ジグルド邸での宴
エフェソスに帰ってきたカエサルたち。
役割を果たした仲間たちと、仕事の話をするはずが宴になってしまった・・・。
はじめは小さな借家だったが、商売が順調に回りだしたので、ジグルドは大きな家を借りることに決めた。
運よく、属州総督の直属の部下である、とカエサルが保証人として名乗りをあげてくれたおかげで格安で借りることができたのだ。そして商売自体も、属州府が紙を買い上げてくれるので安定して高い利益を得ることができたため、資金面、信用面でもよい方向に動いていたのだ。
そのイレイア商会の新拠点である大きな邸宅でレスボス島にいったメンバーが集まっていた。
そこで、レスボス島に行ってきた成果を皆が話そうと盛り上がる。最初はお互いに集めた情報の整理を行っていたのだが、それが自慢話と笑いの時間になり、蒸留水を飲んでいたが葡萄酒や地元のプラム酒が加わり、そこに珍味であるカラスミが出てウーゾも出されてから、そのまま宴に突入してしまったのだ。
ジグルドは皆の話を聞いて今後の商売のタネにしたかった。だが秘匿情報もあると思い、周囲も気にして店員たち人が入ってこないように店をしっかりと閉めて鍵をかけておくように指示した。
その後は、レスボス島に行っていたメンバーの体験談、勇猛な話が飛び出して宴はどんどん盛り上がっていく。ジグルドの店で手伝いを開始したラナやその他の従業員も手伝い、食事を準備してそのまま宴はどんどん華やかになっていった。
身分的に、宴を経験したことがなかった者も始めは静かにしていたが、なんとなく慣れてきてからはよく話し、美味しい料理をいただき、葡萄酒をあおった。
カエサルはお互いに仲良くなった者たちを身ながら、自分で皆の周りを聞いてまわる。
最初にダインとジジに労いをかけてから、反対面にいたルチャのところに行き話をする。
「怪我はどうだ?」
酔っぱらっていたルチャは
「怪我なんかしてねえよ」と返す。それを見ていた妹が兄の頭を叩く。
「うるせえなあ。もう治ったのにいつまでも怪我のことを心配しやがって」と言いつつ腹を見せる。
そこはまだ刺された辺りを包帯で巻かれてあり、見えない。
「まだ包帯が取れない状態か・・・。」
と厳しそうな顔をするカエサル。
「そうですね。まだ安静にしていないといけません。」とラナも乗ってきた。
「うるせえな、もう大丈夫なんだよ。その証拠にレスボス島でも普通に活動していだろう!」
と口調を強めるルチャに対して、
「いや、無理したんだろう。」
「そうです、兄は大きなケガの経験が少ないからわからないのかもしれません。」と2人に言われて、降参の意味で両手を上げたルチャは、はいはい、俺が悪かったです、まだ治っていないから、無茶はやめておきます。と言った。
そこでやっとラナも、本当に無茶は駄目よ、と心配を隠さずに言って兄に抱き着く。
そこでカエサルも話を切り替えて、
「ルチャの状態はわかった。偵察と仲間を連れてきてくれてありがとう。」
ルチャもこれ以上ケガの話を伸ばしても仕方ないので止めて酔いを覚ましながら自分がきになっていたことを聞く。
「カエサル、俺たち兵士としていれてもらえるのか?」と真面目な顔で聞く。
カエサルは首を横にふる。それを見ていた妹のラナは悲しい気持ちになって後ろを向こうとしてところで
カエサルの声が続いた。
「ルチャの連れてきた3人も、もう立派なローマ軍の兵士だ。見事最初の任務をやりとげて、小隊長から誉められたところだ。彼らを連れてきて、今回の任務でもケガを押して頑張ったルチャも兵士であり、皆をひっぱってきたことも含めて報奨を得ても良いと思っている。」
と言ってニヤリと笑って続ける。
「どうしても嫌なら兵士を辞められるが、どうかな?」
ルチャはぶんぶんと首を左右に振ってそれを否定して、嬉しそうな顔をして笑顔になる。
「ありがとう、カエサル。ケガが治ったらもっと働かせてくれ」と言って立ち上がる。
そしてカエサルとラナを見て「仲間たちにも言ってやらないとな。」と言ってすぐにその場を去った。
その場に残されたカエサルにラナは礼を言った。
「カエサル、兄と仲間にたいして良くしてもらい本当にありがとうございます。私もイレイア商会で楽しく働かせていただき本当にありがたいです。」
と可愛い顔に笑顔を見せて言った。
「ふふ、ラナみたいな可愛い子に礼を言われるのは嬉しいね。でも、ラナもルチャも本当に力になってくれてありがたいよ。助かっている。ルチャのケガはもともと私のせいなのだが早く腹が完治すると良いな。」と言った。
