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思春期のユリウス・カエサル  作者: くにひろお
法治国家ローマ
110/142

カエサル、見張られる

ドラベッラの命令を受けたヘスリ隊はカエサルの身辺を洗い、本人を見張ることにした。

カエサルの身に危険が迫る。

「あんな腰抜けの女ったらしをいつまで見張っていればいいんだ。今までで一番見張る価値がないやつだ。本当にハリオスを訴えて勝訴しかけたってんならそれは依頼人が良かっただけだろう。」

筋肉質の小柄な男が、どなりちらすように壁を蹴ってストレスを発散する。

ヘスリ隊の副隊長グズリだった。

仲間たちのいる前で隊長であるヘスリにいらだちを訴えていた。

文句を言われたヘスリは冷静な面持ちで静かに聞いていた。

ヘスリはまずいな、と思っていた。

ドラベッラの指示でユリウス・カエサルを見張るようになって2週間。

難しくはない仕事だった。相手は常にローマにいるし所在もわかりやすい。その相手を見張っているだけなのだが、交代で見張っている部下たちが常に不満を言ってくるのだ。

ヘスリは冷静に弟で血の気の多いグズリに聞く。

「今日はユリウス・カエサルは何をしていた。」

「朝から街女を連れて街を歩き女の家に入って出てこなくなった。昼からは別の女と街で買い物を楽しんで、そのあと元老院に入った騎士階級のえらいさんの奥さんと逢引だ。あいつは女と遊んでいる。俺はそれを見ているだけ。本当に胸糞悪い。」

「その間、何か従者たちが動いたりしていないか。」

「でっかいのとちいさい2人はいつもどおり、おべっか使って少し距離を置いている。何もない。」

「どこかで誰かと情報のやりとりをしていないか?」

「女たちがしていたらわからんが、2人は普通の街女だ。騎士階級のえらいさんも前に会っているから他の者が見張ったら怪しい動きはない。」

「そうか。ご苦労。」

「兄上、俺たちいつまであいつを見張るんだ?」

「当面ずっとだ。」

「そんなあ。もうやってられねえよ。」

そんなグズリの声に周りのメンバーも同調する。

全員ユリウス・カエサルを見張る理由を理解していた。

元老院議員のハリオスを起訴して、あと一歩でハリオスを敗訴させるところまで追い詰めた危険なやつだと。それはわかるがだからと言ってローマでも有名な女ったらしをひたすら追いかけるのは、ヘスリ隊のメンバーとしても面白いものではなかった。

しかも、見張りだしてから2週間。毎日女たちのところに行っているのだ。

敗訴して自分の訴訟人が殺されたのに、何の行動も起こさずにいたのである。

ヘスリ自身も予想を外した。

敗訴してからすぐにカエサルはハリオスやドラベッラに対して動きを見せると思っていたのだ。

しかし、カエサルは女たちの間を歩くことしかしなかったのである。


「ああ、俺たちはドラベッラ様の指示を守る必要がある。」

「もし、あいつがドラベッラ様やハリオスに対して悪いことを考えているんだったら、もう動いているんじゃないかな。思った以上の腰抜けなのかもしれない。その腰抜けを見ている俺たちはローマ中の女と逢引しているあいつの姿ばかり見ることになる。」

おちゃらけながらも真剣に言ってきたのは、グズリとともに副隊長を任せているハイラス。

「わからないぞ。俺たちの行動を察知してごまかしているだけかもしれない。」とヘスリ。

「いつも女の横でへらへらしているようにしかみえねえけどな。」とハイラスが薄ら笑いを浮かべた。

「何か、あいつを追い詰めてみてもいいんじゃないかな。ボス。女と一緒のところを襲ってみるとか。」

ヘスリはすぐには答えずに考えながら言った。この仕事を思った以上に不満に思う者たちが多い。少し手を入れなければ気がつかないうちに大きなミスをしてしまう可能性があった。

「ビズラ隊かバルザルリ隊に動いてもらえばいいんですよ。奴らがどこかで標的を大けがしない程度に挑発して、追い詰められたネズミが反撃しようと動いたところを証拠に捕まえる。理由さえあれば、カエサルを守っているくそったれなアウレリウス・コッタも文句言えなくなるってことでしょ。」そう言っていやらしく笑ったハイラスを見てヘスリも笑みを浮かべた。

