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それなりに怖い話。  作者: 只野誠


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はやいちゅうしょく

 女は在宅で仕事をしていた。

 その日は、珍しく正午から予定が入り、少し早めの昼食をとることにしていた。


 午前十一時過ぎに台所へ行き、昼食の準備を始める。

 大した物もないし、それほど時間もない。

 昨日の残り物を温めて、後はパンでも、と昨日のおかずを電子レンジで温める。


 台所におかずを温めた匂いがしてくる。

 少し温めすぎたのもあり、電子レンジにしては匂いが台所中に満ちてきてしまう。


 女は慌てて換気扇を回す。


 そして、おかずを電子レンジから取り出し、代わりにパンをトースターに入れて焼き始める。

 温めたおかずをつついていると、急に声を掛けられる。


 台所の窓からだ。

 確かに通りに面している窓だ。

 だが、そこから声を掛けられたことは初めてだったため、女は驚く。

 ついでに掛けられた言葉は、あら、もうお昼なの? という言葉だった。


 女は、え、はい、お昼から用事があるので今日は早く…… とつい答えてしまう。

 台所の窓は曇り窓で、そこには人影が覗き込むように映り込んでいる。


 失礼な相手だな、と女は思いつつ、気が付いてしまう。

 この台所の窓は、外の通りからは高いところにあり、人には覗き込めるような場所についていないことを。


 女はご飯を食べる手を止めて、窓ガラスに映りこんでいる人影を見てしまう。

 黒い人影だ。

 窓を覗き込んでいるのが辛うじて顔だともわかる。

 それだけに女は恐怖する。


 誰ですか? 女は震えつつも聞き返す。

 答えは…… 返ってこない。


 その代わり、曇りガラスを手でコンコンとノックし始める。


 女が恐怖で震えだした時、チンッと音を立てて、パンが焼きあがる。

 その音に女はトースターの方を反射的に見てしまう。

 すぐ視線を曇りガラスに戻すのだが、そこには人影はもうなかった。


 窓を開けるのが怖かった女は、玄関から顔だけ出して通りの様子を見るが、そこには誰もいなかった。

 女はブルブルと震えながら、仕事部屋へと戻り、正午からの予定に備えることにした。


 台所には焼き上がり、そのまま放置されたパンがあったはずだが、いつの間にかそれは消えていた。

 そのことに女が気づくことはない。



 



はやいちゅうしょく【完】

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