プラタリオの新主人
大事な訴訟を前にして懸念事項だった
プラタリオの経営をアッティクスに任せることにしたカエサル。
プラタリオを支えている2人の女性と会う。
アレミアは珍しく不満げだった。
ヌスパはアレミアの機嫌がどんどん悪くなるのを感じた。
百戦錬磨の剣闘士は空気を読み静かにしていた。
その二人の前で固まったような顔面蒼白のアッティクスが座っている。
「で?」
アレミアは、一言に恨みを全て込めるような声で疑問を出した。
いつその場で泣き出しても逃げ出してもおかしくない状態のアッティクスがその場に居続けられたのは、精神が強靭だったわけではない。
ただベテランの娼婦の迫力に負けて立てなかったのだ。
恐ろしい沈黙が続き、美しい娼婦のイライラとしながらテーブルを叩く音だけが響いていた。
そこへ皆が待っていた救世主が登場する。
「遅くなってごめん。」
と言いながら入ってきた痩身の若者は、笑顔で部屋に入ってきて3人を見まわしながら空いている椅子に座った。
すでにいた3人が仲良く話をしているかと思いきや、空気が悪いことを察知したカエサルは、全員を見ながら笑って言った。
「さて、プラタリオを支えている2人に、これから二人を支える仲間を紹介しよう。」
大げさに存在をアピールするように、アッティクスを紹介した。
「アッティアの子アッティクスだ。彼の父の名前が2人ともはローマでかなり規模の大きな店をいくつも運営している。アッティクスはそれを見て育った経営をよく知る男。様々な経験をもってアレミア、ヌスパ、君たちを助けてくれるだろう。今回私が彼に依頼をしてプラタリオの経営全般を見てくれるように依頼し、彼から快諾してもらったんだ。」
大げさに話を盛り、カエサルが経営をアッティクスに依頼したことをアピールしながら笑顔で言うカエサルに対してアレミアはあきれながら言った。
「カエサルさま。私たちの仕事を簡単なことだと思っていらっしゃるんですか?」
丁寧だが厳しい口調だった。
「いや、大変な仕事だし大切な仕事だと思っているよ。」
カエサルは素直に答える。
「大切な仕事だからこそ、仕事を任せられる信頼できる
仲間が必要なんだ。」
アッティクスが頷く。女性二人は動かない。
アレミアが美しい眼を二人に向けて言った。
「そうですね。信頼できる仲間が必要です。」
信頼を協調しながらカエサルを見た。
「ああ、今一緒にいるアッティクスは信頼できる人物だ。君たちの力になってくれるはずだ。」
カエサルの自信にあふれた言葉に誰も反応しなかった。
カエサルは3人を見まわしながら言った。
「さてさて、私が来る前に何かあったのかもしれないが、これじゃあ話も続かないな。
アッティクス、何があったんだろう?」
「・・・・・」
「ごめん、よく聞こえなかった。」アッティクスが口を動かすのは見えたが何も音が聞こえなかった。
「いいかげん人に聞こえる声でしゃべりなよ。ぼっちゃん。」とアレミアが言う。
静かにヌスパが同意した。カエサルは首を傾げた。
「来た時からずっとこんな感じなんだよ。何もわからない。そりゃいらつくわよね。」とアレミアが言った。
後から聞いた話によると、アッティクスがプラタリオに入ってきて最初、威勢よく「カエサルと待ち合わせ」と
いうところまでは聞き取れた。受付をしていた奴隷と話をして、アレミアとヌスパが待っている部屋に通される
とアッティクスの勢いは続かず、頭を下げて部屋に入り何かぼそぼそと2人にはわからない小声でしゃべるだけ
だった。
すでにアッティクスと会ったことがあるヌスパが機転を
聞かせていろいろとフォローしたが、アレミアの初見の
印象は最悪だったのだ。
結局ヌスパが椅子にアッティクスを座らせてただ
ひたすらカエサルが来るのを待つことになったらしい。
そのあとも結局、アッティクスがうまくしゃべれるよう
になるまでカエサルとヌスパが補助をしつづけた。
アレミアはカエサルの前だったが冷ややかな表情になり
空気は最悪だった。
それでもアッティクスがなんとかしゃべれるようになり
会話が成立するようになった。
アレミアもカエサルとヌスパがフォローしているのを見
てため息をもらしながらも、アッティクスの話を聞き、
自分の考えている意見を言うようになった。
結局、長い時間をかけてアレミアもアッティクスが
カフェ・プラタリオの世話をすることを承認した。
条件付きではあったが。
その条件とはアッティクスは1週間以内に働く女の子
たち全員と話をして彼女たちを知ること。
そしてカエサルも定期的に様子を見に来ることだった。
カエサルは心外そうにいう。
「私はいつも来ているじゃないか。」
「そんなことありませんよ。前に3年ほど来なかった
ときがありましたからね。」
「それはスッラに追われて遠くアシアのほうまで逃げ
ていたからじゃないか。仕方なかったんだ。」
ぼやくカエサルにかぶせてアレミアが言う。
「今度はそういうこともないようにしてください。」
と言い合うアレミアとカエサルを見てアッティクスも
だいぶ気が緩むのを感じた。
ヌスパもやっと少し肩の荷が降りた気持ちになった。
丸一日をかけてプラタリオの新しいオーナーとして
アッティクスがなることを認めることになったのだ。
それから勢いがついたアッティクスは動き続けた。
3日でアッティクスは頑張ってプラタリオで働いてい
る女の子たちとも話をし終える。そして店を支えてい
る男性陣たちとも話をした。最初はぎこちなかったも
のの慣れてくると少しずつスムーズになり、相手の
いうことを真剣に聞こうとするアッティクスを皆が
少し認めてくるようになってきた。
男たちはアレミアに気圧されるアッティクスを話で
聞いていたので気の毒に思い、やさしくしてくれた。
アレミアもアッティクスのことを少し理解してきた。
ひ弱だししゃべるのもうまくないが、女性への敬意をもっ
ており、なんとかしたいと思う気持ちがあることも分かっ
たたので厳しいは言ったが、丁寧に教えることもした。
カエサルもさすがに心配して常に状況を伺っていたが、
アッティクスが来てから数日後に、アレミアとヌスパの
両方から聞いた。
プラタリオは徐々に良い方向に向かうだろう。
そう確信したカエサルは安心して訴訟の準備にとりかかる
ことにした。
プラタリオの経営を任せることができたカエサルは
最も力を入れるべき初めての訴訟に力を入れることを決めた。




