カエサルの旅立ち
独裁官スッラとの対談を終えた。
ほっとしながらカエサルの想いとは?
そして、予想しない要求をしてきたスッラにたいしてカエサルはどのように答えるのか?
痩身の若者は、日が傾いてきたカピトリーノの丘を下って行きながら、喧噪に包まれた下町スブッラにある我が家に向かい、晴れ晴れとした気分で歩いていた。
その足取りが軽そうな野を見て、二人の従者と思しき人が駆け寄ってきた。
そのうち一方の体格の良い若者が話しかけた。
「カエサル、スッラはどうだった。大丈夫なんだろう?」
噂の冷酷非常な独裁官のことが気になったらしい。
カエサルは笑顔で、
「そうなんだよ。聞いてくれ、キロ。さすがに冷酷な独裁官様はすごい雰囲気を持っていた。だけど、始めは饒舌にしゃべるわけでもなかったが部屋に入ると、圧力を感じてきた。、だけど、噂で聞いていた、冷静で「氷」のように冷たいというよりは、自分の想いに対してすごく熱い男、という感じだったな。」
カエサルの感想を聞いたキロと呼ばれた体格の良い若者は、すぐに尋ねた。
「なるほど、独裁官様の人となりはわかった。そこはお前にまかせるよ。」
そう言ってカエサルの肩をたたき、早く次の話に移るように促す。
「死罪にならずにすみんだろうな?」
カエサルは、笑顔で言った。
「そうだね。とりあえず逃れることができたよ。」
その一言を聞いてキロと呼ばれた若者とその横にいた若者はほっとため息をついて笑顔になる。
「良かった良かった。」とほっとしたところで、カエサルが次の言葉を重ねる。
「でも、これからを考えると逃げる準備もしておかないとね。」
「え?話も終わって今までどおりに生活するだけなんじゃないのか?」
驚くキロ。
隣のもう一人の少し茶色めの肌をして髪を伸ばして三つ編みにまとめた寡黙な感じの若者も驚く顔をした。二人はせっかく、話合いがうまくいって安心して生活ができるようになると思っていたのに。問題があったのかと不安を覚えて、カエサルに同時に疑問をなげかける。
「話自体は収まった。私を死刑にするということもない。だけど、ちょっと話をしたから終わりというふうに簡単には行かないかもしれない。万が一は考えておいても良いかな。今日の昼にコルネリウス組のメンバーをのしてしまったしね。そこは話にならなかったけど、スッラのほうに報告があがる可能性もある。そうすると急転直下、死罪となる可能性もあるだろう。。
カエサルは少しだけ眉間にしわを寄せてみせた。
キロと呼ばれた、体格の良い少年も同じく、難しい表情になった。
「昼に会ったコルネリウス組をぼこぼこにした件かな。確か、ビッグロとジャリスとかいうクズたちだったな。あいつらなんて単なる犯罪者だけど、コルネリウス組ってことが難しくしているな。」
大量にコルネリウス組として、スッラの手先となって市民を圧迫するために採用された奴隷や犯罪者の集団のなかには、本当に駄目なやつもいるし、じつは運悪く戦争に巻き込まれてしまった人たちもいる。
昼にカエサルたちと争った二人は単なる無法者で、身体にも恵まれていたため、弱い人たちをいじめてきたことを強みにしていた者たちだった。しかも頭と口も回り、腕力もある分、コルネリウス組のなかでも、普通より上の扱いをうけていそうだったのだ。
それは、今日の昼前の出来事だった。
ビッグロとジャリスという偉そうな若者たちが他の二人に付き従う風な仲間を引き連れて、カエサルが服を買う店に対して、自分たちにもトーガを準備しろ、と言っていたのだった。
それもスッラ様の命令を受けたから無料で準備しろ、と言っている。
ちょうどそこに通りがかりのカエサルが大声でどなる声を聞いて、最寄りの店の一つに寄ってみたところだった。
カエサルにとってはこだわりのあったトーガに付けるブローチや染色のための染物、そしてその道具など、店にある大切なものをばらばらにしたり、壊そうとするのを見て、つい腹が立ってしまった。カエサルはキロたちを連れて、困っている店の主人の傍にいき、最初は客として割って入った。
そして、次にちょっとした口論で二人をくだし、襲い掛かってきたから躱して、子どもの時から鍛え上げた武術で相手をぶちのめしてしまったのだった。
