エフェソスへの帰還
ミティリーニの攻略を終えて戦後処理がはじまった。
はじめての戦争を経験したカエサルたちはエフェソスへ向かう。
風を切って青い澄み切った海を眺めて痩身の若者は仲間たちとともにビティニアの軍船に乗ってエフェソスに向かっていた。
その頭には、仲間を助けるために活躍した英雄を称えるオリーブの葉でできた「市民冠」と呼ばれる栄誉ある冠を頭にのせていた。
ダインがカエサルの横にきて、葉っぱを頭に載せていると邪魔じゃないですか?
と聞いたときには、ため息をついてダインをたしなるように、言い聞かせるように言った。
「これは、兵士たちと私の絆であり、私だけでなくお前たちが今回攻略戦で得た勲章だぞ!
少なくとも、エフェソスに戻るまでは、いや、イレイアに見せるまではこのままにしておくんだ。」
ルチャが素早く軽口をたたく。
「大将は、イレイアの嬢ちゃんに見せて誉められたいんだってさ。」
すかさず、エセイオスがからかいの口笛を吹いた。
周りにいた仲間たちが笑い、あわせてヒューヒュー、と口笛を吹き瘦身の若者をからかった。
カエサルは仲間たちにからかわれながらも、笑いながら
「こういう勲章を見せたい、そして褒めてほしいと思う女がいるっていいだろう。」と言い返した。
言い返せなかった若者が多数の中、ザハが笑顔で
「そういうことをさらっと言えるカエサルはかっこいいですね。」と真顔で言う。
まっすぐな目でカエサルを見つめる。
さすがにカエサルが恥ずかしくなり、ありがとと言い、話をそらした。
「さて、冠はエフェソスの街や今回参加しなかった幕僚たちに私の存在をアピールするためにも少しの間
付けておくよ。もちろん、イレイアにもみせるがね。」
皆が笑顔になるのを無視して話を続ける。
「それ以外では帰ったら少し落ち着くだろう。皆もありがとう。ゆっくり休んだらそれぞれが新しい
仕事を始めることになるだろう。細かくはエフェソスに帰ってからになる。帰って一度身内だけで宴会を開こう。ジグルドたちも心配しているはずだしな。」
「ジグルドたち?」
「絶対にジグルドはついでだな。」
「イレイアさんとジグルド」いろんな声が響き渡る。
「俺の妹も忘れるな!」とはルチャの意見。
それからは皆でわいわいとお互いにからかいあった。皆が大きなことを成したという充実感を味わっていた。
カエサルはそれなりに騒ぎに参加していたがそのうち、一人外れて海を見ていた。
ミヌチウスに呼び出され話をしたことを思い出す。
ミヌチウスはカエサルとトルバイに改めて今回のレスボス島攻略でビティニア側であったことの全貌を聞いた。
ビティニアの戦艦がほぼ壊滅していたこと。その影でポントスが動いていた可能性があること。
レスボス島攻略に時間はかけられないため、ビティニア軍を動かしポントスから船を奪い、
ローマの旗を掲げてレスボス島に来たこと。
ビティニアは今回の兵士と艦船の供出に対して、以下のことを求めていることも伝えた。
1、ポントスの船をローマに売り渡す。
2、代金として、ローマの船をビティニアに与える。
2が実行されることでビティニアは海軍を再編し、黒海の安全を守るために動く。
ミヌチウスは頭を抱ながら、笑っていた。
ポントス王が水面下でレスボス島に影響をあたえたり、他にも画策をしていることは情報として持っていた。
しかし、ビティニアの戦艦を沈めるようなことをしていたとは知らなかった。
そんなポントスの影響を抑えるためにポントスの船に打撃を与えたことは悪いことではなかった。
さらにいえば、ローマがビティニアに手を貸して、ビティニアの海軍が安定すればポントスも悪いことを
しずらくなるだろう。
ローマもビティニアも国家の安全保障上損をすることはないのだ。
トルバイにローマ軍の船と交換することを約束しながら、ミヌチウスは考えた。
まだ20歳にもならない若者がこの策略を考えたのだ。
優しそうな綺麗な顔と優雅な動作からは信じられないくらいに豪胆なことをしてきた。
勲章を与えたことに間違いはないと思ったが、もっと仕事を任せてみたいとも思った。
スッラが恐れただけのことはある、そう思った。
もちろん、才能ある若者を育てるのは自分たちの役目でもある。
カエサルは少なくともミヌチウスに感謝してくれているはずだし、ローマへの反逆を考えていたり、スッラの体制に強く反逆しているようには感じない。
この若者の可能性を広げつつ、ローマに帰りゆくゆくは国家の中枢に入っていけるように支援をしたい。
そう思いながら、カエサルに新しい仕事として、退役する兵士に変わってくる新兵の教官をやるように
依頼した。
カエサルはわかりました、と言って受けた。
ただし、そのまま単純に下がらず、どのようなことを新兵に求めますか、と聞いてきたのだった。
ミヌチウスは、
「鍛え抜かれた肉体とローマの不屈の精神を受け継ぎ時には上官に助言もできるがやることをやり抜く兵士たちだ。」
カエサルが聞き返した。
「それは退役する直前の兵士のような感じですね。まずは鍛え抜かれた肉体を得ることができるように
してみます。」
そんなやりとりをしながら、その後もミヌチウスは、トルバイとカエサルと話をした。
基本的にはローマとビティニアの話であるからミヌチウスとトルバイのやりとりではあったが、国家同士のやりとりの場を2人はカエサルの勉強のためにも参加させてくれたのだった。
国家同士のやり取りが決まった後で、カエサルが求めてきた小隊長代理のルチャはそのまま小隊長として就任することになった。
カエサルは新しい仕事にも喜んだが代役の小隊長、ルチャがそのままで留まれることを非常に喜んだ。
もうひとつ、カエサルは自分が預かった特徴的な兵士たち、アルバニス、ザハ、ロホス、バラッシ、
ハナル、エセイオスについての処遇も相談した。
今後の方向性が大きな枠組みから小さな話まで決まると、正式に軍団のなかでミヌチウスとトルバイは互いのサポートを称えあった。
それからローマの兵士は2大隊がレスボス島に残りあとは、ビティニアの海兵たちとともにエフェソスに
赴き、勝利を祝い、ローマとビティニアの有効を祝い、船の受け渡しを行うことが決まった。
今はそのために、もろもろの手続きのためにカエサルたちもまとめてエフェソスに向かっているのだった。
振り返って改めて大変だったが良い経験ができたと思う。
そう思ったころにエフェソスに到着した。
エフェソスへ帰還したカエサルたち。
そこで待ち受けているのは何か?
ゆっくり休む間もないままにカエサルに来る新たな問題は何か?