瘦身の若者は、自分を見張っている者たちがいることに気が付いていた。

はじめはこっそりと遠くから見張られていた感じだったが、最近では隠れることすらしなくなってきて雑な見張りになっているのだ。

あからさまにプレッシャーをかけてきているのかもしれない。

しかし瘦身の若者は違った。自分が人気者だから仕方ないと思っていたのだ。

常に一緒にいるダインとジジのほうは気が気でなかったが主人が気にするな、というのでできるだけ気にしないようにしていた。


自分を見張っているのはドラベッラの手のものだろう、と推測していたカエサルは、先んじてキロとエセイオスたちには伝えてあり接点を持つことを当面辞めた。それでもエセイオスからはさまざまな方法で情報が贈られてきたのだ。例えば今日会う女の子の家にカエサルが行ったら、その家の部屋の中に手紙が置かれているといった具合に。

そこでカエサルを見張っているのがドラベッラの部下ヘスリ隊であることを確認できていた。

カエサルは笑いながらそれを読み、証拠を消す。

状況はわかった。しかし反撃の糸口は見いだせていなかったので、当面カエサルの弁護士事務所は開店休業のような状態にして、遊び歩くことにした。

カエサル自身気を落ち着かせることができるし、楽しい。女性たちからローマのさまざまな情報をもってきてももらえる。そしてヘスリ隊を苛立たせるにも最高なのだ。

そんなことを考えると、最近忙しくて会っていなかった友人たち、特に女性たちとの交流を深める良い機会を最大限楽しむことに決めて、足取りも軽くなっていった。


その日は女の子を3人、それから昔からの市内に住む友人を連れて剣闘士の見世物を見にいった。ローマ市内にある剣闘士場に足を運んだ。

相変わらず剣闘士の見世物は人気である。来るたびに人が増えている気がしてならない。

今日は人気の剣闘士が戦うと宣伝もされていたので、カエサルも楽しみにしていた。

剣闘士は街で人気の職業であり、元ローマ軍の兵士もいる。彼らは経験を重ねて技術を取得しており腕が立つ。

また奴隷の剣闘士もいる。戦争で奴隷になって体格が良いことを見込まれて奴隷剣闘士になるものが多いが奴隷剣闘士は技術的には未熟なことが多い。しかし死に物狂いで戦うことが多いのでその姿が職業剣闘士にはなくて人々を熱くさせるのだ。

2年ほど前にドラベッラがマケドニア属州に攻めてきた蛮族を撃退した闘いで奴隷に落ちたゲルマンの大男たちやトラキアの蛮族の男たちが大量に入ってきていた。その中で成長して剣技、肉体ともに優れた奴隷剣闘士がいて、着実に人気ものばしているとヌスパが言っていたので、いつも以上に楽しみにして見に来た。

剣闘士場に入り、観客のどよめき、歓声をうけてカエサルが仲間たちとともに眼をやると、

剣闘士場から逃げようとしたゲルマンの大男が、さっそうと現れた他の職業剣闘士に斬りつけられて抑えられたようだった。まれにあるドラマチックな出来事に観客たちがざわめき、職業剣闘士に賞賛の声があがった。

今日はいつも以上に楽しそうだ、と思ったカエサルは、うわさのトラキアの人気奴隷剣闘士が出てくるのを待った。ヌスパが絶賛するほどだ。さぞ強いのだろう、と思っていたのだが実際に出てきたトラキアの人気奴隷剣闘士は、顔つきも良く、全身を鍛えられていたことはわかったが、ヌスパが絶賛するほどのものでもないと思った。覇気をあまり感じなかったのだ。

なんとか闘いに勝つことで人気奴隷剣闘士は頭を下げて去っていったが、観客も彼の覇気のなさを感じたのだろうか、歓声も拍手も人気のある剣闘士のものではないまばらなものだった。

それでもカエサルの仲間たちは剣闘士の見世物を十分に楽しんだようで、女の子たちは色めき立ち、いつも落ち着いている商店を営む友人も興奮気味で会場を後にする。


帰り際、まだ人通りも多い店が並ぶ大通りを避けて、狭い路地を通り抜けて歩きながら剣闘士たちの話でもりあがっている仲間たちの前に、何人もの男たちが迫ってきていた。

ヘスリ隊に見張られながら、その日を楽しんでいたカエサルたち。

ヘスリ隊はカエサルが遊んでばかりいることにしびれをきらしてきた。

そんななかで、剣闘士の催しを見に行ったカエサルたちに迫る黒い影とは?

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