カエサルは痩身であるが、それは鍛えられた細さであり、常に家庭教師に戦いを習って来ていたし、キロたちはそれに付き合わされていたのだ。ただ力任せの暴力に屈するようなことはなかった。
とはいえ、結構なダメージを与えたカエサルだったが、相手も良い体格で身体もきたえられているのだろう。完全に意識を失うような醜態まではさらさず、店の床に押し付けられてしまい、床に顔を押し付けられながら、周囲の人たちの目がきになったのか、隙を見て逃げるように去って行った。
遠くに逃げ去りながら、カエサルたちをにらみつける力は強かった。
カエサルとキロは思い出しながら、不愉快な奴らを最後に痛快な攻撃を加えたことを思い出し、笑いあう。
もちろんキロもその場にいて、ビッグロだかジャリスだかの片割れを思い切り叩きのめした。
「そうなのか、コルネリウス組のクズたちだけでなく、クズの親玉にもダメージを与えるのはさすがだな」と笑いながら、キロは皮肉を言いながらカエサルの顔を改めてのぞいて、笑う。
豪快に笑いながら少しすっきりした感じの二人だったが、カエサルはそこからさらに続けた。
「カエサルとその一行はローマを出て逃亡しました、というような事も考えられるなあ。」
同じくらいに歩いていたキロともう一人の大柄で寡黙な感じの若者が止まり、二人は驚愕の表情で声をあげる。
もう一人の若者は名前をダインと言った。
「ええ??」
カエサルは笑顔で言う。
「そうすると、アテネか、ロードス島か、私としては、アレキサンドリアとかも行きたいよね。」
キロが頭を抱えるように言う。
「カエサルとその一行ってのは当然、俺たちが入っているんだよな?」
カエサルはしれっと答える。
「もちろん。一番の仲間たちだからね。」
一瞬間を置いて
「嫌だったかい。世界を見て回るチャンスが来たんだよ。。」
キロは、三つ編みに髪をまとめた寡黙な仲間に向かって
「悪くねえよ。ローマの外を旅してみたいとは思う。だがな。」
そう言ってもう一人の付き人に意見を聞く。
ダイン、お前どう思うよ?」
ダインは、言葉につまり、「うう、ああ」と言っている。いつものことだ。
キロは、ダインの肩を叩きながら、同じ気持ちだと、首をたてにふる。そして、そのまま自分で話をしだした。
「世界のさまざまな都市に行くってのは興味がないわけじゃねえ。だがさすがに今出てくる話とは思わなかったぜ。想定外だったからな。お前の考えの幅に文句を言っても仕方ない。俺たちの予想の斜め上をいくのはいつものことだ。」
と笑いながら言う。そして、続ける。
「だが、アウレリア様、ユリア姉様がどんな顔するかなあ。」
と言って、キロはにやりとした。唯一と言ってよいカエサルの急所を突いてみたのだ。
カエサルもそれを言われると少し焦る。
「やばい。ユリア姉は絶対に怒るな。そこは考えていなかった。まっさきに考えておくべきだった。」
うーん、と頭をかかえる。
キロがさらにつついた。
「世界に羽ばたく前に、姉から独り立ちしようぜ、カエサル。」と笑っていう。
三人はお互いに考え事をし、時にカエサルのアイデアについて意見を言い合いながら、家についた。
カエサルたちが無事に家に帰るころには日も沈みかけ、家では食事がはじまっていた。
今日は精神的に疲れて腹が減っていたことを思い出したカエサルは焦ってすぐに食事に加わろとうする。
すると、カエサルは母のアウレリアにつかまった。
「食事の後はだめですか、母さん?」
「食事よりも重要なことよ。カエサル。」
腹が減っていたが、母さんは食事の前に奥の部屋でスッラとの会談について話をしようということらしい。
キロとダインもカエサルに続こうとするがアウレリアが、大丈夫、ご飯を先にたべていなさい、というのでカエサルのフォローをすることはあきらめた。
飼いなられた猫のようになっている主人を見て、がんばれ、と心の底で応援しながら、食事を先に取ることにした。
カエサルの家は名門貴族としては非常に質素なのだが、それでも最小限必要なものはそろっていた。小さな中庭もあるし、そこの先に応接室もある。
応接室に向かったアウレリアとカエサルの先にはカエサルより数年年上の、いつもしっかりしている姉のユリアがいらいらしながら待っていることを見つけた。
たぶん、二人で今後のことを考えていたのだろう。
