番外編 共に茨の道を
1週間後ートパーズの邸宅へと足を運んだ四人。
「『産業革命の遺産』の話となれば、お忙しいお父様でも時間を作ってくださると思っていましたわ」
重厚な執務室でトパーズが切り出すが、インペリアル氏は険しい顔で首を振る。
「しかし、見つけてどうするつもりだ。怨念と化し、手をつけることすら危険な遺産もあるんだぞ。」
「それでも解放してあげなければ、また新たな被害者が出てしまう! 今回はお互いが新月のタイミングだと分かっていたから入れ替わりが成功しましたけれど、普通なら連絡すら取れないんですよ!? 魂を返してあげるしかないじゃないですか!これはインペリアルである私たちの使命です!私には実績があります!」
喰ってかかるトパーズの横から、ローズとサファイアが静かに前へ出た。
「インペリアル様、これは私たちが作ったグローブです。『死者から守りたい』という気持ちを込めて作りました。私たち二人にも、後方支援をさせてください!」
「ローズ、サファイア、これ……っ」
インペリアル氏が受け取ったのを見たトパーズ、レース編みのグローブだった。 二人がこの一週間、ずっと作業していたのはこれだったのだ。
「うん。サファイアと相談して魔法陣になるように糸を組んで、サファイアが作った図案を元に、私が編み上げたの。桃が置いていってくれたかぎ針……あの、桃と蒼たち四人が初めて魂を返してあげたときのかぎ針で」
ローズは手元のかぎ針をぎゅっと握りこの場にいない2人を思い呟く。
「向こうにいた時も、僕たちは陣を込めながらハンカチやスカーフを作っていたから、その応用だよ。死者の怨念への耐性なんて調べたことがなかったから大変だったけれど……まあ、僕らにできるのはこれくらいだから。でも、手伝わせてください」
サファイアは真っ直ぐにインペリアル氏を見つめ、静かに深々とお辞儀をした。
「これは……学生の君たちが作ったとは思えないほどのできだ。友人であるトパーズを想う気持ちが、ひしひしと伝わってくる。……ありがとう、危険を冒すことは賛成できんが、この想いと防具はありがたく受け取ろう」」
いい友人を持ったな、とインペリアル氏は優しく目を細めた。
「そしてお父様。彼を私に同行させますわ」
トパーズが、ルビーの背中をすっと前に押し出す。
「なっ……!? こんな危険なことに、一般人を巻き込むつもりかトパーズ!! ダメだ、絶対に許さん! 「オレが!!!オレが引き込まれそうになった時に止めます!!」
激怒するインペリアル氏に対し、ルビーも一歩も引かずに叫んだ。
「オレとトパーズはテレパシーが使えます! 向こうに引っ張られる前に、絶対に止める人間が必要なんです! 危険だと分かっていても、こんなこと一人でやらせられません!」
インペリアル氏はルビーの肩を強く掴み、そのまま正面から見つめ返した。
「私の従者を連れ出せばいい! 当然だろう、これはインペリアル家が背負わされた責任だ! ただの一般人に……子どもに……そんなことをさせられるわけがないじゃないか。……分かってくれ、ルビー君」
説得するように語りかけるインペリアル氏の、肩を掴んでいた手の力が徐々に抜けていく。
「……ふぅ……わかりました、お父様。ルビーが一般人で、大切な国民で、守るべき対象だからダメなのですね……」
トパーズは俯き、ぽつりと呟いた。
「……分かってくれたか」
「はい。ですから——」
トパーズはコツコツと堂々とした足取りでルビーの前まで歩み寄ると、制服の裾をふわりとなびかせ、実に見事な作法で片膝をついた。
「ルビー・クリムゾン。わたし、インペリアル・トパーズと婚約しなさい。インペリアル家に入り、わたしを支え、共に茨の道を歩みなさい」
「「「「は?」」」」
「なっなっ何を言うんだトパーズ!? まだ学生じゃないか!?」
インペリアル氏は顔面蒼白で激しく慌てふためいた。
慌ててサファイアの手を引き、後ろへと下がるローズ。彼女はサファイアの耳元にこっそり囁いた。
「面白くなってきましたよ、サファイアさん!! ここは傍観者と決め込みましょう!」 「あぁ! そうだな!」
二人は小声でささやき合いながら、すーーっと部屋の奥へと身を隠すように離れていく。 一方、片膝をつかれ、その手をしっかりと添えられているルビー。
「…はぁ?…へぇ……??」
真っ赤な顔をして一歩身を引くルビー、頭の上には疑問符と直球すぎるトパーズの気持ちとで完全に混乱している。
「っ! トパーズ! ルビー君を見なさい! 彼の気持ちも考えたらどうなんだ!?」
見かねたインペリアル氏がルビーの様子を窺いながらトパーズを叱り飛ばす。
「いいえ。彼の心はすでに私にあるわ」
トパーズは微動だにせず、真っ直ぐにルビーを見据えた。
「もう一度言うわよ。ルビー・クリムゾン。わたしを愛し、わたしといついかなる時も一緒に歩みなさい。わたしはあなたを愛しているし、ルビーも同じはずよ。あなたを永遠に愛することを誓うわ」
そう告げると、トパーズはひざまずいた姿勢のまま、自分のロッドを出しそこについている黄金の魔法石をキュッと両手で掴んだ。ふわりと淡い光が灯ったかと思うと、その魔法石は鮮やかな指輪へと姿を変える。
「拒否……なんて、しないわよね? ルビー?」
逃がさないと言わんばかりの瞳で見つめられながら、トパーズはルビーの薬指にすっとその指輪をはめた。
「……ぁ……っ……はぃ………」
いつもの威勢は完全にどこへやら、ルビーは耳まで真っ赤に染め上げながら、蚊の鳴くような声でやっとの思いで返事をした。
「……っオレが言うはずだったのに……」
恥ずかしさや先を越された悔しさや大勢の前でと様々な思いがルビーの中でごちゃ混ぜになり目を瞑り目の端に何の感情かわからない涙が光る。
「……もう、何も言えんよ……ただ一つだけ条件がある、魔法科に通ってくれ、ルビー君。そうでもしないと同行なんて危なくてさせられないぞ…もちろん従者も連れて行け……」
インペリアル氏はこめかみを抑え、半ば諦めきった呆れた声を漏らした。
「…あっ……でもオレ魔力低「もう低いわけないだろう、トパーズとテレパシーまでできて、ルビー君の魔力は入学時より上がっているよ」
ルビーの言葉を遮ってインペリアル氏が説明する。
「そうよルビー、わたしと一緒に同じ波長をずっと受けてるのよ低いわけないわ」
「…つっ〜〜………………」
真っ直ぐと見つめられたままのルビーは目を瞑るしかできなかった。
「ルビー殿、顔が真っ赤ですよ!!」
「普段あんなこと言わないトパーズが言ったんだ、そりゃあんな風になって当然だろ」
「でも普通、逆じゃないですか!?」
「こういうのもアリだろ、今どき」
ここまでお付き合いいただき、本当にありがとうございました!
トパーズとルビーの本当の茨の道はここからです。
ローズとサファイアはこれからもひと針ひと針丁寧に2人を思いながら作業を続けていくことでしょう。
感想やメッセージやトパーズパパへの胃薬などがあれば、X(旧Twitter)でお気軽にお寄せください!
https://x.com/yxhn5g?s=11




