いけのこい
少年の家は裕福で大きな庭があり、そこには立派な池もある。
池には鯉がいっぱいいて、優雅に泳いでいる。
そんな鯉のうちの一匹が、池の縁から顔を出して、口をパクパクさせていた。
それを見た少年は鯉が何か求めているんだと、そう思い鯉の元へと走り寄った。
少年は鯉の前にしゃがみ込む。
池の縁にある黒く大きく平たい石の上に、鯉は身を乗り出し、水中から顔を出して、口をパクパクさせている。
大きな鯉だ。
金色の鯉だ。
とても立派な鯉だ。
そんな鯉に向かい少年は、どうした? 餌が欲しいのか? と声を掛ける。
返事が返ってこないのは少年にもわかり切っていたことだった。
のだが、その時は返事が返ってきた。
少し間延びした声で、発音は悪いがちゃんと人の言葉で、今は餌はいい、と、確かに鯉はそう言ったのだ。
少年は驚く。
それで尻もちをつく。
少年が呆然と鯉を見ていると鯉は更に、少し池の水が冷たい、どうにかならぬか? そう言ってきたのだ。
池の水が冷たい、そう言われた少年は、お湯を注げばいいですか? と聞き返す。
すると鯉は、そんなことをされたら死んでしまう、と言う。
じゃあ、どうすれば、と少年が迷っていると、鯉が答える。
大人に伝えてくれ、と。
少年は頷き、おずおずとその場を後にする。
そのことを少年は父親に伝える。
すると、父親はものすごい笑顔になる。
そして、少年に言うのだ。
おまえが会った鯉はうちの守護神だ。その要望を叶えることでうちは栄えて来たんだ。早速池用のヒーターを用意しないとならないな。
父親は本当に嬉しそうにそう言った。
実際、すぐに池用のヒーターが設置された。
それから少年の家が栄えたかどうか、少年には分からない。
だが、父親の羽振りが良くなったことだけは事実だ。
それから数年して、少年はまた池の縁に金色の鯉がいるのを目撃して、鯉に会いに行く。
そして、鯉は言うのだ。
腹が減った。人が食いたい、と。
少年がそれを父親に伝えても、父親は笑顔のままだった。
いけのこい【完】




