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思春期のユリウス・カエサル  作者: くにひろお
アシアのカエサル

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ミティリーニを後に

ミティリーニの花街のほうでイレイアが捕まっていると話があった。

カエサルはイレイアを助け出すことができるのか?

その商会の長の名前はメリサと言った。

可愛らしい名前とは裏腹に強そうな体格、そして力強い大きな青い目と、戦いにいつでも参加できるような激しい上にはねあげた髪が印象的だった。服は上はシャツ、下は薄いズボンとスカートを半分にしたような布を巻きつけて軽やかさを演出してる。そんな彼女の周りを屈強そうな部下たちが数人守るように立っていた。


カエサルはロボスはローマやエフェソスでも珍しい女性が取り仕切る商会に2人で乗りこんでいた。ロボスは女商会長とその護衛たちの圧力に押されてすごく緊張しているようだったが、カエサルは平然としていた。


「イレイアさんをお連れしろ。」

一言目から、メリサの対応はカエサルの想定を覆す。

すぐにメリサの部下たちのうちの2人がイレイアを連れてきた。

イレイアは特にケガをさせられた雰囲気もなく、「カエサル!」と一言だけ言ってカエサルの元に来て抱き着く。カエサルはやさしく抱きかかえて袖にイレイアを侍らせた。


体格の良い女商会長は、笑いながら言った。

「賭けに負けちゃったなあ。朝までに迎えが来るのはさすがに予想外だったよ、若いの。あんたの彼女に失礼なことはしていないし、あんたの部下だろうけど周りを伺っていた者たちにも手は出していないよ。」

とメリサはにやりと笑ってカエサルに向かって言った。


「メリサ、私の大切な仲間を丁寧に扱っていただきありがとう。」

とカエサルも笑顔を見せながら、それでも心底からの礼を丁寧に言った。

頭を下げたカエサルの動きを見てメリサはうなずいた。

カエサルは続けていう。

「あなたの配下をこちらが倒してしまい申し訳ない。」と言った。

カエサルがメリサの商会に入ろうとしたところで、メリサの部下たちが入るのを邪魔しようとしたので、カエサルが反撃をして2人ほど倒してしまったのだ。

すると、メリサは豪快に笑いながら

「護衛が私の命令を聞かずにあんたを通そうとしなかったんだから気にしなさんな。ついでにいうと私とイレイアの賭けに乗って自分たちも賭けをしていたからだ。あんたを自分たちの事情で止めるのは卑怯ってもんさ。そいつらは私の命令を破ったんだからあんたが気にする必要もないさね。」

そう言って鼻で自分の配下たちのことを笑った。

カエサルは女商会長の竹を割ったようなすっきりした性格に好感を覚えたが、ロボスは女商会長の圧に驚いているようだった。イレイアはカエサルの横にきてほっとしたのか手を握り締めて話の行方を追っていた。

「それではこの件はイレイアの勝ちとさせてもらいましょう。そのうえで、私もイレイアもまだまだ未熟者です。あなたのような熟練の商売人とせっかく知己となれる機会を生かしたい。よければ2人で少し話ができないだろうか?」

そこまで切り出した。女商会長は痩身の若者を改めてみて、少し表情を変えて

「度胸あるね、あんた。女を返すだけじゃ足りないってわけ?」といった。

「私と話をすることで損はありませんよ。」圧力をかけてきた女商会長を軽くかわす。

「そうかもね。分かった。私もあんたと話をしたいと思ったところだよ。これも何かの縁だな。ちょいとお前たち、私たちは3階の私の部屋で話をするから聞き耳を立てるやつがいないか見張ってな。」

