ぬかるみ
少年が舗装されていない道を歩いていると前方に泥濘を見つける。
柔らかな地面は、歩くとどこか気持ち悪い。
歩くごとに足が泥に沈む。
まるで粘土の上を歩いているかのような感覚だ。
少年が踏みしめた場所から、柔らかい泥があふれ出てくる。
そして、靴に泥水がしみ込んでくる。
少年は前を見る。
ぬかるんだ道はしばらく続いている。
別にこの道を通らなければ家に帰れないわけではない。
だが、今日はなんとなくこの道を通って帰りたかったのだ。
雨が降ったわけでもないのに、この道がこんなにもぬかるんでいるとは知らなかったが。
数歩、泥濘を歩いたところで、少年は考える。
このまま道を進むか、別の道を通って家に帰るか、を。
既に靴は泥まみれだ。
それだけで母親に怒られることは確定だ。
なら、いっそのこと、もうこの泥濘の道を進んでしまってもいいのかもしれない。
少年はそう考えて、泥濘の道を進む。
少し進むと大きな水たまりができている。
泥で濁った茶色い底の見えない水たまりだ。
雨も降ったわけでもないのに、なぜこんな水たまりができているのだろうと、少年は考える。
その間も少年は歩みを止めずに、水たまりの中へと、すでに泥で汚れ切っている足を踏み出す。
水たまりは想像以上に深く、少年は足を取られる。
危うく転びそうになるのを何とか避け、バランスを取り、水たまりの中で踏みとどまる。
強く足を踏み出してしまったため、少年の足は水たまりの中で泥の中に深く埋まる。
少年が足を戻そうとするが、足は泥濘にとられ、あげることができない。
バシャバシャと水たまりの水面を揺らしていても、余計に足が泥濘にはまっていく。
少年がどうしよう、そう思っていると、辺りが茜色から夕闇へと変わっていく。
いつの間にか夕方が終わり、夜がやってきていたのだ。
少年は慌てて力任せに足を引き抜く。
すると、少年の履いていた靴だけを残し足が抜ける。
少年は水たまりの中に靴だけを残し、道を引き返してぬかるんだ道を走り去る。
後日、少年がその道を通ると、泥濘も水たまりも無くなっていた。
ただ、少年の靴がなぜか岩の隙間に咥え込まれるかのようになっていたのを見つけた。
泥濘に足を取られた時、岩の感触などまるで感じなかったのにだ。
靴は半ば岩に同化していて取り出すこともできなくなっていた。
ぬかるみ【完】




