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思春期のユリウス・カエサル  作者: くにひろお
法治国家ローマ
126/142

反撃準備

ブラーリオがカエサルに会いにきた。

先日のバルザルリの件と今後の反撃についての話し合いをしたいのだろう。

カエサルは昨日のバルザルリの件だろうと察知して自分で葡萄酒と何か軽い食べ物を準備する。

いつもはダインかジジか他の使用人にやってもらうのだが、自分でやるとなかなかうまくいかない。

そもそも任せきりにしていたために物をおいてあるところがわからないのだ。


カエサルが自分の事務所で部屋を漁っているカエサルを見て、ブラーリオはカエサルの事務所を訪れて違和感を覚えた。

「今日は、いつもカエサル殿の傍にいるダインとジジはいないんですね。」

「ええ、ダインは他の場所でバルザルリの襲撃に合ったのです。ジジにはその様子を見に行かせています。」

「他の誰か、あなたに付いていたほうがよいのではないでしょうか?」

「そうですね。私も今そう思っていたところです。他の使用人も今日はジジと一緒にダインのところに行かせているので、すみません、もう少しお待ちください。」


結局、葡萄酒と軽い食べ物は、置いてあったパンを切るだけにすることにした。

それでも包丁を探して皿に置くだけでブラーリオも手伝うことでなんとか準備できた。

「彼らに任せると本当に一瞬なんですけどね。自分でいざやると何もわからないですね。」そう言って苦笑いをするカエサル。

「ふふ、彼らの大切さをカエサル殿が知る機会になって良かったじゃないですか。」そう若者を諭すブラーリオを見てカエサルは頷き、戻ってきたらダインとジジ、それに他の使用人にも怪我の労いとともに日頃の感謝を伝えよう、そう思った。


やっと準備ができて、カエサルとブラーリオは笑い合ってからブラーリオが話始めた。

「私はもともと同盟市戦争のときにバルザルリと共に戦っていたことがあるんです。そのころは彼は期待されていた戦士でありすでに優秀な100人隊長だったんです。それが同盟市戦争での凄惨なローマの友邦殿殺し合いを経て、あいつはどんどん狂っていってしまった。」

「そうだったんですね。しかしバルザルリが手強い戦士というのはわかりました。」

「あいつと戦えるやつなんていないと思っていたのですがカエサル殿はすごいですね。」

ブラーリオはその後バルザルリがどのようにすごかったかを話し続ける。カエサルはそんな勇敢な男が戦いに狂ったようになったことが気になった。カエサルが対峙したバルザルリは戦い続けることが目標になっていたのだ。いつか自分が殺される日まで戦い続けることだけを考えた人生に寂しさを感じた。

それとともに昔の戦友でもあったバルザルリをブラーリオは尊敬もしていたし友と思っていたんだろう、という気持ちもかけめぐった。これ以上のバルザルリの暴走を防ぎたいのだろう。

中年の護民官の優しさを感じて少しだけ気持ちが慰められた。


ブラーリオは一通り話し終わったあと、決意したような眼でカエサルを見ながら言った。

「カエサル殿のクリエンテスの襲撃は全てバルザルリの息がかかった者たちでしょう。ドラベッラが指示したとしてもひどいことだ。昨日の襲撃を私は告発しようと思っています。市民を守る護民官としても当然のことだ。そしてこれはドラベッラを蹴落とす作戦でもなんでもないが、市民にはドラベッラが裏についていることは分かっているから彼の名声を引きずり落とすことにはなるでしょう。」

「そうですね、これを皮きりにドラベッラを切り崩しにかかることが可能になりますね。」

「ええ、本当は私自身でドラベッラを訴えたかったのですがどうもドラベッラまでは遠い。露払いをする役に徹しましょう。」

「分かりました。昨日の件でバルザルリを訴訟する理由ができた。ここを切り口にドラベッラにゆさぶりをかけて攻めましょう。」

「ええ、メテイオたちともともと話をしていた訴訟の手順を決めましょう。」


その後、葡萄酒で軽く酔った頭を落ち着かせてカエサルたちは、メテイオたちと訴訟でドラベッラを追い詰めるための算段の詳細を詰めるためにメテイオの家に向かった。


メテイオの家はローマで成功しているさまざまなものを扱っている商店だった。

昼になる頃にカエサルとブラーリオが酔いを覚ましながら歩いて街角を曲がってメテイオの店を見ると店には多くの人が集まって騒ぎになっていた。

しかも店で買い物をしているというよりも怒号が飛び交って喧嘩のようになっている。

あわててカエサルたちも店に駆け寄ると、見たことがあるバルザルリの部下たちが何人か後ろの方から声をあげていた。

騒ぎを先導していることを知ったカエサルは声を張り上げて言った。

「護民官ブラーリオだ。ブラーリオが来たぞ。」

その言葉を聞いた騒いでいた輩たちは静かになる。

ブラーリオは自分の役割をしっかりと理解しているようで、

「この騒ぎは何事だ。市民諸君。不満があっても店のなかで騒ぎすぎてはいけない。何があったのかこのブラーリオに話をしてみたまえ。」

ありきたりな言葉だった。

しかしその思いのこもった言葉で、バルザルリの部下とみられる者たちは少しずつ後ろに下がり、去っていった。騒ぎに便乗していた一般市民も落ち着いてきて次第に静かになっていった。


