そらとぶたこ
凧は空を飛ぶものだ。
だが、それが蛸であれば、そんなわけがない、ほとんどの者がそういうだろう。
夕方にほど近い昼間の時間。
少年は見た。
まるで水中を泳ぐかのように蛸が宙を泳いでいるのだ。
あまり泳ぎは得意ではないのか、水中ではなく空中だからなのだろうか、その蛸はもがくように空中を漂っている。
すいーと泳ぐわけではなく、その八本もある脚をばたつかせている。
少年からすれば訳の分からない状況だ。
何故そんなものがいるのか、しかも空中に浮いているのか。
はじめは何かの映像かとそう考えた。
少年の知らないテクノロジーでホログラムか何かと。
だが、そういうわけでもないようだ。
その蛸から生臭い臭いが漂ってくるし、粘液だろうか、粘ついた液体が地面にまで滴っている。
少なくとも実物がそこにあるのだと少年には思えた。
だとすると、この蛸はなんなのだろうと、少年は考える。
その結果、宇宙人ではないのか、そう思い当たる。
そうでなければ蛸が宙を飛ぶはずがない。
少年が蛸に向かい、あなたは宇宙人ですか? と、大きな声で呼びかける。
返事の代わりに真っ黒な墨を吹きかけられる。
真っ黒な墨が少年の顔に、まるで水鉄砲のように吹きかけられる。
ツーンとした薬品のような嫌な臭いが少年を襲う。
少年がそれをぬぐって視界が戻ると、空を飛ぶ蛸はいなくなっていた。
空飛ぶ蛸の被害にあったのは少年だけではない。
何人もの子供が被害にあっており、空飛ぶ蛸を見かけたらすぐに逃げないと墨を吐かれる、なんて噂が立つほどだ。
ついでに墨を吐かれた子供は熱を出し寝込む。
その後、墨を吐きかけられたうちの何人かは、まるで人が変わったかのように無感情な子供になるという話だ。
もしかしたら本当に宇宙人だったのかもしれない。
それにしても空を飛ぶ蛸など意味が分からない。
そらとぶたこ【完】