と言い、カエサルに「ついてきな。」と言った。

イレイアとロボスは残されるのを不安そうにしていたが女商会長が飲み物と軽い食べ物を準備させて女性の側仕えも連れてきて2人はおとなしく待つことになった。


カエサルは1人で最上階のメリサの部屋にいく。

通常、上階は住みにくいため敬遠されるのだが、メリサは全体が見渡せる場所で、誰からも少し隔離されるこの場所が好きらしい。

カエサルはメリサと2人きりになり、話をしようとする。

機先を制してメリサが言った。

「あんた、ただの商人じゃないな。ローマの密偵かい?」

カエサルは特に表情も変えずに

「まだ、思春期(アドレケンス)ですよ、私は。なぜそんな突拍子もないことを思うんです?」

と聞き返す。

「新興の商会がミティリーニに商売に来た。その中に妙に肝っ玉の据わった大胆不敵な若者が1人、世間知らずの少女が1人。なんか怪しいじゃないかい。」

「目立ってしまったというなら怪しいでしょう。ですが密偵なら目立たないのでは?」と挑発するように聞き返した。

「そりゃそうだ。このレスボス島は、ローマの属州総督から目を付けられているからね。特に最近市長の周りがきな臭いんだよ。だから気にしすぎているだけかもしれないね。」と一旦話を引かせた。

「で・・・。あんたの名前は?」

「ガイウス・ユリウス・カエサル。」

「ふふ、強気だな、ガイウス。ユリウス・カエサルってのはローマの高官で何人かいたはずだがあんたの親族かい?」

「そうですね。」

カエサルは自分の血筋が良い、と認めたも同然だった。そしてローマの高官の息子であるとしたら密偵以上に問題になりそうでもあった。

「高官の息子がこんなところで油を売っていていいのかい?」

「安全を常に確保しようとしていたら、世界は見て回れないでしょう。」

「いいじゃないか、その考え。気に入ったよ。あんたのように肝っ玉が座った若者はそうそういないよ。もっと無謀で猪突なやつらばかりさ。ところで高官の息子ってことはローマに報告をする予定でレスボス島へ来ているのかい?」


カエサルはじっとメリサを見る。

「ローマの貴族の子供は、伝手を伝って属州やギリシャ、ロードス島、アレクサンドリアに学びを深めに行くことが多いんです。私はミヌチウスの旗下にいれてもらっています。」

メリサは、カエサルをまっすぐに見ながら言った。

「ミヌチウスの部下か。なるほどね。私はもともと今の市長のエディプスのやり方が好きじゃないから、あんたの上司とも仲良くやれるかもしれないね。エディプスはローマに平伏していながら、ローマを弱らせることに力を注いでいるからね。自分の上が気に入らないから裏で他国と繋がるようなやつは信じられない。もし、ローマがミティリーニを公平に扱ってくれるんだったら、そっちを応援するだろうよ。」

とカエサルを試してきた。

カエサルは表情もかえずに言った。

「今いったことがあなたがローマをだまそうとしていないことを証明することはできますか?」

とメリサの言葉を突き詰めるような質問をした。

「あはは、そうだな。思っているだけで何も確約はないもんな。しかし、そこについては信じてくれ、としかいいようがないよカエサル。」


カエサルは少しだけほほえみながら、メリサを見る。

「分かりました。私のできる範囲でミヌチウス提督とローマ軍に伝えておきましょう。それ以上のことは約束できません。」

メリサは、「ああ、それで十分だ」と言った。


ところで、メリサはカエサルを見て少し軽い気持ちを装って、真剣な口調で言った。

「カエサル、すでに見たかも知れないが、エディプスは何らかの東方からの宗教の影響なのか、女同士、男同士での恋を不浄なものとして重罪に扱っているんだが、知っているか?」

「ええ、イレイアを探しに西の街道に向かって重罪の犯罪者が捉えられている建物を発見しました。」

カエサルの回答にメリサは頷いた。


「ローマでは、女同士や男同士の恋人はどう扱われるんだ?」とメリサが聞いた。

「ローマでは恋愛は個人の自由です。男同士や女同士だからと特にとがめられることはないでしょう。ただ、男性が男性を好きになること自体は軟弱なので、保守的なローマに住む人たちからは素晴らしいこととはされないでしょう。」と言った。