カエサルは幼少時から元剣闘士の先生に鍛えられてきたため、剣技にはかなりの自信があり、いろいろな人間と相対したことがあるが、ルチャに勝てたのは本当にスレスレのところだった。ルチャが全うな先生もいないのに才能だけでそこまでできたとしたらすごいと思った。ルチャはキロに近い最上位の個人の戦闘力があり、それ以上に仲間を統率できる良い兵士のまとめ役になるだろうと思っているのだ。
「まだまど、2人にも働いてもらうからよろしくね。」
と言ってさらに2人はいくつかの雑談をしていたら、そこにイレイアが近づいてきた。
今日のイレイアは金色の髪の毛が艶やかな光沢を持ち、まだ幼さを残している顔には、白い肌が大きな澄んだ緑色の目は麗しさを美しく浮かばせていた。
イレイアはカエサルに近づくまでうつむき気味だったが、近くによってきてカエサルを見つめる姿に、カエサルはかわいらしさと愛おしさを感じていた。
少し前の時間、イレイアもこの邸宅に戻ってきたときは綺麗な髪も身体もぼろぼろ、ボサボサになってしまっていた。ラナにも、どうなされたんですか?、驚かれ、嘆かれてから他の働いている者にも手伝ってもらい綺麗にしてきた。
「イレイア様の綺麗な姿をあそこまで汚すなんて、男たちの見る目の無さときたら。」
「あんなにぼろぼろになって、もうカエサルの命令でも兵士たちとまじわるべきではありません。」などと自分たちの綺麗で可憐な少女を守るために愚痴を聞かされてることになった。
やっと自分の姿が整って、イレイアはラナや他の女性たちに礼を言って宴会に参加する。
綺麗になったので、品良くみんなの間を軽く挨拶して回っていたら、酔っぱらった兵士たちに少し粘られてカエサルの側に来るのに時間がかかってしまっていた。
すると愛しのカエサルはルチャの妹で可愛いラナと楽しそうに話をしている。
イレイアの頬は紅潮し、ラナにも今まで持ったことがない嫉妬を感じつつも、カエサルに近づいてきたのだった。
「イレイア、いつも以上に綺麗だね。」
と近づく途中でカエサルに言われると、うれしい気持ちをごまかすために、口をすぼめて
「カエサル、お褒めいただきありがとうございます。」
と本当は嬉しいのに少し無表情な言い返しを行う。
「うん、綺麗という簡単な言葉では纏められないな。イレイアが持っている品をうまく引き出すように今日は髪を美しくまとめてあって、少しだけ化粧も入れているのかな。いつも以上に大人な感じがするよ。」
と素直に褒め続けるカエサルに、イレイアはこれ以上カエサルに顔をまじまじと見られることをはずかしく感じ、抱き着きたい気持ちでいっぱいになっていた。
以前ダインが言っていたのはこれだ、と思ったのだ。
カエサルは関わる人に強い興味を持って、人を素直に褒め、自分の感想を伝えることで、天然の人ったらしなんだ、と言っていたことを思い出した。思い出したイレイアはカエサルをいじめたくて反撃ののろしを上げる。
「カエサル、お褒めいただきありがとう。ラナや他の者にもその歯の浮くような言葉を言っているのですか?」
というとカエサルは、「みんなひとり一人の良さは認めているけど、今日のイレイアは特別だと思うよ。」
「”今日”じゃないイレイアは全然駄目なのですか?」
とさらにいじわるな疑問をなげかけるイレイア。
「毎日の小さな変化でも驚かされる時はたくさんあるけど、今日は日々の変化なんて小さなものではないくらい素敵ってことだよ。」
「ありがとう。素直に喜ばせてもらいますね。」
ここでやっとイレイアも折れて素直な気持ちになった。そもそもラナと楽しそうにしていたカエサルに意地悪をちょっとだけしたかっただけなのだ。
それから、カエサルに褒められた姿を堪能してもらおうと、カエサルの前でゆっくりと回って見せると、カエサルが喜びの声をあげ、イレイアに抱き着いてきた。
イレイアも満足の笑みを浮かべてカエサルに抱き着く。
それから2人は口づけを躱して、そのまま熱く抱き合ったままでゆっくりと流れる時間を楽しんだ。
周りの者は遠慮して他の場所で談話を楽しんでいた。
そこへ遠征に参加できなかったペノが急ぎ足で心配そうに入ってきて
「カエサル!レスボス島はいかがでしたか?」
と仕事の雰囲気で入ってきて全員の酔いを覚ました。
カエサルはイレイアと抱き合っているのを止める。真面目な情報武官を見て笑う。
