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思春期のユリウス・カエサル  作者: くにひろお
法治国家ローマ
133/142

証人喚問

カエサルたちはドラベッラを追撃するために

証人を呼び出してさらなる攻勢をかける。

その日は澄み渡った晴れた日だった。

カエサルは出廷の時に前回と違い、2人の親子を連れていた。

ウィルヘンとその息子オルヘンだった。ウィルヘンはかなり老けた感じで歩くのにも支えるための杖が必要な状態だった。それを支えながらカエサルと同じ年くらいのオルヘンが一緒に歩く。

二人は、アッティクスにお願いして全くカエサルと関わらなそうな場所にかくまってもらっていたのだ。


これはハリオスの時に訴訟人が狙われたことを受けて切り札でもある二人を隠していた。

また、出廷する際は、ヌスパたちに依頼して護衛をさせて安全を確保させた。


証人が現れたことで、ドラベッラの訴訟は新たな展開を迎える。

カエサルがウィルヘンとオルヘンに質問をして、ドラベッラが騎士階級に重複した地域の税収対象としたこと、その申し出を受合わなかったことを端的にまとめて事実として明らかにした。


事実が確認されたとして、陪審員として任命された元老院議員も苦々しい顔になっているなかで、ホルタンスは特に表情を変えることもなく静かに事実を聞いているだけだった。


事実であるとウィルヘン親子の証言が全て出たところで、ホルタンスはやっと立ち上がり反論をする。

「まずは、ウィルヘン、そしてオルヘンが属州にて非常に不遇な目にあったことに同情します。そしてカエサルの言う共和制ローマの信義に関わるようなミスがあったことも事実でしょう。とはいえ、細部において私が弁護をさせていただいているドラベッラを不当に扱うための細かな過ちがあるかもしれませんからね、事実確認は行わせていただきたいと思います。」


相変わらずホルタンスはよくしゃべりよく動いた。

ひとつひとつの事実確認においても、カエサルがホルタンスを脅威に感じたことがあった。

ひとつひとつの事実確認自体が裁判を遅らせようとしているのは明白だったが、あわせてホルタンスは証人の心証を非常に良くしているようだった。

ホルタンスはウィルヘンやオルヘンに同調すにひとつひとつの言葉に対して頷きをかえし、厳しい話については口を歪めて聞く。そのひとつひとつのしぐさに起訴したウィルヘンたちへの配慮もありつつ、事実確認をしっかりと行っているところだった。そこにホルタンスの芝居がかった喋り、動画が加わるのだから事実確認はそれでなくとも訴訟のなかで作業的な部分だったため、全員がホルタンス劇場に注目することになっていた。


カエサルは華美な話にあまり興味がもてなかった。それでもホルタンスがウィルヘンに質問をして、共感し同調しそのうえで疑問点をなげかける動きはウィルヘンの緊張した気持ちを和らげているという点で見習うべき点ではないか、とも思うようになる。

しかしその気持ちも最初のうちだけで、午前を通り越して昼食を挟んでさらに長時間にわたってホルタンスが事実確認と大げさな喋りと動きを続けたために、カエサルだけでなく、聴衆全体が疲れ切ってしまった。ホルタンスと質問を受けるウィルヘンだけがしっかりとしていて、カエサルも法務官もドラベッラもその他の聴衆は思考が鈍ってきてしまい、もうどっちでも良いから裁判を終わらせ眠りたいという気持ちになっていた。


それでもその日は事実確認で終了した。

ホルタンスは疲れはしていたが自分の役目を果たしたとばかりにウィルヘンに挨拶をしてから笑顔で法廷を去る。この日は事実確認だけで終わってしまい、訴訟事態を早くドラベッラの責とすることにはまったく至らなかった。


「それこそが奴の作戦なのです。」

冷えた葡萄酒を飲み、元気を回復した中年男のブラーリオが声を強く張り上げた。

メテイオの店の裏にふたたび護民官をそろえて、今日の裁判の進み具合などの確認、打合せをしていたところだ。全員が裁判を傍聴して今後の善後策を各自で考えながら話をする。

葡萄酒を片手にしてつまみを口にしながら自分の思考を整理していたカエサルの耳に、護民官たちの言い合いが耳に入る。

「やつはいつも自分のステージに皆を連れて行ってから、自分の持って行きたい結論にもっていくのです。そこがホルタンスのすごいところではあるんですがね。華美な芝居男め!」

そんなブラーリオの不満に対して

「しかし、証人の話も丁寧に聞いていたからな。そこについては我々も文句は言えないだろう。喋るのとあの芝居がかった身振りて手振りは恥ずかしくてできないけどな。」

とエステバンが笑いながら言った。陽気なエステバンはどうしても話を雑談で締めたがる。

「しかしやっかいだな。カエサル。」と昔からの友達であるメテイオがカエサルに振った。

カエサルは葡萄酒を一気に飲み干して、口をぬぐって言う。

「さすがに当代一と言われる弁護士だと思う。手ごわいと感じているよ。」

自分の気持ちを率直に言って、カエサルは不思議な気持ちにかられた。

苦戦しているのは事実。しかし、この言葉のやりとりを楽しんでいる自分がいることにも気が付いた。

「それと同時に当代一と言われる弁護士とも戦えているというのも感じているね。」

真顔から笑顔に戻ったカエサルを見てメテイオもほっとした感じになる。

いつも自分に自信を持っているこのひょろっとした痩身の貴族が元気が無いように見えたからだ。軽口が言えるようになっていれば大丈夫だろうと思った。


そんなメテイオの気持ちを察しカエサルは手を叩いて護民官たちの注目を集めた。

「皆さん協力ありがとうございます。今はホルタンスと我々の主張が並行している段階だ。今日の証人に話をしてもらって、明日の公判でドラベッラを追い詰めましょう。」

そうだ、という声があがる。全員が気持ちは一緒だった。

カエサルは仲間たちとともにやる気を見せて場を盛り上げる。

それでも心は落ち着いていなかった。

すでに証人の事実確認は済んでいる。ホルタンスの確認作業で思った以上の時間を使ってしまったが、それでも事実確認の段階で元老院議員たちの表情を見ていると、ドラベッラへの信頼が揺らいでいるのが見えた。あからさまにイヤな顔をしている良識派の議員がいるのも見えた。


結局その日は新しい作戦を出すこともできず、護民官たちと検討を讃え合ってカエサルたちは帰路についた。

ドラベッラの権威を失墜させることはできつつある。クラッススにはそう言っていいだろう。

後は自分自身のためにホルタンスに勝ちたい。自分自身のために。

改めてそう思いながら明日の裁判に向けて英気を養うことにした。


証人を使ってドラベッラの罪を確定させようとしたカエサルたちは

ホルタンスの事実確認という遅延策で立ち往生する。

それでも時間稼ぎは終わった。

次回こそ、追い詰める、という気持ちを新たにしたカエサルだった。

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