「それだけ?」と聞き返すメリサ。

「それだけです。同性同士の恋を否定する法律はありません。」

メリサは頷いた。そしてさらに質問をする。

「カエサル、あんた自身はどう思う?」

カエサルもメリサの目を見ながら真剣に応える。

「個人の自由ですね。」

「それだけ?」とまた同じ言葉を吐くメリサ。

そうです、と言いながら、補足を付け加えてみた。

「私の男友達が、男が好きだったら、私は彼の個性を尊重します。男が好きと聞いて彼との友達付き合いを変えることはしません。彼がもし私を好きになったら、彼を友達として好きだが、私は女性が好きだから、女性を好きになるように彼を好きにはなれないと話すでしょう。そこは彼自身の自由は尊重しますが、私自身の自由があるからです。」

そう例を出しながら言った最後に、

「私は、個人の好みや考えは自由であるべきだと考えています。」

メリサはその話を聞いて喜びの表情を浮かべた。

「あんたは本当に単純で開明的だな。カエサル。それは個人主義者には人気だろうが、保守的な人からは嫌われそうだな。」

と自分の意見を言った。

「嫌われることを恐れていてなにもできないし、嫌われることを許容しすぎることも良くないでしょう。」

2人はお互いを見て笑いあう。


メリサは、最後に、と言って

「あんたと、あんたの所属する商会と常に連絡をとりあう良い方法はないか?」

と言う質問に対してカエサルは、

「交易を拡大して随時行えば、連絡をとりあうことはできるでしょう。そのための良い人材を私たちは抱えています。1名くらい担当者を置きましょう。」

と言う。

メリサは「ふふ、着想は大胆だが、出来立ての商会にちょっと顔が聞く程度にしては、自信を持ちすぎているな、ガイウス。」

一瞬、カエサルの顔が曇るが、メリサは気にせずに言う。

「まあいい、イレイア商会と、そこに介在してくれるあんたを信じよう。」

と笑ってカエサルに近寄り肩を叩きながら言った。

「ミティリーニは海の守りには長けているが、陸と海の挟撃できれば、エディプスに不満を持つ民衆がたちあがり落とすことが可能になるだろう。」

とささやく。

カエサルは、何も言わず頷いた。


それから2人は握手をして、全員が待っている1階に戻った。カエサルが戻ってくるのを待ち望んでいたロボスはほっとした。それから行く前よりも余裕のある感じのカエサルを見て笑顔になった。さらにいくつかの商売と今後のつながりについての取り決めを、イレイア、カエサル、ロボスで行ったが、ジグルドには最終的な確認を行い商会長の回答を待つことで一致した。


そしてさまざまな話合いをした結果、3人は明け方がちかくなってきた頃にメリサの館を後にした。

商談の成立を祝っていくつかのプレゼントをもらいはしたが、3人とも疲れ切っていたこと、ジグルドを完全に袖にしている反省も踏まえて、プレゼントはジグルドに渡して最終的な判断を彼にゆだねることにして、皆が待つ宿に向かった。


宿はそんなに遠くなかったため、疲れ切った3人も歩いていけたが、3人をフェナ商会、イレイア商会のメンバー全員が出迎えた。


さすがに多くの人に迷惑をかけたことをさとったイレイアは捜索に加わった仲間たちを呼びつける。疲れ切った顔の全員に見つめられて、恥ずかしい思いと自分の責任感に挟まれながらも

イレイアは話し出した。

「皆さん、私を探し回ってもらってありがとう。」

「皆さんに迷惑をかけるつもりはなかったの。ただ何か自分ができることを探しているうちに自分でできないことが見えたり、いれてもらえないところがあったり、と。」

皆は神妙に聞いている。

「そこでね。私は武術も習っていたから女娼にからかわれて苛立ちを隠せずに、打ちのめしてしまったの。今思うと私のほうが強いんだからもっと大人な対応をすべきだと思うわ。」