カエサルは、二人の前にすわり、スッラとの会談の報告をする。
二人はカエサルからの報告を聴きながら頷いていた。
それから今後どうしていくべきか話し合う。スッラとの会談が無事終わって帰ることを認められたのは良いことだった。だが、アウレリアの父からの連絡によると、カエサルが「死のリストから名前を消されるか予断を許さない状況だったようだ。そこまでの情報を仕入れて、二人はカエサルに疑問を出す。
「何か失礼がことを言ったのではないの?」
「スッラが行動を決めきれないのは何らかの問題があるのでしょう。でもそのあいだをこのまま何も言わずに終わらせるはずはないから、一度ほとぼりが冷めるまで、カエサルはローマから出て、別荘か他の親族の家などにいったほうが良いという話になった。
さらに、市内でコルネリウス組の荒くれ者たちともめた事も正直に説明した。母と姉はその行動自体は評価し、カエサルが懇意にしているお店に今後実害がないように誰か見回りをさせるようにするという話になった。
そして、カエサルの置かれた状況はより厳しい可能性があることを認識した。一時的にイタリア半島から出るほうが良いという話になった。
カエサル自身は、スッラに睨まれている状態でローマに居続けるよりも、ローマの外に学びを深めるためにいくことをすでに考えていた。だから、本当のところは奴隷も含めた家族全員と食事をし、この刺激的なできごとを面白おかしくつたえたかったのだ。
だが、それは許されそうにないことを感じていた。
夕食は、こんがりと焼きあがった鳥の肉と温かみのあるパン、そして、野菜がしっかりと入ったスープに、乾燥させたイチジクの実もあり、いつものおかずに家族の関係者や奴隷が楽しく過ごしてるだろう。そんな時に応接室で話なんて運が悪いと思っていた。
そう思っていると、母のアウレリアが、いつもカエサルに従っているキロとダインの二人と、最近奴隷として買い取ったジジを呼んだ。
ジジは小さく焼けた肌をして小さいが顔立ちがはっきりとした少年だった。
彼は、東方からきた交易商人の子供だったが、ギリシャあたりで商人同士の争いでつかまった際に一緒に奴隷にされされたそうだ。それがスッラ派の交易商人が買い取ってローマに連れてきたのを見て、ローマの子供達にはない知識を持った子だとして母が知り合いの奴隷商から勧められて手に入れたものだった。
まだカエサルとは挨拶をする程度だったが、ここにきてジジが呼ばれたのは、カエサルとともに行けということだろう。
アウレリアが3人を呼んで話をしようとしたことはカエサルの予想のとおりだった。
カエサルと、キロとダイン、ジジはローマを抜けて一度身を隠すこと。ちょっと落ち着ける距離の都市に行ったら、誰か使いをもどして、家とカエサルの情報を共有すること。そして、状況がより厳しい場合は、アゼリア海を抜けてギリシャか、マルセイユを超えてヒスパニアのほうにいくほうが良い。そのあたりも情報をやりとりして、1年ほどを目指して外遊することを話した。
すでに、ある程度このスブッラの家からカエサルを出したほうが良いと考えていたアウレリアとユリアの準備は早かった。そして、カエサルは夕食に未練を残しつつ、パンなどだけを懐に入れて、日がくれる前に準備をした。
キロとダイン、ジジはカエサルと違ってすでに腹いっぱい食事をしていた。カエサルの言葉もあったので、キロとダインはいつも以上に腹いっぱいに食べて満足していた。
全員がアウレリアの指示に従って準備にとりかかっているところに、招かざる客が来訪してきた。
夕暮れのなかで現れたのはスッラの使者だった。
ユリア姉がその対応をしようと要件をうかがうと、使者は厳しい面持ちで、
「ガイウス・ユリウス・カエサルに独裁官スッラの名前で命じる。カエサルは妻コルネリアと別れ、代わりに、スッラの縁戚であるコルネリウス・ソフィアと結婚をするように。」
と要件を簡潔に伝えると、ユリア姉は顔面蒼白になり、頭を下げた。そして、
「使者様、ご意向は承りました。本人に伝え、改めて使者にて返事をいたします。」
と言いその場を終わらせようとした。そうすると使者が、
「先ほどまでスッラ様の公邸で話をしていて、もういないとはどういうことでしょう?