「ペノ、久しぶりだね。今、レスボス島の話を整理していたところなんだよ。」
ペノは酔っ払いしか周りにいないことを目にしながら、
「とても整理をしているようには見えませんが、ご無事で何よりです。」
そして、周りを見ながら続けた。
「私からも相談ごとがありますが、せっかくの宴会で皆酔っているようなので、明日でよいので少しお時間をください。」
カエサルは相変わらずイレイアを再び抱きよせて、
「分かった。明日の朝ミヌチウス提督のところに行ったあとで寄るよ。」という。
ペノも自分が場違いになっていることを強く意識して、カエサルとイレイア、他のメンバーにも謝罪をしながら去っていこうとしたが、せっかくなので宴に加わることになり、ひさしぶりに旅をした仲間との雑談を楽しんだり、新しいカエサルの部下になる兵士たちと話をしたりした。
ジグルドは、ロボスやエセイオス、ハナルと話をしていた。彼らはさまざまな街を見た経験があり、ジグルドにとっても興味深い話をもっていたし、彼らからすると遠いマルセイユから来て若いながらに商会をたちあげているジグルドへの興味が強かったのだろう。
そして今回の遠征で、お互いによりよく知りたいと思っていたところへ話をゆっくりする機会がめぐってきたのだ。ジグルドは今回の行商を赤字覚悟で実施したのだが、どうも利益が出せそうだということをカエサルとペノにも合間をみて報告した。
カエサルが必要であれば、イレイア商会はお金を用立てできる、という意味を示したのだが、カエサルからは利益は自分でしっかり持っておき、ひきつづきメリサの商会と繋がっておくようにだけ言われた。
ジグルドは自分が商人頭をさせてもらっていること、そしてカエサルのバックアップを受けていることに本当に感謝をもっと伝えたかったのだが、ずっとイレイアがカエサルにくっついているので、頭を下げるくらいしかできずにいた。
その分、利益をだして商会を大きくしてカエサルが必要な時に手助けができるくらいになっていこう。
そうジグルドは心の中で思った。
だが、ダインとジジにその気持ちを語ると、ダインとジジは、カエサルの金の借り方は半端ないからあまりカエサルを支えよう、などは考えないほうがいいと助言された。
そこでいくら程度の浪費があるのかを聞くと、ジグルドの利益よりさらに桁が違ったため、ジグルドは、支えになれるように頑張ります、とだけ言って引き下がった。
イレイアは人ったらしのカエサルに男も女も今はこれ以上多くの敵が近寄らないようにカエサルに抱き着いたままだったのだ。
カエサルの新しい仲間たちは、今回の速攻、痛快、商人に変装しての潜入、そして、楽しみを持つ自由時間もあった偵察行を絶賛した。自由時間での自分の余暇について、多くの仲間がエフェソスに帰ってきて知り合いに自慢をして回りたかったようだったが、偵察行の意味がなくなるため、今回の件は家族にも内密にしておくように言われて残念がった。
そのぶん、このメンバーで話をすることは許されたため、より酒が進み、楽しい時間を過ごすことができた。
最初は輪の外にいたバラッシたちだが、ロボスが話をふり、バラッシが腕相撲の賭けで勝ったことを伝えると、身振りをまじえることで全員が楽しく腕相撲の賭けの状況を理解ができて、バラッシもいつもにない笑顔を見せて楽しそうだった。そこから同じくラテン語がまだ苦手だったハナルも自分が見てきたものを身振り手振りで話をすることが面白かったこともあり、全員が仲間として理解しあえたようだった。
仲間として改めて互いを知り合う時間をつくれた。
カエサルの仲間のメンバーは、その後も酒を中心にした宴は続き、少しずつ夜がふけていくなかで仲間たちはひとりひとりジグルドの館のどこかかまたは自分たちの家に帰って眠りについた。
カエサルはイレイアにずっと抱き着かれていたが、そんなに気にすることもなく、美味しく葡萄酒を飲んでいた。
ときどき乾杯をしに来る仲間たちと笑いあって、目を細める。
葡萄酒はローマに届く最高品種に比べると、そのあたりで流通しているもののため荒く味は劣っているはずだったがやはり仲間たちと何かを成してから飲む飲み物が最高だと思った。
明日にはミヌチウスに報告をしなければ、と思いながら、カエサルも疲れた身体を休めるために夜が更け始める頃には、ベッドに入り込んですぐに寝入った。
レスボス島、ミティリーニへの偵察をミヌチウスに報告に行くカエサル。
次に待ち構えているのは何か?