まだ少女の美しいがあどけない顔から大人の対応と出て反省の気持ちが伝わり皆が少し笑顔になった。

「その後も怖い商会のボスに捕まって、賭け事を強制的にさせられて、でも、それは勝つ自信があったからいいんです。」

話は支離滅裂になってきた。

「賭け事にも勝ってカエサルが助けにきてくれて、商会とも話がついて良かった。」

話は終わったかに見えた。

「そして帰ってきて気が付いたんです。私が見えない中でも皆さんが必死に私を探してくれたことを。遊びたい時間、休みたい時間をつぶしてまで探してくれてありがとう。そして申し訳ありませんでした。」

最初、たどたどしい感じで支離滅裂な感じになりかけていたイレイアの謝罪の言葉は皆の心に届いた。全員が魔法がかかったように納得させてしまった。


カエサルはその様子を見て、「イレイアすごいな。魔法みたいだ。」

と言うとイレイアは笑顔で、「そうね、心の底からの感謝は人の心を暖かくして魔法みたいに受け止めさせてくれるのよ。」

カエサルは笑顔で「素晴らしいな、今後は見習わせていただこう。」と言ってイレイアをぎゅっと抱きしめた。


カエサルとイレイアと仲間たちはそれから仕事がはじまるまでの束の間休みをとった。

ジグルドはカエサルとイレイアに呼ばれてイレイア商会が、メリサ商会と交易をしていくことができないか、との提案を受けて、了解をした。


大枠では了解して、実際には午後からメリサにあって詳細の話をすることになったのだ。ジグルド自身はカエサルとイレイアが言うのなら、Noはないと思っていたが、2人は自分が商会長として一本立ちしていくためにも自分の目で判断してほしい、と言われたので、そういった配慮を誇らしく思い、自分が商会長であるからこそ商売上の判断をカエサルたちに委ねないようになろうと心のそこで誓ったのだった。


その日の午前は全員がひいひい言いながら働いた。

イレイアも手伝える範囲で手伝ったし、皆のフォローをするため水を組んできてくばったりした。

苦しい午前中だったがなんとか積み荷を載せたメンバーは午後からは元気に遊びに行った。カエサル、イレイア、ジグルドは、ロボスとエセイオスを連れてメリサの元を訪れた。ロボスとエセイオスは嫌そうな顔をしたが、どうしてもと言われて全員がメリサとあって商談の内容をより具体的に詰めることにした。


最後に、カエサルとメリサの情報の行き来をするための担当者に、カエサルはロボスかエセイオスを推薦する。だがエセイオスが断ったため、最終的にはロボスがすることになった。

後日、カエサルからなぜ断った、と聞かれたエセイオスがは、「風来坊的な役割が好きで決められた役割をこなす自信がない。」と言った。正直だな、と簡単な感想を持った。、ジグルドがロボスを選んだのだった。


そんなこんなでレスボス島の情報と交易の足がかりを見つけることができたカエサルたちは午後の遅い時間にはメリサたちの商会のメンバーと夕食を取った。

またここでも風来坊を自認するエセイオスはいつの間にかいなくなっていたが。


ミティリーニの自慢の海産物を主とした料理を堪能したカエサルたちは自分たちの宿に戻る。夜の風がすずしく心地よかった。それから宿に帰り疲れた身体は横になったらすぐに眠りに落ちた。



翌朝、ぐっすり眠った一行は、ミティリーニの街を予定どおりに船で積み荷をいっぱいにして去る。

遠く城壁の上にある監視塔からは市長のエディプスが帆船が出る様を見て微笑んでいるかもしれない。


今は必要な情報を手に入れたとして去ろう。

また来るときのために多くの情報を得ることができたとカエサルも船がミティリーニの外壁の外に出て、

風に乗って快走する帆船の上で笑顔を浮かべた。


新しい知古を得たカエサルたち。

どたばたしたが得ることも多かったレスボス島への強行潜入はうまくいった。

次にカエサルを待つのは何か?

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