私も子供の使いではありませんから、伝えて去るだけではできません。もし、あなたがおっしゃるとおり、ちょっとした外出なら、ここで待たせていただき、スッラ様の意向を直接伝えさせていただきます。」
きまずい雰囲気ではあったが、無理に追い返すわけにもいかず、キロやダインは静かに準備を行う。そして、あとはいつもと同じような行動を心がけておいた。
カエサル自身が対応したほうが良いと、母のアウレリアとカエサルは話をする。そして裏口から出て表口から、さも今帰ってきた風にカエサルが家に戻ってきた。
使者が真っ先にカエサルを見つけてかけよる。
「独裁官スッラ様の使者だ。ガイウス・ユリウス・カエサルだな。お前にスッラ様より伝言がある。」
カエサルは、うなずき、先を促すようにしぐさをする。
「ガイウス・ユリウス・カエサルに独裁官スッラの名前で命じる。カエサルは妻コルネリアと今月中に別れること。そうすれば、過去の間違いを償ったと判断する。さらにローマの歴史ある貴族の一員として引き続き生活していくために、スッラ様の縁戚であるコルネリウス・ソフィアとの結婚をするようにとのご命令だ。」
向上をつたえ、使者は、相手が「はい」と言うのを待った。
少しの間をおいて、カエサルが口を開いた。
「使者様、ご意向は伺いました。ただ、私はキンナの娘コルネリアと共にあることをユピテル神に誓った身です。ローマの全能の独裁官様の命令は聞くべきだと思いますが、ユピテル神に誓った誓約である結婚を破ることはできません。」
使者も、アウレリアもユリアも使者の声を聞いて、遠目から話を聴いていたコルネリアも含めて周りで全員が固まった。
アウレリアやユリア、コルネリア思ったことは同じで、この結婚自体が前の執政官キンナによる政略結婚であったので、すでにキンナがスッラ派によって殺されている以上、スッラの意向を無視してまで守る結婚ではないと思った。
実はこのとき、コルネリアのお腹のなかには子供がいた。ただ、荒波にもまれるよりも、別れたあとで安全に育てれば、問題なかったのである。そのため、母のアウレリアも含めて、大事なのはカエサルが狙われないことのみを考えていた。
カエサルとコルネリアが別れることは致し方ないと考えていて、スッラとの間に波風をたてずに、カエサルを外遊の旅に出させようとしていたのである。
使者も、その答えは想像をしていなかったらしく言葉を失っていた。
ただ一人、カエサルだけは自分の意思をかえずにいた。
使者は、巷で噂されるトーガをおしゃれに着ることだけが有名な若者があまりにも世間知らずでいることを感じ、年長者が若者を諭すように言った。
「ユリウス・カエサル。私はお前が憎くて言っているのではない。お前の結婚は裏切者のキンナによる政略結婚であったと聞いている。だからそんな結婚を大事にして、スッラ様の機嫌を損ねる必要はあるまい。ただキンナの娘と離縁してしまえばいいだけのことだ。」
それに対してカエサルは即答した。
「使者様の心遣い感謝いたします。またスッラ様のご意向も理解できます。とはいえ、カエサルの妻が誰であるかを決めるのはカエサルただ一人です。キンナが決めたからカエサルは結婚したと思われるのであれば、それは違っています。キンナが勧めて、カエサルがコルネリアなら我が妻にふさわしいと感じたから結婚しているのです。お心遣いには感謝いたしますが、ユピテル神に誓った結婚を簡単に破り捨てるようなことはできません。」
と言って頭を下げた。
使者は、「よくぞ申し上げた。お前の心意気が世の中で通用するか試してみるが良い。」と言って若者を見る。
「どうぞ、遠慮せずスッラ様にお伝えください。」
