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思春期のユリウス・カエサル  作者: くにひろお
法治国家ローマ
129/142

束の間

護民官たちがバルザルリやドラベッラを訴えた訴訟で

カエサルたちは反転攻勢に出た。

痩身の若者は、上半身を裸にして身体を鍛えていた。

そこへ入ってきたのは久しぶりのカエサルのとも、キロだった。

「おっと失礼、身体を鍛えているのか?」

「ああ、もう終わるよ。そこにかけて待っていてくれ。」


カエサルのトレーニングが終わるのを見ながら、キロは言った。

「最近は裸で身体を鍛えているのか?」

「ああ、服にこだわるのもいいが、やはり鍛えた身体をさらしながらやるのも良いとおもっているんだ。」

「相変わらず見せたがりだなあ。まあそういう考え方もあるよな。」


カエサルが汗をぬぐい、その手伝いを従者が行うのを見ながらキロは言った。

「しかし、突然の呼び出しはびっくりしたぜ、何かあったのか?」

汗をぬぐいながら、カエサルも答える。

「ああ、ちょっとお互いの情報交換をしておきたくてね。」

「ふーん、まあいいや、じゃあひさびさにあったんだ、祝杯もかねて良いかな?」

「もちろん」


そういうとキロはカエサルの家を慣れた感じで歩いていろいろなものを準備しだした。

葡萄酒、チーズ、パン、果物、そして干した豚肉に野菜。綺麗に並べて皿に盛ってからカエサルのいる部屋に持ってきた。

そのころにはカエサルも身体をぬぐい終わって従者に下がっているように言う。


「あれジジとダインはいないのかい?」

「ダインが大けがをしたから、他の場所で静養させているんだ。ジジはダインについてもらっている。」

「なるほどね。ダインは大丈夫なのか?」心配そうな顔をして伺う。

「ああ、骨折はしていたが、医者の見立てだと、きれいに治るようだ。」

「それは良かった。そういえばゴルバンス邸で大立ち回りをやったり、訴えられたゴルバンスの訴訟を退けたりと大活躍だったらしいな。」

「ああ、なかなか刺激的な日々を送っているよ。バルザルリはやはり強かったからね。身体を常に緊張させておかないとな。」

「ふーん、そのためのトレーニングか。いいね。で、その自慢話を俺に聞かせるのかと思ったら違うのかい。」

「ああ、ドラベッラを追い詰めようとしているんだけど、コッタ叔父上はどう思っていそうか知りたいんだ。」

「だろうな。そのあたりはコッタ様とも深く話をしておいたぜ。」にやりと笑うキロ。

「まず、ドラベッラを追い詰めるのは構わない。彼の悪行をさらけ出すこともだ。今はドラベッラに近い位置にいるが、彼の傘下に入ったつもりはないし、今後も入らない。というのがコッタ様の意見だ。」

「なるほど。」

「さらに俺の私見も含めていうと、ドラベッラがバルザルリを切り捨てた形になったことが、元老院でも結構な反感があるようだ。」

「へえ、それはいいね。」

「ウィティアとか以前バルザルリと共に戦ったことがある重鎮が怒っているそうだ。」


カエサルと護民官たちが考えたバルザルリとドラベッラを狙った訴訟は、全てバルザルリが被る形になってすぐに決着がつく流れになった。

まず当人であるバルザルリが不在の2つの訴訟は当然バルザルリが不在で、問題を掘り返すこともなく、淡々と進められた。それから、護民官ホルクスが訴えた、スッラの決めた外交方針を翻して元老院の許可もなく勝手に管轄外の都市を攻めたことに対して、越権行為であることへの訴えのドラベッラの意見は、当時の部隊長であったバルザルリの独断であると切り捨て、自分は知らないとしたのだった。

そして、バルザルリの独断であろうとも部下を走らせたのは自分のせいであるとして、罪を償う準備はあるとした。

市民の一部、特にバルザルリを嫌う者たちからはドラベッラが潔いとして反応は悪くなかった。

その代わり、元老院の特に信義を大切にする者たちの信頼を失ったのだ。


カエサルはキロの説明に納得しながら呟いた。

キロはそれから、カエサルの近況を聞き、自分の状況を話した。

キロ自身はコッタの下でやり手の若手として活躍しているようだった。

「今回の件で、ドラベッラの権力が弱まれば、数年のうちにコッタ様が執政官に立候補して当選できる可能性もあるな。」

「へえ、そんなに勢いがでてきているんだ。」

「ああ、そうなればスッラ体制でできてしまった民衆の分断もある程度直す方策があるんだと。」

「それは楽しみだね。」


カエサル家が貴族としては貧乏であるが、古来から続く名家であること。カエサルの父や叔父も元老院議員であったことからカエサルがローマで一人前の年齢とされる30歳になる頃には自動的に元老院議員として選ばれても良かったのだ。しかし、スッラの改革で民衆派と目された人たちは役職についたり元老院議員になることができなくなってしまっている。

それをアウレリウス・コッタは止めさせようとしているのだ。

あと数年内でその法が改正されればカエサルは問題なく元老院に入ることができるだろう。


コッタは何もカエサルのためだけにスッラの改革の一部を是正しようとしていたのではなかった。

クラッススも同じようなことを考えていることはカエサルも聞かされていた。実際ローマ市内に未だにスッラが強行した改革による分断が続いており、民衆派と目された人々の恨みが漂っていたのだ。

このままいくとさらにひどいことになると思っているのは穏健派や騎士階級など市民に近い元老院議員の中にも多かった。


思った以上に早くスッラの作った体制は崩れていきそうだ。

時代が動くのを待つか、自分もできることをするか、を選べと言われればカエサルの答えは一つ。

「そろそろ私も動くとするか。」

「おっと、まだ何か手立てがあるのかい?」

「私自身がドラベッラを訴えるんだ。これでドラベッラを追い詰めよう。訴訟でドラベッラの権威を傷つけること。それから弁護士としての私の名をあげることができるだろう。」

「ああ、それはぜひやってくれ、そうするとコッタ様が執政官になりやすくなるだろう。だけどな、カエサル、たぶんお前がドラベッラを訴えたらコッタ様はドラベッラの擁護に回ると思うぞ。」

キロがカエサルを真剣な表情で見ながら言った。

カエサルは笑って、

「まあ、頭の固い叔父上なら、元老院の秩序を優先するだろうね。気にする必要はないさ。法の下で互いに争うのは悪いことじゃない。しかし叔父上まで打ちのめしてしまうことになったら悪いね。」

そうふざけて笑った。


それから2人は幾つかの話をする。市内の情勢から綺麗な女の人の話まで幅広く。

カエサルにしても最も雑談ができるキロとの久しぶりの会話は楽しかった。

キロはダインが治ったらまた来る、と言って去っていった。


ドラベッラはバルザルリを切り捨てた。

その代わり、ドラベッラの名声にも傷をつけることができた。

さらなる追撃をカエサルたちは行う。

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