルは現場の教育係になった。
役割が別れたのは、小隊長代理から小隊長になったルチャ。ルチャの隊にはサイズとザハがいたが、アージョとセンデロは別の隊になる。
そして、ロボスも小隊長になった。これはミティリーニと裏での連携がうまかったことを評価されてのことで、ここにアージョとサイズがきたのだ。
アージョとセンデロはルチャと別の隊になったが、いつも一緒にいた仲間が少し別行動を取ることは良いことだとおもった。
全体の話をしたあと、カエサルはダインやジジ、アルバニス、バラッシ、ハナルと話をした。
小隊に所属のルチャたちには、細かくいうことはないが一緒にレスボス島攻略に関われたことは楽しかった。
ここからは自分たちで道を切り開いていこう、と話をした。
ルチャは小さく頭を下げて、皆それにならう。
カエサルも、これで会えなくなるわけではないからな、と言い再びここで集まって時々は話をしようと言う。
ルチャも笑顔になり、そうですね、と言った。
それからカエサルはエセイオスと話をしようと声をかけ二人でジグルド邸を出ていった。
夕方近くになって近くの居酒屋にいき、葡萄酒を煽りながら飲む。
カエサルはエセイオスと美味しそうに飲んでいた。
ひととき二人で食べ、飲むことを楽しんだあと、カエサルはエセイオスの汚れ気味の顔をじっとみて、
「エセイオス。お前は、スッラから指示を受けている諜報員か」と聞く。
酒を手にしながら、エセイオスは笑いながら答えた。
「そんなわけないでしょう。なんで突然そんなことを聞くんです?」
「ちょっと情報を集めるのがうまい兵士にしては抜きん出ている感じがするからさ。」
「俺がスッラの諜報員だったらどうするんですか?」
「特にどうもしないさ。お前が私のためにいろいろなところで動いてくれているのは知っているからな。
だから少し確認をしておきたかっただけだ。」
「そうですか。」
と言って下を向く。
少しの間があく。
カエサルを見ずにエセイオスは口を開く。
「俺はもともと逃亡奴隷なんですけどね。というのを聞いたのは8歳のころだったかなあ。そのころ育ててくれていた恩人が言っただけだから本当かはわからない。ただその人がローマの街の裏で動いていた
いわゆる裏稼業の切れ者だったんですよね。」
話を切り、カエサルを伺う。
カエサルは頷きながら続けるように促す。
「だから、8歳から俺は裏稼業の新人デビューして、子どもなのをいいことに、街の影で情報収集をして回ったんです。イタリア半島のいたるところにいきました。それからギリシアや小アジア、イスパニアもアフリカもかじる程度ですが行ったんですね。」
カエサルが驚くのと羨望の眼差しでエセイオスをみる。
「そんなにあちこちをいっているなんてうらやましい!もしかしたらヘラクレスの柱とかアレクサンドリアも見ているのか?」
主人である人の好奇心の高さに苦笑いしながら、エセイオスは答えた。
「ヘラクレスの柱は知りませんが、アレクサンドリアは一度行ってますね。船でも結構な距離を移動しましたよ。もちろん街にいることがほとんどだから道とか細かなことはわかりませんがね。」
それから、一息ついて話を続けた。
「10年裏の世界にいると、大抵の仲間は大きな力を持つか死に絶えるか、って感じですが、俺は大きな力も持たずに生き延びたんですよね。ただ、裏稼業の恩人は同盟市戦争の時に巻き込まれて死にやがりましたがね。同盟市戦争でも、ローマとローマと敵対した同盟市の間で激しい情報戦はあり、そこで俺は少し知られるようになったんですね。でも恩人も死に根無し草になった俺に声をかけてきたのはスッラの部下ですよ。そのスッラの部下の話で、ローマの動向を掴んだり、必要な情報を得る仕事をするようになったんですね。」
「なるほど。」
カエサルはそこまでの経緯を理解しながら言った。
「だから今は根無し草ではないです。ミヌチウス提督の指示で、カエサルの部下になった。ただそれだけです。もちろんミヌチウス提督は俺のことを知っていますが、特に何か指示が出ているわけじゃないですね。カエサルはどうだ、と聞かれたことはありますが。」
エセイオスの話を聞きながら頷いた。
エセイオスは続ける。
「ミヌチウス提督に何を報告したか気になりますか?」
カエサルは、笑いながら
「いや、それはエセイオスがどう感じたかを提督に話すことなので私は気にしない。」
その回答を聞いてエセイオスは笑った。
「カエサル、あなたのことは気に入っています。だから可能な範囲で助けようと思っています。それでも俺がスッラ側に雇われている情報屋っていうと明日から使うのは辞めますか?」
そう疑問を出したエセイオスに対して、カエサルは、
「いや、お前の身の上話を効かせてくれてありがとう。私の仲間に入ったメンバーは個性は強いと思うがお前はその中でも特殊な感じがしたから聞いてみたかっただけだ。気に入ってもらえたのは評価されたと思えばうれしいし、今後もよろしく。」
と握手を求める。
それから笑って言う。
「私に見込みがあるかぎりはお前は私をうらぎらない、そう思っていて良いかな?」
エセイオスは、頷いた。
「わかった。あとは誰にも言わないが、何か気になることがあれば教えてくれ。私たちは単なる貧乏貴族とそのご一行であるが、いつまでもその立場でいるわけにはいかないからな。」
エセイオスは頷きながら、小声で言った。
「ふう、器がでかいのかお人よしなのか分からないな。」
さらに2人は飲み、食べてから店を後にした。
2人で酔っぱらいながらジグルド邸に向っていると、ジジが向ってきた。
「カエサル、すみません、ちょっとイレイア商会にやっかいなお客さまが来られていて、急いで帰って
相談に乗ってもらえますか?」
カエサルは
「分かった。すぐにいく。」と言った。
エセイオスはそのカエサルの後ろ姿を見ながらゆっくり歩く。
「優しいなあ。」と呟いた。
エセイオスの過去があきらかになったが特に何も気にしないことに決めたカエサル。
そこへ来た問題とは?