やっと落ち着いたメテイオの店にはいっていくと疲れ果てた顔のメテイオの奥さんと使用人たちがいた。

「ああ、ブラーリオ様、カエサル様、先ほどはありがとうございました。」

そういう奥さんに状況を聞くと、メテイオの店が大安売りをやっているといううわさで多くの民衆が押し寄せてきたらしい。押し寄せてきた民衆は大安売りがないと知って使用人たちに文句を言い出し騒ぎになったそうだ。

「メテイオが護民官になったことへの嫌がらせでしょうね。」そうブラーリオが言うと奥さんは顔を赤くして言った。

「こんな目に会うなんて。これからも起きるのであれば護民官を返上すべきなのかもしれません。」と泣きそうになりながら言った。

カエサルとブラーリオはメテイオの奥さんを慰めながら、メテイオは買い出しのために外出しているという。カエサルたちはこの争いを収めるための打合せをするとして奥さんの許可を得てメテイオの部屋で待つことにした。


「バルザルリの手の者が私のクリエンテスだけでなく、メテイオの店にも嫌がらせをしてきたとすると、私が護民官の皆さんと一緒になっていることを知られているということでしょう。」

カエサルは厳しい顔で言った。

ブラーリオも懸念した顔になる。

「そうですね。確かに一緒に話をしていたり歩いているところが多かったかもしれませんが、兵士たちを動かすのはかなりの確証がなければできないでしょうね。」

「ええ、私もそう思います。反撃の手を早めましょう。」

「え?」ブラーリオはカエサルの言葉が理解できなかった。

今はメテイオの店がバルザルリの標的にされていたのだ。他の場所も標的にされている可能性がある。自分の家も大丈夫か気になったのだ。

「できる限り早急に反撃をしましょう。」カエサルはそう言った。

「私のクリエンテスもこのメテイオの店も、もしかしたらあなたの家も嫌がらせがあるかもしれません。そして嫌がらせを抑えるのは難しいでしょう。だからこちらからも攻撃を加えるのです。」

ブラーリオはカエサルの意見を理解した。このまま守りに入っても嫌がらせは減らないだろう。嫌がらせが終わるのはカエサルや護民官があきらめたときだ。


ブラーリオはおかしくなったバルザルリを止め、ドラベッラにダメージを与えるためにもカエサルの言うとおり、すぐに攻めることに合意した。


お互いの意思を改めて確認したカエサルとブラーリオのところに汗まみれのメテイオが顔を紅潮させながら興奮した様相で入ってきた。

「カエサル、ブラーリオ、私の店に変な客がたくさんきたというじゃないか、どういうことだ?」

激しい剣幕だった。

カエサルたちはメテイオを少しなだめながらドラベッラとバルザルリの行動を説明した。

まだ興奮が収まらないメテイオは怒り心頭で早急に攻めることを決定した。


猶予をもたずに、反撃を上げる算段は決まった。

明日、ブラーリオがバルザルリを、市民への暴行としてゴルバンス邸での出来事を訴える。

翌々日にはドラベッラそしてバルザルリにも関わる部分をメテイオが訴える。訴える内容は、ドラベッラの属州統治の際に、反乱鎮圧のために元老院が認可した金の一部に使途不明金が発生していることについての追及する。

カエサルはエステバンとホルクスの2人の護民官に状況を共有して他にバルザルリやドラベッラを追い詰めるその他の訴訟の準備を急ぐ。


メテイオの店の使用人がエステバンとホルクスの元にいき、2人にもメテイオの店に集まってもらった。

5人は反撃の相談をしていくことで昼も過ぎてカエサルとブラーリオはメテイオの奥さんの家で打合せをしながら料理をいただく。


日が傾きかけた時間、メテイオの店にジジが駆け込んできた。

ジジは疲れ果てていた。ローマ市内を走り回ってカエサルを探したのだろう。

全員が労い、水を飲ませてからジジの言葉に耳を傾けた。

「本日、バルザルリがローマの治安維持巡回中に騎士階級であるゴルバンスに襲い掛かられ怪我を負ったとして訴えを起こしました。」

反撃をする前に、敵の攻撃が続いていることを示す訴訟だった。

舞台はローマの法廷に進んでいく。

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