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それなりに怖い話。  作者: 只野誠


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くもりのゆうがた

 その日は曇りだった。

 空はどんよりとした雲に覆われ、夕方になっても空が赤く染まることもない。

 世界は灰色に閉ざされていた。


 少女はそんな空の下、学校から家へと帰っていた。


 委員会があり、帰宅するのが遅くなった少女は、灰色が濃くなり、黒へと、闇へと変わっていく世界をなんとなく眺めていた。

 濃い灰色に染まる黄昏時だ。

 黄金色に世界が染まることなく、ただただ世界は、色を、光を失っていく。


 そんな時間帯の帰り道、少女の目の前に人影が立っている。

 黒い人影だ。

 それは物陰にいるが、周囲のものは色を完全に失っていない。

 人影だけが完全に色を失い真っ黒なのだ。

 そんな黒い人影が道の脇に佇んでいる。


 黒い塊のような人影に少女は驚く。

 その道を進もうか、戻ろうか、迷う程度には、その人影は異様だった。


 その人影はボソボソと何か独り言のようなものを喋りながら、フラフラと立っている。

 本当に黒く凹凸すらあるのかもわからない。

 太陽自体が雲に隠れているので逆光で見えない、ということもない。

 

 もう人影というよりは影が立ち上がっているように、そう思えるようなそんな存在だ。


 それを見て思わず立ち止まってしまった少女は、後ずさりをし始め、振り返りその場から逃げるように走り出す。

 だが、その行為が黒い人影を刺激してしまったのかもしれない。


 走って逃げ出し始めた少女のすぐ後ろから、ボソボソとあの人影が漏らしていた独り言が聞こえ始める。

 その独り言はどんどん大きくなっていき、少女にも聞き取れるようになる。


 タスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテ、タスケテ、ヤミニノミコマレル。


 そんな内容の独り言は次第に大きくなり、少女の耳元で繰り返される。

 少女は耐えきれずにその場にしゃがみこんで耳を手で抑えて泣き出す。


 ヤミニノミコマレル、ヤミニノミコマレル、ヤミニノミコマレル。


 一人ではない。

 ボソボソとした呟き声なのに、無理やりスピーカーのボリュームを上げたような大音量で聞こえてくる。

 少女もその声が聞こえないように、大きな悲鳴を上げる。

 その瞬間、プツリと呟き声が聞こえなくなる。


 急に静寂が訪れる。

 少女が恐る恐る周囲を確認すると、完全に日が落ち、辺りは闇に包まれていた。

 黒い人影は闇に飲み込まれ、消えていた。


 少女は闇の中に身を潜め、泣きながら家路へと着いた。


 少女の帰りが遅いと思っていた母親が、少女が泣きながら帰ってきたので、玄関で出迎えると、玄関の照明に照らされるように、真っ黒な人影が少女の背後に立っていたという。

 真っ黒な人影で、その人相もわからなかったが、母親はその人影がニヤニヤと笑っていたように感じたという話だ。


 その黒い人影も少女が家に入ると、周囲の闇に溶けるように消えていってしまった。


 それからだ。

 少女の家で、稀にボソボソと誰もいないところから独り言が聞こえだしたのは。







くもりのゆうがた【完】

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