と言ってすました顔で使者に帰ることを促した。
使者は捨て台詞のように、
「スッラ様の意向を無視すると、ローマどころか、イタリア中にお前の住む場所はないからな!」
と叫んで去って行った。
ユリア姉がカエサルの横にきて、耳を引っ張る。
「あんたバカなの?かっこいいこといったけど、わざわざスッラを怒らすようなことしてどうすんのよ?残された私たちはどうなるとおもってるの?」
カエサルと、旅を共にする予定の3人以外の全員が同じことを感じていた。
そこへアウレリアが割ってはいった。右手に、震えているコルネリアがいる。
「よく言いました。ガイウス。だけどそれによって私たちも厳しい立場にさらされます。それでも、コルネリアが一番難しい立場にいるなかで、よくコルネリアを見捨てずにいてくれたのは母としてうれしいわ。もちろんカエサル家自体としては今後は大変になりますけどね。」
アウレリアは本心から息子をほめたたえた。そして現実を見据えてため息まじりに続ける。
「私たちは大丈夫。私の実家のコッタ家もあるし、家長が外出中の家に何かしようということもないでしょう。早くガイウスが家に帰ってこれることを待ち望んでいますが、あなたは世界を歩いてもっと視野を広げてきなさい。今までに学んだことを元に、ローマの外の世界を知ってくるのです。」
カエサルは、母を抱擁しながら言った。
「母上、ありがとうございます。ガイウスはこれから外遊に行ってまいります。」
キロの声がひびく。
「カエサル、どの方向に行くんだ?」
カエサルは、笑顔で答えた。
「とりあえず、東かな。ローマを出て、街道を進んでアドリア海へ。アドリア海から船に乗ってアテネやロードス島にもいきたいし、アレキサンドリアもある。東方の豊かな国々のほうをみてみたいんだ。細かな行き場所は足を運びながら考えよう。」
その話にキロとダインは納得してうなずく。
ジジも興味深そうに見ている。
アウレリアが、
「スッラはアテネへの留学経験があるから、知己も多い思うし、アテネもスッラ派に入っていると思うわ。だから、アテネやロードスではなくて、同じ方向でも、マケドニアや小アジアのほうに行って、属州で軍務についてみたり、そのまま旅をして旅の商人の手伝いをしながら、商売を中心にした見分を広げるのもいいかもしれないわね。家庭教師だったアルサスを頼ってアレキサンドリアに行っていくのもいいかもしれないわ。」
アウレリアの言葉にカエサルは、さまざまな可能性を感じたのだろう。その茶色い目が好奇心で大きく広がる。そして笑顔になって、キロとダイン、それからジジを見て、心配そうな姉を見た。
姉は現実的に言った。
「まずはローマを脱出することね。いくら可能性があっても、コルネリウス組につかまってスッラの元に連行されてしまったら意味がないでしょ?」
カエサルたちは、そうだ、と思い再び準備にとりかかった。
そして、カエサルとアウレリアは、家の奴隷たち数人にマントのように布をかぶって、アッピア街道に沿って、隣町までいくように指示をした。これは偽物だった。
コルネリウス組や他の組織がカエサルを監視したりする場合にごまかせるように偽物をおくりだしたのだ。
本命であるカエサルとキロ、ダインとジジは準備を整えて追っ手が来ないうちにと、アウレリアとユリア、コルネリアに別れをつげて、外にでる。
日は落ちつつあった。それでもコルネリウス組は追跡してくるに違いない。
ここからは命をかけた逃避行になるだろう。
ついにローマを出たユリウス・カエサル。
激怒するスッラが差し向けるコルネリウス組。
若きカエサルが向かう先には何があるのか?