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思春期のユリウス・カエサル  作者: くにひろお
法治国家ローマ
135/142

裁判の終幕

ドラベッラの裁判で、証人でもあったウィルヘンの変節する

カエサルは身動きせず、ただウィルヘンを見ていた。

背後でざわつく聴衆たちがいるのが耳に届く。護民官たちだろう。

ウィルヘンとカエサルたちは、ドラベッラが謝罪をして、ある程度の損害賠償をしても妥協しない。

ドラベッラを徹底的に攻める。

そう決めていた。それをウィルヘンは破った返事をしたのだ。


その返事を受けた直後からホルタンスはウィルヘンを囲いこみに走った。

損害に対する賠償は法務官の指定にするとして、法務官を味方に引き入れる。

譲らなかった点はひとつ。ドラベッラ自身に属州統治に不十分であったことは認め、社会の会の模範となるように振る舞うため、一定量の賠償は行うが、それはドラベッラの部下たちがドラベッラの知らないところで行ったことであるため彼自身は無罪であるとした点であり、カエサルたちが容認できないポイントだった。


カエサルは、身じろぎすることもなく、喋りつづけるホルタンスを見ていた。

その様子を見た法務官は一人頷いて先に話を進めていった。


結局、証言者ウィルヘンがドラベッラに妥協するような意見を出したことでカエサルたちだけで法廷で闘い続けることはできなかった。

カエサルは法廷で再び負けたのだった。



カエサルは自分が立っていることができなくなり、できるだけ静かにその場に座る。

座って息を深く吸い、法廷を改めて見回す。

聴衆の多くは自分を支持してくれていた。

元老院議員も一定量が自分の行動に理解を示してくれていた。


前回は原告が仕組まれた犯罪を犯したことになり、原告側死亡のうえの敗訴という形になった。

今回は前回以上にしっかりと対策をしたうえで、証言する者を守り、味方も増やしていた。

それでも負けた。


何が自分に不足していたのだろうか。


裁判が終わり、護民官たちはカエサルの奮闘を讃えた。

エステバンはウィルヘンの変節を攻めて、マケドニアの人間は信頼できない、と厳しく罵った。

皆が慰めの声をかけてくれる。


ああ、私を気遣う仲間がたくさんいるのはうれしいことだ。

少し落ち着いてきて、その罵声に心は慰められた。

だが、弁護士で立とうとした自分が負けつづけた事をそのままにしてよいはずはなかった。


遠くから罵声が聞こえる。

「反逆者ユリウス・カエサルを逮捕しろ」

批判的な声だけが耳に正確に入ってきた。


元老院議員たちの多くはドラベッラにかけより、ホルタンスを褒めたたえていた。

ホルタンスは、相変わらず派手な動きをして周りの者たちから褒めたたえられるのを笑顔で受け止めている。


敗者であるカエサルの横に一人の議員が来た。

「ガイウス。お疲れ様だったな。あの小さなガイウスが法廷で元執政官を相手どる時が来るとは改めて時の流れの速さを感じるよ。」

そう言って挨拶を求めてきたのは、アウレリウス・コッタ。

カエサルの叔父で元老院議員でも主要な人材になりつつある男盛りだった。その傍には親友キロが侍っているのが見える。

コッタの登場で護民官たちはいったん距離を置く形になった。

コッタは少しだけカエサルと話をして、法務官のほうに挨拶に行く。


「呆けた顔になっているぜ。」とキロがカエサルを笑う。

「そんなに駄目だったかな?」カエサルはキロに素直に聞いた。

「いや、攻めどころは良かったんじゃないか。ホルタンスとも戦えていた。だが、まだ弁舌はホルタンスが上かもしれないな。あの小賢しい小芝居を好きな人たちが多いんだろうよ。」

「なるほどね。」

「あとは、ウィルへンがぶれたな。」声を絞ってキロが言った。

「そうだね。」

「本人の意思か誰かが唆したのかは確認しとけよ。お前の身内にいるのかもしれない。」

「ああ。」と言って真剣に頷くカエサル。

キロは周りをみて話を切り替えて普通の声に戻った。

「さて、ホルタンスであってもカエサルが勝てない相手ではないな。次はどうするんだよ?」

カエサルも普通の声で話す。

「2連敗だからな。弁護士でいくか他を考えるかってとこかな。」

「また決まったら教えてくれ。」

まだ座ったままのカエサルにキロはがっちりと抱きよってから、背中を叩いた。

カエサルは自然と自分が落ち着くのを感じながら、キロの身体をぎゅっと抱く。

「そろそろ放せ。俺は男と抱き合う趣味はねえ。」

「そうかい、それは残念。」

カエサルのいらずらっぽい言いぐさに安心をしたキロはほっとして距離をとる。

さらに少しの間二人だけで喋るとキロはカエサルに挨拶をしてコッタの後を追いかけていった。

入れ替わりでカエサルの周りに護民官たちが駆け寄ってきた。


結局カエサルの負けが確定して「世紀の対決だ」と護民官たちが煽った話題の裁判は終わった。しりすぼみに終わった裁判に聴衆も肩透かしを食らったような感じで終わった。


ドラベッラはホルテンスに抱き着いていたがそこに笑顔はなかった。

なんとか逃れ切ったが失ったものも多いはずだ。ドラベッラに追随する元老院議員は多く、カエサルの叔父アウレリウス・コッタもまた追随した。

ドラベッラは自分の家に歩みを進めながらコッタとも話をしていた。


長い裁判になると思われた裁判は途中で切れるように終わってしまい、まだ日も傾かないうちに次のことを考える時間ができたのだ。



ドラベッラを追い詰めた裁判は終わった。

再びカエサルは訴訟に失敗した。

これからどうしていくのだろうか。

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